520話 嘆きの迷宮12
崩れた河童の河太郎が再び動き出さないか、よく観察し、絶命した事を確認すると全員で王化を解いた。
「火で弱体化させないと刃も通らないとかどんな馬鹿げた筋肉しとったんだかな。」
金獅子が言うと
「そもそも水の迷宮だから火炎系統は使えないと踏んだダンジョンシーカーなどを排除する為の魔物だったんかね。」
と銀狼が相槌を打つ。
「でもおかしいですね。普通の河童は力自慢とは聞いてましたが、あそこまで強靱な肉体をしているなんて話は聞いた事がありませんでした。」
「そこはあれじゃないか?迷宮の中ボスとして君臨する為に迷宮からなにかしらの影響を受けていたとか?」
白狐の疑問に銀狼が答える。
「いずれにせよ倒せたのじゃから良しとしようではないか。それより、出口付近に宝箱が出てきたぞぃ?」
「え?お宝?本当ですね。クロさん、早く開けましょう。開けましょう。」
紫鬼に言われて白狐はさっきまでの考察をさっさと手放して宝箱に目を向ける。
「やはり中ボスともなると倒すと宝が手に入るのだな。」
闘いを見守っていた紺馬が近付いてきて言う。
「褒賞品ってことかね。まぁ貰えるもんは貰っておくさ。」
俺は紺馬に返すと、急かす白狐に背中を押されて宝箱に近付く。
ざっと見た所、罠などはかかっていないようだ。
「うん。罠はないな。んじゃ開けるぞ?」
「早く♪早く♪」
開ける前から白狐のテンションが高い。
宝箱を開けてみると、そこには一対の手甲が入っていた。
その素材は何処か河童の甲羅のような雰囲気である。
「それは河童の甲羅で出来た手甲か?」
金獅子も同じ感想だったらしい。
「手甲なら紫鬼が持つべきだが、やはり鑑定して貰って効果をハッキリさせてからの方がいいか?」
「だな。帰ってから鑑定して貰いに行こう。」
銀狼が言うので頷いておく。
「ではまずは黒猫の影収納に仕舞っておくか。」
「はいよ。とりあえず預かるわ。」
金獅子が言うので俺は影収納に甲羅で出来たような手甲を仕舞いこむ。
「にしても強かったな。大剣が止められた時には肝が冷えたぞ。」
「私も白刃・白百合をあそこまで堂々と止められたのは初めてです。」
「黒猫の魔術と蒼龍の紅蓮の槍があって良かったな。」
「だな。」
金獅子と白狐、銀狼が話し始める。
「だが、まだ今日は始まったばかりじゃ。先に進もうではないか。」
紫鬼に言われて皆で部屋の出口の扉に向かう。
扉を開けると下階に続く階段があった。
まだ昼休憩には早い。俺達は地下51階層へと降りていった。
地下51階層は何の変哲もない通路が続く迷路だった。
遭遇する魔物もリザードマン種やサハギン種。もう戦い慣れた相手である。
迷路に時間はかかったが、無事に下階への階段を見つけて52階層に降りる。
52階層から下もそんな感じで続き、途中で昼休憩をはさみつつ、55階層にまで降りてきた。
55階層はまたしても膝丈の水に浸った階層で、俺達は影収納に仕舞いこんだゴム長を再び着込む。
そして現れたのは手に二叉の槍やバスタードソードのような長剣を持ったマーメイドにマーマンの御一行様だ。
蒼龍曰く、槍の使い手としてはリザードマンなどよりもよほどレベルが高く、同じ槍使いとしても気を抜けない相手らしい。
マーメイドなどと戦うのは魔族領に行った時以来だ。
やはり下半身が魚のそれなだけあって、水中の移動速度は早い。
とはいえまだ水位は腰下程度なので直線的な移動だけで上下に動かれない分、対処はしやすかった。
この分だと暫く進むとまた水で満たされた部屋に出くわしそうだ。
なんて思っていたら案の定、地下57階層からは小部屋が連なる作りになっており、扉を開けて部屋に入るなり、自動的に入口の扉がしまり、天井から水が流れ落ちてきた。
「また水攻めじゃ!みんな王化せい!」
紫鬼の一言でみんな王化して呼吸の確保をする。
天井ギリギリまで水が張られたところで天井からマーメイドが3体入水してくる。
やはり人魚の強みは水の中でこそ活かされるようで、縦横無尽に泳ぎ回り、隙あらば槍で突いてくる戦法にはかなり苦戦した。泳ぐ速度について行けずこちらの攻撃がなかなか当たらないのだ。
最後は近寄ってきたところをカウンター気味に攻撃することでよくやく倒すことが出来た。
そんな小部屋が5つ連続し、下階への階段を発見。
やはり水中戦はかなり体力を消費する事に加え、速度で翻弄されることで精神力も削られる。
幸い階段は水に浸からないように水位よりも上に段が作られている。全員で横になれる程度の広さもあるので、今日はここで夕食をとって休む事にした。
夕食は作り置きのカレーにイカやタコ、貝などを入れて再加熱したシーフードカレーにした。
巨大ダコや巨大イカの身はまだまだ在庫がある。皆が魚介類に飽きるまでは暫くシーフード続きだな。
「うむ。やはり黒猫の作るカレーは美味いな。」
「あぁ。どこで食っても美味いって思えるんだから凄いよな。」
「クロはカレーに愛された男じゃからな。」
金獅子と銀狼が話している中に紫鬼が変なことを言い始めた。カレーに愛されてるってなんだ?
「ふふふっ。クロさんのカレーは世界一ですからね。」
なぜか白狐が自慢げに言う。
まぁ美味いと食ってもらえるならなんでもいいか。
見張り番は1人で、交代制で休む事にした。野営用のテントを出して女性陣はテント内で、男性陣は外にごろ寝だ。
こうして5日目は過ぎていった。




