534話 嘆きの迷宮24
小一時間の休憩のつもりだったが、途中で紫鬼と金獅子が腹が減ったと言い出したので、そのまま昼食にすることにした。
メニューはシーサーペントの首の肉のステーキだ。
やっぱり体力使った後は肉に限る。
炊いておいた米が少なくなってきたので、俺は魔導炊飯器に米と水をセットしてからステーキに齧り付く。
魔導炊飯器なら食事が終わる頃には炊き上がっているだろう。
さて、食事も済んで片付けも終わった。魔導炊飯器から炊き上がった米を取り出して影収納にも収めた。
十分な休息を終えた俺達は部屋の奥にある扉へと向かった。
「宝箱ありますかね。」
「もしかしてリヴァイアサンが言っていた迷宮核に繋がる扉かもしれんぞ。」
「ふむ。まぁ、開けてみればわかるじゃろ。いいか?開けるぞ。」
紫鬼が言って扉を開ける。
「あ!宝箱ですよ!クロさん!出番です!!」
目ざとく扉を開けてすぐの壁際に置かれた宝箱を指差す白狐。
扉の先は三畳ほどの小部屋になっており、奥の壁際には1隻の船が置かれている。
「船?」
「それよりまずは宝箱ですよ!クロさん!お願いします!」
銀狼が船に気付いて言うが白狐はまずは宝箱だと主張する。
仕方ない。開けてやるか。
見れば宝箱には鍵も掛かっておらず、罠の類いもない。すんなりと開いた宝箱には水色の鞘に納められた鍔木瓜土方鍔 と言う四つ葉の形の鍔が付いた小太刀が入っていた。
「来ましたね!小太刀ですよ!私にピッタリな武器じゃないでしょうか!」
「じゃな。小太刀を持つなら白狐じゃな。」
「あぁ。脇差しにちょうど良かろう。良かったな白狐。」
紫鬼と金獅子に言われて白狐は満面の笑みを浮かべる。
「あ、でも使うのは鑑定して貰ってからな。鞘から抜くのも禁止。」
「えぇー。刀身くらい見てもいいじゃないですかぁー。」
「ダメだ。下手に抜いて何かあったら困るからな。なに、聖都に戻ればすぐ鑑定して貰いに行くんだ。もうちょっと我慢しろよ。」
「わかりましたよ。我慢します。」
俺が言うと渋々と言った様子で白狐が答える。
その間にも部屋の奥に置かれていた船を調べていた銀狼と蒼龍が振り返って言う。
「なんか全員で船に乗ったら壁際のレバーを牽けって書いてあるぞ。」
「なにやらカラクリがありそうだな。後ろの扉が閉まっている事を確認しろとも書いてある。」
「扉は勝手に閉まったぞ。」
紺馬が振り返り言う。
「んじゃひとまず全員で船に乗るか。またどっかに流れて行くのかな。」
俺は言いながら船に乗り込む。
緑鳥、紺馬と続き最後に白狐も乗り込んだ。
「全員乗ったな?レバーを牽くぞ?」
銀狼が言って壁際のレバーを操作する。
次の瞬間、何処からともなく大量の水が流れ込んできた。
「な?!大丈夫か?これ?」
「お?水嵩が増えたら船が浮いていくぞ。」
確かに水が溜まっていくに合わせて船が浮き上がっていく。
どんどん水嵩は上がっていき、船も上昇する。
10分もそうしていただろうか。
船が浮かび上がっていった先にはまた三畳ほどのスペースがあった。もう水は止まっている。
ここに来るための仕掛けだったのだろう。
「何も無いな。」
船から下りながら金獅子が言う。
「いや、待て。あっちの壁が動きそうだわい。」
微かに壁の隙間から光が覗いていた。
その壁を紫鬼が押してみる。すると壁は動き、天から降り注ぐ太陽光が目に入り、眼前には地上の湖の姿が見えた。
迷宮の入口の反対側にあたる場所に出たようだ。
「なるほど。一気に地上まで運んでくれる仕掛けだったのか。」
銀狼が納得したように言う。
全員が壁から外に出ると開いていた壁が閉じて、もう開けなくなった。
「手を掛ける場所も無いな。これは内側からしか開かないようになっていたんじゃな。」
紫鬼がすでにただの岩にしか見えない出口を叩きながら言う。
帰り道専用で、一気に地下100階層に降りるための仕掛けではないのだろう。
「ふむ。帰り道の心配は不要だったようだな。」
「そうでございますね。一応帰り道を意識して地図も作っておりましたが、不要だったようでございます。」
蒼龍の呟きに緑鳥が答える。
「最下層まで結構時間掛かったから帰り道もそのくらいかかると思っていたけど、一瞬だったな。」
「マジックヘブンにあるエレベーターみたいなものでしたね。」
俺が言うと白狐が答える。確かにマジックヘブンのタワーにも一気に上階に昇る仕組みがあったなと思い出す。
結局迷宮核とやらは見ることが出来なかったな。迷宮という生き物の心臓部、ちと気にはなったがもう地上まで昇ってきてしまったので、次の機会があればお目に掛かりたいものだ。
「さて、では戻るとするか。」
「だな。帰りはワイバーンもゴブリンも出なければ2日間くらいだろう。」
「うむ。」
金獅子と銀狼、蒼龍が話している。
確かに来るときはゴブリンやらワイバーンやらに、邪魔されて余計な時間が掛かっていた。
帰り道はそれがなければ2日ほどの距離だ。
「じゃ帰るか。」
俺が言うと皆で動き出した。まずは湖の周りを回って東に向かい、頃合いを見て南下する。で、ワンズに着いたら藍鷲にゲートで迎えに来てもらう予定だ。
そこから2日間、歩き通してワンズに着いた俺達は通信用水晶で藍鷲に連絡を取って向かえ来て貰ったのだった。




