527話 嘆きの迷宮19
さて、やって来ました地下100階層。最下層だ。
上階からの階段を降りると目の前には5mほどもある大きな扉があった。
扉には細かい彫刻がなされている。描かれているのは数々の魚に囲まれた首長竜か?芸術とかよくわからない俺でも一見して高度な技術が施されている事が分かるような彫刻だ。
まるで描かれた魚が生きているかのように立体的かつ繊細に彫られている。
皆でその圧倒的な芸術品に見惚れていたが、銀狼の一言で我に返った。
「準備はいいな?扉を開けるぞ?」
「あぁ。準備万端じゃ!」
「俺様も問題ない。」
「行きましょう。」
皆が頷くと銀狼が扉を開けた。
両開きの扉を開けると3km四方程度の広々とした部屋に入る。
探すまでもなく部屋の中央部には彫刻にあったような首長竜が身体を丸めて座り込んでいた。
「お?珍しいな。客かぇ?ここに客が来るなんて数百年ぶりよな。」
人語を話す竜?
「あれは古代種。エンシェントドラゴンですね。」
白狐が言うので尋ねた。
「古代種ってなんだ?」
「長い年月を生きて人語を解するようになった魔物です。私、妖狐や猫又のヨルさんなどの大妖怪と同列な魔物です。」
「同列って事は白狐だけで倒せちまうのか?」
「いえ。私は人化によって人と同じレベルになってますからね。妖狐のままなら互角だったと思いますが今は少し厳しいでしょう。」
「ならいつも通り皆でかかるしかないか。」
俺達が話していると首長竜が顔を上げてこちらを向く。
「久々の客じゃ。もてなしてやろう。近う寄れ。妾はリヴァイアサン。水を統べる竜じゃ。この迷宮に捕らわれて早数千年。妾を打倒出来る者を待っておった。」
言いながら巨体を持ち上げる。体長は30mほどか。顔だけでも2mほどはあろうか。こめかみ当たりに渦を巻くような角が生えていた。
「さて、お主らは妾の求める力を持っておるかな?」
と、ここでリヴァイアサンの発言に引っかかったので尋ねてみる。
「ちょっち待った。さっき『迷宮に捕らわれて』って言ったよな?」
「なんじゃ?対話を求めるか?まぁそれも良い。言うたぞ。妾は迷宮に捕らわれておる。」
「それってどういう意味だ?」
「そのままの意味よ。妾は昔は大海原を駆ける大海の覇者であった。それが遊び心で大陸の湖にやって来たところで迷宮が発生してな。妾は迷宮に飲まれ、いつの間にやら迷宮核の守護者とされておったのじゃ。」
なにやら不思議な話になってきたぞ。
「迷宮が発生って事はそれまでは無かったのか?それに迷宮核ってなんだ?」
「そんな事も知らぬのか。迷宮は迷宮核によって産み出される生命体よ。迷宮核は周りの自然や魔物を取り込み成長する。そしてその核を守るための番人として取り込んだ1番の強者を最下層に置くのじゃ。」
「迷宮が生命体?」
「そうじゃ。そして迷宮に飲まれた魔物は魂まで縛られ永久に生き続ける。例え身体が滅びようとも縛られた魂により再度その身体を構築するのだとか。妾は負けたことはないから身体の再構築についてはよく知らんがな。まぁ迷宮内の魔物を駆逐したとてやがて再構築された個体がまた蔓延ると言う訳じゃ。」
「じゃあやっぱりどれだけダンジョンシーカーが魔物を倒してもいくらでも湧いてくるってのは本当なんだな。」
「だんじょんしーかー?それは知らぬがいくら倒されようとも復活するのが迷宮の魔物よ。」
「迷宮核ってのはどこにあるんだ?」
「さて?最下層のさらに下じゃろうな。ただ行く付く術は妾も知らぬ。あくまで妾はこの迷宮の最強たる者としてここに配置された警備兵のようなものよ。」
「じゃあ、迷宮核ってのは自然に発生するのか?」
「はて?どうじゃったかな。妾が知っているのはここ含め3箇所の迷宮のみ。現代の迷宮でその数が増えておるのであれば新たに発生した迷宮核が他にもあったという事じゃな。発生理由までは妾も知らぬ。」
「へぇ。知らないことだらけだな。」
「もう問答は終わりかぇ?であれば次は力を示すが良い。妾の敵となりうる者か?試してくれようぞ。」
リヴァイアサンが大きく息を吸い込んだ。
「皆!王化だ!」
金獅子の声に合わせて皆が王化する。
次の瞬間、リヴァイアサンの口から猛烈な突風が吹き荒れた。
「くっ!」
金獅子は大剣を、銀狼は双剣を、白狐は白刃・白百合を、蒼龍は三叉の槍を床に突き立ててこれに耐える。
一方、なんの支えもない俺と紫鬼、紺馬に緑鳥は扉がある壁際まで吹き飛ばされた。
王鎧に守られている為、壁にぶつかった衝撃はかなり抑えられた。
が、数m程度は吹き飛ばされただろうか。
「ほほほほっ。妾の暴風の吐息を耐える者がおるか。これはなかなかに楽しめそうじゃな。では次じゃ。タイダルウェーブ!」
リヴァイアサンの背後から高波が発生。そのまま俺達に向けて100m以上はありそうな天井付近にまで達した高波が襲い来る。
「あれはいかん!王化!仁王!」
金獅子が叫び次の瞬間、右手人差し指にはまる碧色の王玉から碧色の煙が立ち込め、金獅子の両腕前腕を覆う。
そしてその煙が腕に吸い込まれるように消えていき、残ったのは前腕を碧色に輝かせた王鎧姿の金獅子の姿。
「障壁!」
すぐさま障壁を展開して皆の前にそれぞれ1枚の縦横2mの障壁を展開。
次の瞬間には大量の水に飲み込まれて皆の姿が見えなくなった。




