524話 嘆きの迷宮16
地下71階層から79階層はそれまでと事なり横幅のある通路が続いていた。それもそのはず、ドリルヘッドシイラやら頭に立派な刀剣を持ったブレードシャークやら体長5mを超える魔魚が自由に大気中を泳ぎ回っていたのだ。
王化する程ではないが王化しないとそれなりに苦戦する。そんな魔魚の相手をしながら下階へと突き進み、夜になったがまだ余力があると言うことで休憩を挟まず、到達したのは地下80階層。
そこは70階層と同じく扉のある壁際以外の両サイドが5mほどの水場になっており、部屋に入った時には敵の姿はなかった。
となるとやはり出てきたのはクラーケン。今回は左からはタコ型のクラーケン、右からはイカ型のクラーケンが出現。
銀狼は早速王化して足の多いイカ型のクラーケンへと突っ込んでいく。
残ったタコ型クラーケンには蒼龍が武王化して燃え盛る紅蓮の槍でタコ足を燃やして対応した。
凍らせるよりは効果は低いものの、火炎に包まれたタコ足も再生を阻害されてなかなか元通りとはいかないようで、倒した時には5本のタコ足が燃えていた。水辺にいるのだから水に浸けて鎮火すればいいだろうにその頭はなかったようで、半分ほどに斬られたタコ足を振り乱して最後まで抵抗を見せた。
イカ型のクラーケンの方は銀狼が次々とイカ足を切り裂いては凍らせていき、最後は無事な足が1本もなかった。
途中墨を吐かれたようで、金獅子が頭から墨塗れになっていた。
イカの墨は粘り気があるため、落としにくい。俺がクラーケン2体の解体、影収納への収納をしている間もずっと水浴びをしていたくらいだ。
そこでふと気になって白狐に聞いてみた。
「そういや、クラーケンは空中遊泳ってのをしないのな?必ず水辺に出てきてるよな?」
「そうですね。私も魔物研究者ではないので詳しくはないですが、あまりにも巨大な生物は空中遊泳が出来ないのかも知れませんね。」
なるほど。確かにクラーケンは体長10mを超える巨体の持ち主だ。流石に空中での遊泳には向かないのかもしれないな。
クラーケン2体を倒したところで今日のところは休憩を取ることにした。
大部屋の出口を出たらすぐに下階への階段がある事は確認済みだ。
今日はサーベルシャークの切り身を使ってムニエルを作った。
切り身に塩を振り、出てきた水を拭き取ってから多めの塩コショウを振り、たっぷりめなバターと多めのレモンがアクセントだ。
サメの身は思ったほど癖はなく、筋肉質かと思いきやフワフワ食感でなかなかに美味い。皆の評価も悪くなく、次は煮魚にでもしようかなと思ったところだ。
さて、食事も終えたしそろそろ寝るか。
翌日も70階層と同じ様な幅の広い通路を進み、地下81階層から89階層を進んだ。
空中に浮かぶ雷クラゲがかなり邪魔で巨大な魔魚を相手にする時にもその姿を確認しつつ、安全な立ち位置を確保するなど、注意が必要だった。
主に襲ってきたのはドリルヘッドシイラを始め、サーベルシャーク、ブレードシャーク、頭に巨大なハサミを持ったシーザー大ナマズなど。
討伐は一苦労だが、手にした食材を考えれば悪いもんでもないな。
特にシーザー大ナマズはハサミの部分こそ食えないがその身は蒲焼きにするとかなり美味かった。
脂が乗った白身だからフライやソテー、ムニエルなんかもいけるな。
6mほどの巨大魚の為、暫くは魚料理に事欠かない感じだ。
そんな道中を過ごしてやって来たのは地下90階層。
それまでのボス部屋よりも広く100mはある正方形の室内に堂々と立っていたのは体長20mを超える巨体の9本の首を持つヒュドラだった。
「各自王化して挑むぞ。紺馬はもしもの時に備えて緑鳥と後方から支援を頼む。」
「分かった。緑鳥の事は任せろ。」
金獅子の言葉に紺馬が頷く。
「ヒュドラは回復持ちだったよな?首を落とすのはオレがやる。皆は胴体を攻めてくれ。」
「あぁ。頼んだ。」
「ヒュドラは吹雪の吐息を吐いてきます。クロさんと蒼龍さんは呪王化、武王化して火炎攻撃をお願いします。」
「了解。」
「おーけー。」
白狐に言われて蒼龍と俺が頷く。
「では行くか!王化!獣王!」
金獅子が声を上げると、右手中指のリングにはまる金色の王玉から金色の煙を吐き出しその身に纏う。
次の瞬間、その煙が吸い込まれるように体の中に消えていき、煙が晴れると獅子を想起させるフルフェイスの兜に金色に輝く王鎧を身に着けた獣王の姿となる。
「王化!牙王!」
銀狼が声を上げると、左手中指のリングにはまる王玉から銀色の煙を吐き出しその身に纏う。
その煙は体に吸い込まれるように消えていき、煙が晴れると狼を象ったフルフェイスの兜に銀色に輝く王鎧を身に着けた牙王の姿となる。
「王化!龍王!」
蒼龍が言うと胸に下げたネックレスにはまる蒼色の王玉から蒼色の煙が吐き出される。
その煙は体に吸い込まれるように消えていき、残ったのは龍をモチーフにしたような兜に蒼色の全身鎧を纏った龍王の姿となる。
「王化!破王!!」
白狐の右耳にしたピアスにはまった真っ白い石から、白い煙が立ち上り白狐の姿を覆い隠す。
次の瞬間、煙は白狐の体に吸い込まれるように消えていき、残ったのはどことなく狐を思わせる真っ白いフルフェイスの兜と、同じく真っ白い全身鎧に身を包んだ破王の姿となった。
「王化!鬼王!剛鬼!」
紫鬼が王化し、右腕にしたバングルにはまる王玉から赤紫色の煙を吐き出しその身に纏う。
その煙刃体に吸い込まれるように消えていき、煙が晴れると額に2本の角を持つ鬼を象った赤紫色のフルフェイスの兜に赤紫色の王鎧を身に着けた鬼王の姿となる。
「王化!精霊王!」
紺馬が王化し、左手薬指のリングにはまる王玉から紺色の煙を吐き出しその身に纏う。
その煙は体に吸い込まれるように消えていき、煙が晴れると馬を象った紺色のフルフェイスの兜に紺色に輝く王鎧を身に着けた精霊王の姿となる。
「王化。聖王!」
緑鳥が王化し、額に輝くサークレットにはまる緑色の王玉から緑色の煙を吐き出しその身に纏う。
その煙は体に吸い込まれるように消えていき、煙が晴れると緑色の鳥をイメージさせるフルフェイスの兜に緑色の王鎧を身に着けた聖王の姿となる。
「王化!夜王!!」
俺が言うと左耳のピアスにはまる王玉から真っ黒な煙を吐き出しその身に纏う。
その後煙が体の中に吸い込まれるように消えていくと猫を思わせる真っ黒な兜に、同じく真っ黒な全身鎧を身に着けた夜王の姿となる。
俺は影収納から主力武器である黒刃・右月と黒刃・左月を取り出し、続けて呪王化する。
「王化、呪王!」
俺が言った途端に小指にはめたリングの橙色の王玉から橙色の煙が立ちのぼり俺の体を覆い尽くす。
そしてその煙は体に吸い込まれるように消えていくと、残ったのはいつもの全身黒の鎧ではなく、所々に橙色の線が入った王鎧に身を包んだ姿だ。
橙色の線は左手首から腕を巡り胸、腹に走り太股を通って両足首にまで至っている。
「王化!武王!」
続けて蒼龍がそう叫ぶと右手親指にしたリングにはまる紅色の王玉から紅色の煙が立ちのぼり蒼龍を包み込む。
その煙が右腕に吸い込まれるように消えていくと、右腕に紅色の線が入った王鎧を纏い、その手に燃えるような紅色の槍を持った状態になる。
さて、準備は整った。ヒュドラ狩りといきますか。




