539話 聖都セレスティア60
一方その頃、聖都では翠鷹と茶牛がなにやら話し込んでいた。
「せやから最初の頃はガシッて感じで装着されとったんが、最近はカシッて感じなんよ。」
「すいの腕の振りにバネがイカレ始めたかなぁ。どれぇ。ちょっと見せてみろぉ。」
翠鷹の右腕の義手を検分する茶牛。
「んー。タキオンスラストは何発くらい打っただぁ?」
「試しに10発程度、この前の甲蟲人化した邪神教徒相手に2発やな。」
「そうかぁ。んー。やっぱりバネが弱まってるかもしれないなぁ。このペースだと20発も打ったらバネが伸びきっちまうこもしれないなぁ。」
義手を検分しながら茶牛が言う。
「そんな。20発やて?もうすぐやんか。どないかならんのん?茶牛はんならどうにか出来るんちゃいますのん?」
「あぁ。一応こんな事もあるかとは思って替わりのバネのストックは大量に作ってあるから大丈夫だぁ。何があるかわからないから次の甲蟲人侵攻が来る前に1回バネ交換するべぇ。」
「あ。替わりがあるんやね。流石は茶牛はんやわ。準備万端やんか。」
「褒めてもなんも出ねぇぞぉ。儂も職人だからなぁ。自分が作ったもんには誇りがあるべぇ。きちんと使えるように準備しとくんも必要だぁ。」
検分を終えた茶牛が言う。
「ほな、次の侵攻前にバネ交換お願いするわ。その前に伸びきらんように注意するわ。」
「だなぁ。まぁ早々右腕を酷使する状況もないべぇ。また邪神教徒が攻めてきたらわからんけどなぁ。」
「縁起でも無い事言わんといてや。まぁ今やったら金獅子はん達もおるからどうにでもなるやろけどな。」
「だなぁ。」
そこへまだ十代と思しき聖女がやってきて2人に言う。
「昼食の準備が整いました。ご用が済みましたら食堂までおいで下さい。」
「お、もうそんな時間かいな。」
「儂も腹減ったべぇ。食堂行くべよ。」
「せやね。お嬢ちゃん、ありがとうね。食堂行くわ。」
「はい。お待ちしております。」
それだけ言うと聖女は去って行った。
「さぁ、今日の献立はなんだろなぁ。」
「昨日は魚やったから今日は肉ちゃいますか。」
「肉ならいいなぁ。」
そんな会話をしながら2人は食堂に向かうのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
昼食後、金獅子と銀狼の2人は祈りの間にて神器化の特訓を続けていた。
神器化は手にした武器に神通力を通して神力を纏わせる事で神をも倒せる力を発揮する。
その経緯で余剰の神通力による武具の形状変化が起こる。
金獅子の持つ大剣はグリップ(握り)部分が若干伸びてガード(鍔)部分の装飾が派手になる。
もともとガード部分は横に15cmほど伸びているだけだったのに対して神器化することでその長さは20cmほど伸び、横一直線だったガード部分が太く、刃に沿うように菱形の装飾が着く。
それにより大剣の重量は増して片手で振り回していた通常形態とは事なり両手剣らしく両手で把持する必要があった。
「ふむ。重くなるのは威力が増して良いのだろうが、両手で大剣を振るうのにも慣れておかないとならぬな。いや、むしろこの状態でも片手で持てるように筋トレするか。」
「筋トレならオレも付き合うよ。神器化した双剣は重さが段違いだからな。オレも30分間振り回す自信がないよ。」
銀狼の双剣も神器化により装飾が施された状態になっており、ポンメル(柄頭)部分に三角錐の装飾が着き、ガード部分も直線的な元の状態から菱形を刃の横に着けた様な形状に変わっている。
すでに両名共に最大持続時間の30分間の神器化を可能としており、あとはその神器を上手く扱えるようになる事が求められていた。
「くはぁ。この神器化を解いた後の脱力感もどうにかせんといかんな。」
金獅子がぼやく。
「集中力が必要だからな。どうしても神器化を解いた際には脱力感が否めないな。」
銀狼も言う。
そんな2人に緑鳥が近付いて言う。
「お二人ともお疲れ様です。精が出ますね。」
「そう言う緑鳥もすでに神器化は最大持続時間を制御しておるのだろう?」
「まぁ、わたしの場合は杖ですし、そもそもが戦闘向きではなきので神器化もどれだけ効果があるかわかりませんけどね。」
自身が手にした何の変哲も無い木の杖を見やって緑鳥が言う。
確かに聖術の制御の為に持っているだけの杖であり、武器として振り回すことはない。
そんな緑鳥に銀狼が言う。
「そこはあれじゃないか?聖術の威力?性能?が上がるとか。ヒーリングがハイヒーリング並になったりさ。」
「どうでしょう?まだ神器化してからの聖術は試してませんでしたね。休憩したら試してみます。お二人も休憩されたらいかがです?」
「そうさな。そろそろ休憩するか。」
「だな。筋トレ方法でも考えるか。」
金獅子と銀狼の2人も祈りの間を出ようとする。
「あ、休憩されるなら良い茶葉が手に入りましたの。ご一緒に紅茶でもいかがです?」
「おぉ。馳走になろう。」
「茶請けもあるといいな。」
「ふふふっ。ご用意いたします。」
そう言いながら3人は祈りの間を出て行ったのだった。




