537話 聖都セレスティア59
ミラの鑑定所から戻った俺達はひとまず全員で食堂に集まった。
迷宮からの帰り道がショートカット出来たおかげで次の甲蟲人侵攻にはまだ余裕がある。
「さて、いつも通り10日前には各地に散るとしても1週間程度は余裕があるな。」
金獅子が言う。
「ワイと藍鷲殿は変わらず王化の時間継続のための特訓やな。」
「ですね。僕は魔力量を増やす特訓もありますし。」
朱鮫と藍鷲は相変わらず特訓するとの事。
「今は何時間程度王化出来るようになったんだ?」
銀狼の問い掛けに朱鮫が答える。
「2人とも2時間半を超えましたで。ワイは2時間と50分弱。藍鷲殿は2時間と55分くらいですわ。」
「もうすぐ3時間だな。もう暫く特訓頑張ってくれ。」
「あいよ。任せとき。」
「僕も頑張ります。」
銀狼の言葉に頷く朱鮫と藍鷲。
「となればワシらは神器の特訓じゃな。」
「ですね。邪神との戦いも近付いてきましたし、神器を使い熟せるようにならないとですもんね。」
紫鬼の言葉に白狐が答える。神器か。確かに俺も神器化した武器の扱いに慣れないとな。
「神器化も大切やけど、黒猫はんはドランちゃんとヨルジュニアちゃんの面倒をみてやりや。最近ほとんど構ってやってないやろ?2匹ともどこなく寂しそうやったで。」
翠鷹に言われた。
「そうだぞぉ。ドランは聖都じゃ高く飛べないからそろそろ外に連れ出してやった方がいいなぁ。儂らも最近面倒見てるがどことなく元気がないんよぉ。」
茶牛にまでいわれてしまった。
「わかった。それじゃ俺は暫くドランとヨルジュニアを連れてまた森にでも行ってくるよ。」
「あ、じゃあ私もご一緒しますよ。」
白狐もついて来るそうだ。
「それも良かろう。たまには夫婦水入らずで過ごしてくるといい。」
金獅子が言う。
「話は変わるが近々帝国の開国祭の時期だろう?たまには息抜きがてら行ってみるのはどうだろうか?」
「そう言えばそんな時期でございますね。」
金獅子の言葉に緑鳥も頷く。
「それはいいな。たまには息抜きしようじゃないか。」
銀狼が食いついた。
「確か日程は5日後から3日間だったよな?」
「そうでございます。3日目には帝国の皇帝陛下もお姿をお見せになるはずです。」
金獅子の問い掛けに緑鳥が答える。
「甲蟲人侵攻が近いと言うのに遊んでいていいのか?」
「紺馬よ。お前も蒼龍と羽を伸ばしてこい。たまにの息抜きは重要だぞ。いつも気を張り詰めていたらいざと言うときに集中力が切れてしまうわな。」
「そう言う事ならワタシも行こうかな。」
ちらちらと蒼龍を見ながら紺馬が言う。
「そうだな。我等もたまには息抜きしようか。」
蒼龍が答える。
「それならワイらも行くで。」
「え?朱鮫さん、特訓は?」
「何言うとんねん。今たまには息抜きも必要やって話しとったがな。藍鷲殿も緑鳥殿と一緒に祭りを楽しんだらええねん。」
「え?緑鳥さんと?」
藍鷲が緑鳥を見る。
「そうでございますね。わたしもご一緒致します。」
「いいんですか?緑鳥さん?」
「えぇ。わたしもたまには政務を忘れて息抜きしとうございます。」
「な、なら僕と一緒にお祭りを回りましょう。」
「えぇ。喜んで。」
小さくガッツポーズをする藍鷲。あれ?こいつらそう言う関係だったのか?知らなかったな。
「じゃあ俺らも5日後までには戻ってくるよ。皆で一緒に帝国まで行こう。」
「祭りは帝都で行われるんだったな?藍鷲、ゲートで皆を送ってくれるか?」
「はい。大丈夫ですよ。」
金獅子が言うと藍鷲が頷く。
「よし、決まりだな。あ、でも今からだと祭りの期間は宿屋が満室かもな。」
銀狼が思いついたように言うので俺が返答する。
「そこは大丈夫だろう。な?蒼龍?」
「あぁ。祭りの期間は我が借りている借家に寝泊まりすれば良かろう。それなりに部屋数もあるしな。」
「そうか。借家があったな。それなら宿泊先は困らないな。」
「うむ。では祭りの当日、5日後に藍鷲のゲートで向かうとしよう。」
「「「「おー。」」」」
金獅子が言って皆が頷いた。
と言うわけで俺は白狐と共に4日間、聖都から見て北西に位置する森、迷いの森へとドランとヨルジュニアを連れて行くことにした。
神殿の中庭で寝泊まりしているドランはすでに体長7mほどに成長しており、今なら俺達2人を乗せても十分に飛行出来そうだ。
ヨルジュニアの方は全く大きくなっていない。エレメンタルキャットは成長が遅いのか、それともヨルジュニアが特別小さい個体なのかはわからないが、食事は毎日十分な量を食べていると聞いたので体調面は問題ないのだろう。
久々に顔を見せたらドランもヨルジュニアも尻尾をブンブン振って近寄ってきた。犬みたいだな。
「よしよーし。暫く構ってやれなくて悪かったな。」
俺は胸元に飛び込んできたヨルジュニアを抱いて顔を近付けてきたドランの顎下を撫でてやる。
「ふふふっ。やっぱり2匹ともクロさんが来ると大はしゃぎですね。」
俺達を見て白狐が微笑む。
「そうだ。お土産があるぞ。」
俺は言うとヨルジュニアを離して影収納からシーサーペントの肉を取り出した。
「グギャ!」
「ニャー!」
2匹ともシーサーペントの肉を目の前にして興奮状態だ。
肉を渡してやると一心不乱に食べ始める。
「そんなに慌てて食べなくてもいいぞ?」
「2匹にはいいお土産でしたね。」
俺の傍らに座り込んで白狐が呟く。
「だな。夜はちゃんと調理したやつを喰わせてやるからな。」
「グキャ!」
「ニャーン!」
俺達は暫く2匹が食べ終わるのを眺めていたのだった。




