540話 聖都セレスティア61
蒼龍との結婚を機に紺馬は蒼龍と相部屋となった。だが、今はその部屋のベッドは紺馬が占有している。
「ワタシ大丈夫だから蒼龍もベッドで寝なよ。」
「いや、緑鳥も言っていただろう。身体の機能の一部が失われたのだ。その状態に身体が慣れるまでは安静にしておいたほうがいい。我はソファで寝るから安心せよ。」
蒼龍がそう返すも紺馬は納得しない。
「でもそれじゃ悪いって。ソファで寝てたら疲れ取れないだろ。ついこの前迷宮から戻ったばかりなんだ。しっかり休んだ方がいいって。」
「お前が言うな。今しっかり休むべきはお前の方だ。我のことは心配するな。少し寝ろ。緑鳥が言うには5日後の帝国開国祭までには身体も落ち着くだろうとの事だ。今は何も考えずに休むことに専念しろ。」
「わかったよ。休んでればいいんだろ。」
そこまで言われて尚も食い下がる紺馬ではない。少しふくれ面で返答する。
「うむ。我は少し新しい槍に慣れる為に外に出てくる。ちゃんと休めよ。」
「わかったって。気をつけて行ってきなね。」
「うむ。行ってくる。」
こうしてあてがわれた部屋を後にした蒼龍。
外に出る前に立ち寄った食堂では紫鬼が1人唸っていた。
「どうした?紫鬼?」
「んぁ?蒼龍か。いやな、今回の迷宮で新しい手甲を見つけたじゃろ。でも今までの手甲は使用者の意図をくんでプラスマイナス10kgの重さ変動が出来たんじゃ。素早く殴りたい時は軽く、攻撃力を上げたい時は重くって感じで使い分けしとったんじゃ。じゃが今回手に入れた河童の甲羅の手甲の方が強度は上だと言うではないか。強度が高ければその分威力も高かろう?となるとワシはどっちの手甲を身に着けるべきか悩んでおったのじゃ。」
新旧の手甲を並べて吟味する紫鬼。
「む?強度が上なら河童の甲羅の手甲にすれば良かろう。」
「それはそうなんじゃが、重さが変わる手甲の方も重宝しとったんじゃよ。河童の甲羅の手甲の方は水に浸けたら自動修復する機能しかなかろう?となると攻撃手段としては重さが変わる手甲の方が色々と可能性が広がるんじゃなかろうかと、な。」
今まで身に着けていた重さの変わる手甲を手に取り眺める紫鬼。
「難しく考えるな。性能が良い方の武具に替えるのは当たり前の事だ。特に手甲ならば強度が高い方が性能が良いと言うことだろう。」
「そうかのう?やはり蒼龍としては新しい方を推すか。」
「うむ。強度が高いと言うことはその分威力も高いのだろう?悩む必要はないではないか。」
「そうか。では新しい方にするか。」
「うむ。そうしろ。我は外に新しい槍の性能確認に行くが紫鬼も来るか?」
「んぁ?そうじゃな。新しい手甲にも慣れておく必要があるな。よし、一緒に行こう。」
席を立つ紫鬼。
「うむ。では参ろう。」
蒼龍を先頭に2人は神殿を後にする。
向かうは西の森。黒猫達の向かった迷いの森の手前だ。強い魔物は寄りつかないがゴブリンやオークなどはたまに湧く。それに魔獣も生息しており簡単な武具の性能確認ならちょうど良い。
こうして2人はともに出掛けるのだった。
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「ヨッシャ!遂にワイも王化3時間継続達成や!」
聖都から見て東の荒野で藍鷲とともに王化時間の延長のための特訓をしていた朱鮫が声を張り上げる。
「あ、おめでとうございます。遂に朱鮫さんも条件クリアですか。」
「あぁ。長かったでぇ。ワイがいっちゃん合流が遅かったからなぁ。でもそれで言うたら藍鷲殿の方がゲートの目印設置で王化継続時間を伸ばす訓練はワイより遅かったやろ?なのになんでワイより早う3時間の壁に到達しとるんよ。」
「はははっ。多分ですが僕の方がゲートの魔法を使うために王化する機会が多かったからじゃないですかね?思い当たるのはそれくらいなので。」
「なるほどなぁ。王化しとった回数か。確かに藍鷲殿はゲートの魔法使うんに人より多く王化しとったもんな。」
納得したように朱鮫が言う。
「ほんで藍鶖殿の魔力量の底上げ言うんは順調なん?」
「えぇ。魔力欠乏性になるまで限界量の魔力を消費する事で次に回復する時にはそれまでより全体魔力量が増えるんです。ただ魔法を放ち過ぎたおかげでこの辺り一帯の地形が変わってしまいましたが。」
確かにそれまでは聖都の東にはこの様な荒野はなかった。すべて藍鷲の魔法により木々が吹き飛び、丘陵が消し飛び、魔獣も寄りつかない荒野が産まれた結果である。
「藍鷲殿の魔法は大規模やからなぁ。まぁ多少の地殻変動なら気にせんでええやろ。どんどん魔法撃ちなはれ。」
「ですかね。あ、でもおかげさまで魔法30発以上連続使用可能になりました。これで次の甲蟲人侵攻ではもっと蟻型甲蟲人の足止めが出来ると思います。」
「せやな。いっつもだいたい一万程度の蟻型甲蟲人がおるからな。藍鷲殿の魔法でかなりの数が減らせとるはずや。頼りにしとるで。」
「はい!頑張ります!」
手にした短杖を握り込みながら藍鷲が元気よく返事をする。
「さて、今日はそろそろ戻ろうか?王化の訓練が終わった言うことは次は神器化の特訓や。全く特訓ばっかやな。」
「仕方ないですよ。相手はあの邪神です。僕も姿は見てませんが圧倒的な力を感じました。あれに対抗するにはまだまだ力不足感は否めません。」
「そこまでかいな。せやな。もう一踏ん張りや。」
「ですね。」
こうして2人は聖都へと戻っていくのであった。




