532話 嘆きの迷宮22
「やったか?」
紫鬼が呟く。
次の瞬間、
「ウォーターフォール。」
天井から大量の水が落ちてきてリヴァイアサンの身体を覆う紫の炎を鎮火させる。
「ふふふ。ははははっ。消えにくい炎もこれなら鎮火出来るな。もう妾には通用せんぞ?」
「ちっ!対策を練られたか。厄介な敵じゃのう。」
紫鬼は絶鬼化を解く。その姿は青みがかった紫で斬鬼形態である事がわかる。
「王化!爪王!」
紫鬼が言うと左腕のバングルにはまった王玉から灰色の煙が立ちのぼり、左腕に吸い込まれるように晴れていった。
そして左腕に灰色の鉤爪付きの籠手を身に着けた爪王形態になる。
「鬼火が効かんのなら風の刃じゃ。」
紫鬼ほリヴァイアサンへと駆け寄り左腕の風の爪を振るう。
「風刃・鬼斬!」
爪から放たれる風の刃。蒼龍が作った胸の傷に吸い込まれる。
竜鱗を切り裂いたようで鮮血が舞う。
しかし
「そこか!ドラゴンファング!」
自ら攻撃を受ける事で紫鬼の位置を確認したリヴァイアサン。槍での高速突きを放つ。
突きは紫鬼の右胸を穿つ。
「ぐはっ!」
吹き飛ばされる紫鬼。だが幸運にもその方向には緑鳥がいた。
「親愛なる聖神様、その比護により目の前の傷つきし者に癒やしの奇跡を起こし給え。ヒーリング!」
「む?助かる。紺馬はどうじゃ?」
「傷は塞がりました。後は意識が戻れば。」
「うむ。紺馬のこと、任せたぞぃ!」
「はい!」
短い会話を残して紫鬼は再びリヴァイアサンへと駆けていく。
1度緑鳥を狙ってきたため、俺は緑鳥と紺馬がいる場所を背にして動けずにいた。
リヴァイアサンは相変わらず目は見えて無さそうだが殺気を感じ取りながら的確に金獅子達の攻撃を捌いていく。
激しい連撃の応酬にもリヴァイアサンは槍を上手く使い防いでいく。
「そこじゃ!」
防御に回っていたリヴァイアサンが槍を薙ぎ払う。
するとちょうどそこにいた銀狼が吹き飛ばされる。やはり王鎧には一筋の切り傷が入っている。
その間にも金獅子ら4人は果敢に攻め込む。
「雷撃断頭斬!」
「双龍覇連突!」
「風刃・鬼斬!」
「破滅の刃、三の型:難聴!」
しかし、どの攻撃もリヴァイアサンの巧みな槍捌きによって防がれてしまう。
俺も延影が届く範囲にまでリヴァイアサンに近付くと自身の影を伸ばす。
「影針!」
突如として足元から生えた影の針にはリヴァイアサンも対応出来なかったようで、その左足を穿った。
「ぐっ!足元からの攻撃じゃと?!なかなかやりおる。」
だが足の甲を穿った時点でリヴァイアサンは跳躍しており、足を不能にすることは出来なかった。
仕方ない。着地の瞬間を狙ってナイフを投擲する。
「影縫い!」
「破滅の刃、四の型:幻視。」
ちょうど白狐の斬撃がリヴァイアサンの右肩に食い込む。
「お?!ぼんやりと見えるようになってきたわ。そこか!」
見当違いの方向に槍を突き出すリヴァイアサン。幻視が効いてるようだ。
「鬼蹴!」
紫鬼の蹴りがリヴァイアサンの脇腹を抉る。
「くはっ!」
「雷撃剛殺剣!」
金獅子の電撃を纏った大剣が胸の傷を皿に深くする。
「ぐっ!」
「氷結双狼刃!」
銀狼の双剣が背中のワンピースを切り裂き、竜鱗を引き裂く。
「双龍覇連突!」
蒼龍の槍が腹部に突き刺さる。
「ちっ!幻覚か?これなら視界に頼らず殺気を読んだ方がマシじゃな。」
鮮血を滴らせながらリヴァイアサンが言うと、その場で1回転。槍が白狐達を襲う。
吹き飛ばされたのは金獅子と紫鬼、白狐と蒼龍、銀狼は辛うじて後退し槍の穂先を避けた。
「破滅の刃、五の型:睡眠!」
白狐が斬り込む。
「ウォーターウォール。」
突如として床から水の壁が発生し、白狐の斬撃を防ぐ。
「ウォーターランス!」
白狐に水の槍が迫る。
「くはっ!」
腹部にもろにウォーターランスを受けた白狐が吹き飛ばされる。
しかし、殺気を読むというなら俺の攻撃は防げないだろう。こちとら殺し屋として数え切れないほどの暗殺を熟してきたんだ。殺気を消すことなんて造作も無い。
「延影!影針!!」
リヴァイアサンの足元から影の針が伸びる。
「くっ!また下からの攻撃じゃと?」
今度は左足の膝まで穿った。これで機動力は削いだも同然だ。
「双龍閃!」
そこへ蒼龍が斬り込む。
「こっちは殺気が見え見えじゃな!」
リヴァイアサンはこれには反応して槍で防御する。
「鬼蹴!連撃!」
下段、中段、上段への蹴りの連撃を放つ紫鬼。
ローキックが負傷した左足に極まりバランスを崩したリヴァイアサン。そこへ腹部へのミドルキック、頭部へのハイキックが炸裂。横通しに倒れ込むリヴァイアサン。
「破滅の刃、六の型:麻痺。」
駆け寄ってきた白狐が上段から白刃・白百合を振るう。
倒れ込みながらもこれを槍で受け止めたリヴァイアサンは白狐を下から蹴り上げる。
腹部に喰らった白狐が吹き飛ぶ。
だが寝ている今ならチャンスだ。
「延影!影針!!」
リヴァイアサンの腹部を抉るように影の針が突き出る。
「ぐほっ!」
脇腹を影の針に抉られながらも槍を杖代わりに立ち上がるリヴァイアサン。だが足元はフラフラだ。紫鬼のハイキックが効いている。
「雷撃断頭斬!」
そこへ跳躍してきた金獅子が大剣を振るう。
「ウォータースピア!」
リヴァイアサンも魔法で迎撃する。
「ぐほっ!」
競り負けたのは金獅子の方だった。水の槍に右肩を穿たれて宙を舞う。
「ウォーターニードル!」
リヴァイアサンを中心に半径3mほどが水の針に包まれる。
「がっ!」
前のめりだった蒼龍が足元を貫かれる。銀狼も走り寄るところを妨害されて蹈鞴を踏む。
白狐と紫鬼は辛うじて回避した。
「ふふふっ。はっはっはっ!ここまでやるとは想定外よな。妾の最後の力、見せてくれよう。」
そう言うと槍を構えて力を溜めるリヴァイアサン。
俺達も迎え撃つように身構える。
次の瞬間、槍を縦横無尽に振り回し始めるリヴァイアサン。それに合わせて無数の水の刃が放たれる。
「水刃乱舞!」
俺達へ無数の水の刃が襲い来る。




