526話 嘆きの迷宮18
シーサーペントは近付いてみるとさらにその巨体に圧倒された。
遠目で見て30m程度と見たが近付いてみればもっと大きく感じる。
その頭は3mほどにもなり口を開ければ人間などひと呑みに出来そうだ。
海蛇と言うだけあってその瞳には瞼はなく、鱗が変化した透明な眼鏡板で眼球が覆われている。
前面と言うよりかは左右に寄った位置に目がある為、視界も広そうだ。
身体には手足は無く、白乳色の鱗に覆われている。いや、よく見れば鱗自体は青みがかっており、その身体を覆う粘液が白乳色をしている事がわかる。
「先手必勝ぉぉぉお!」
金獅子が跳躍してシーサーペントに斬りかかる。
しかし、その大剣は白乳色の粘液に阻まれてシーサーペントの身体を傷付けることはない。
「なに?!あの身体の粘液が邪魔をしよるぞ!」
「てりゃぁぁぁあ!」
その言葉を聞いて白狐が跳び上がる。ベガサスの靴の能力で右足、左足と空中を駆け上る。そしてシーサーペントの巨体の上に昇った白狐はその身体に向けて思いっきり刀を突き立てる。
「ダメです。背中側も白乳色の粘液に覆われていて刃が通りません。」
大声で白狐が言う。
「まずは粘液をどうにかせんといかんな。黒猫に紫鬼、それに蒼龍よ。火炎の能力でどうにかならんか?」
「やってみるしかなさそうじゃな。」
金獅子に言われて紫鬼が返す。
「はぁぁぁぁあ!王化!絶鬼!」
紫鬼がそう言うと右手にしたバングルにはまる赤い王玉から赤紫色の煙が、左足につけたアンクレットにはまる青い王玉からは青紫色の煙が立ちのぼり紫鬼を包み込むと赤紫色と青紫色が混ざり合って紫色の煙となって紫鬼の体に吸い込まれていった。
煙が晴れた後に残ったのは3本角が特徴的な鬼の意匠が目立つフルフェイスの兜に紫色の全身鎧、王鎧を纏った紫鬼の姿である。
「王化、呪王!」
俺が言った途端に橙色の王玉から橙色の煙が立ちのぼり体を覆い尽くす。
そしてその煙は体に吸い込まれるように消えていくと、残ったのはいつもの全身黒の鎧ではなく、所々に橙色の線が入った王鎧に身を包んだ夜王の姿がある。
橙色の線は左手首から腕を巡り胸、腹に走り太股を通って両足首にまで至っている。
「王化!武王!」
蒼龍がそう叫ぶと右手親指にしたリングにはまる紅色の王玉から紅色の煙が立ちのぼり蒼龍を包み込む。
その煙が右腕に吸い込まれるように消えていくと、右腕に紅色の線が入った王鎧を纏い、その手に燃えるような紅色の槍を持った蒼龍の姿があった。
紫鬼がシーサーペントに対して両手を突き出して叫ぶ。
「鬼火・満開!」
両手の平の前には200cmもの超巨大な紫の火球が生まれ、猛スピードでシーサーペントへと飛んでいく。
続けて俺も魔術を発動させる。
「魔素よ集まれ、集まれ魔素よ。火炎の力へとその姿を変えよ。魔素よ燃えろ、燃えろよ魔素よ。我が目前の敵を火炎となりて打倒し給え!ファイアボール!」
黒刃・右月の前に描かれた魔法陣より直径60㎝程度の大きさの火球が生まれシーサーペントへと飛び立つ。
静かに燃える紫色の炎と豪炎の火球が直撃したシーサーペントはうなり声をあげる。
「グゴォォォォオ!」
見やれば火球が当たった箇所は白乳色の粘液が蒸発し、青みがかった鱗が焦げていた。
「よし!粘液が消えた!どんどん撃ってやれ!」
金獅子が言う。
「双龍閃!」
蒼龍が跳び上がりシーサーペントの首筋に燃え盛る紅蓮の槍と三叉の槍で斬りつける。
炎に包まれた紅蓮の槍により白乳色の粘液が蒸発し、ウロコが露わになる。そこへ三叉の槍が襲いかかる。
「むぅ。鱗も硬いな。」
地上に降り立った蒼龍が言う。
「火炎矢!」
紺馬も後方からシーサーペントの顔面に向けて火炎の矢を射る。
特に狙いをつけている訳ではないようで1度に5本もの矢が放たれる。
「鬼火・満開!」
紫鬼が鬼火を放つ。
「ファイアショット!」
俺が火球を放つ。
見る見るうちにシーサーペントの体表を覆う白乳色の粘液が蒸発していく。
「グゴォォォォオ!」
その巨体を捩りシーサーペントが唸る。
あらかた粘液が消えた頃、突如シーサーペントが大きな顎を開けて咆哮した。
「ンゴァァァァァァア!」
ビリビリと身体を締め付けるような咆哮を浴びて身体が硬直する。なんらかの特殊技能か?身体が動かない。
見れば俺だけでなく皆が硬直しているようだ。
そんな中、シーサーペントがその巨体を真っ直ぐに急降下してくる。狙いは紫鬼か。
紫鬼も動けないようで鬼火を放った姿勢のままシーサーペントの急襲を受ける形になる。
さすがに紫色と言えどもあの巨体による突進を受ければただでは済まないだろう。
動け!俺の身体!
どうにか左腕が紫鬼の方へと向いた。すぐさま俺は詠唱する。
「風よ、風よ。唸れ風よ。我が眼前を薙ぎ払え。ウィンドショック!」
俺の左手の前に生まれた魔方陣から猛烈な突風が吹き荒れ、紫鬼へと向かう。
距離がある為そこまでの威力はないが紫鬼を突き飛ばすことには成功。次の瞬間、紫鬼が立っていた場所へとシーサーペントが頭から突っ込んだ。
紫鬼は?大丈夫だ。ギリギリ回避出来たようだ。
だがシーサーペントはその大きな顎を開けて紫鬼に噛みつこうとする。
紫鬼は両腕をシーサーペントの口内に向けて伸ばし鬼火を放つ。
「鬼火・満開!」
シーサーペントの口内で大爆発が起こる。
「グゴォォォォオ!」
悶えるシーサーペントは空中へと逃げる。
そこへ金獅子が跳び上がる。
「雷撃断頭斬!」
蒼龍も追撃する。
「双龍閃!」
まだシーサーペントの背中に乗っていた白狐も斬りかかる。
「抜刀術・飛光一閃!」
金獅子が斬った傷痕目掛けて銀狼が跳ぶ。
「氷結双狼刃!」
俺もシーサーペントの真下に入り魔術を放つ。
「ファイアウォール!」
炎の壁がシーサーペントの腹を焼く。
「まだまだ!雷撃断頭斬!」
再び跳躍した金獅子が大剣を振り下ろす。
「抜刀術・閃光二閃!抜刀術・発光三閃!!」
白狐も空かさず斬りかかる。
「グゴォ!」
皆の猛攻を受けてシーサーペントの巨大な首が落ちた。続けてその長い体も空中から落ちてくる。
危うく真下にいた俺は潰されそうになりながらも回避。残ったのはシーサーペントの巨大な頭と長い体の残骸となった。
もちろん、倒した後はシーサーペントの体を解体して影収納に収めた。
頭の部分は食べるところが少なそうだから放置だ。
鱗を剥がして解体するのは手間がかかったが、30m超えの巨体だ。相当な肉が確保できた。
下階への階段も発見したので、予定通り休憩を取ることにした。
夕飯は早速シーサーペントの肉を焼いた。
鶏肉のような食感に脂ののった魚と鶏もも肉の中間のような濃厚な味は絶品だった。軽く塩コショウだけの味付けなのに脂身の甘さが引き立ち、皆で3回もおかわりしたくらいだ。
さて、残すは最下層、地下100階層だ。
どんなボスが現れるのか。一晩寝れば王化の限界時間も元通りだ。どんな敵が現れても問題ないだろう。
明日に備えて俺達は早めに就寝するのであった。




