519話 嘆きの迷宮11
まず最初に仕掛けたのは蒼龍。
高速の三叉の槍による刺突を繰り出す。
「しっ!」
河太郎はこれに反応して左手で槍を振り払い、右腕で反撃に出る。
その右腕を狙って銀狼が仕掛ける。双剣を振り上げ一気に振り下ろす。
しかし、河太郎は気にも留めずに蒼龍を殴りつける。その右腕に当たったはずの双剣は僅かに刃が入っただけで切断には至らない。むしろ皮膚で刃を止められた感すらある。
続く金獅子の振り下ろした大剣を左手で振り払う。
続けて白刃・白百合を腹部に向けて横薙ぎに振るった白狐だったが、やはり硬い筋肉に阻まれて深く斬りつける事が出来ない。腹部に白刃・白百合を受けたばかりの河太郎は気にした様子も無く回蹴りを放ち、白狐を蹴り飛ばす。
その間に懐に入った俺は河太郎の胸部に向かって黒刃・左月で突きを入れる。
浅くナイフが入ったところで右腕を振り回した河太郎により俺は弾き飛ばされる。
だが、やはり攻撃は通りにくい。あの強靱そうな筋肉には黒刃・左月でも刃が立たないと言うことか。
その後は蒼龍と金獅子が同時に攻撃を仕掛ける。
大剣の方が脅威と見たのか河太郎は金獅子の振り下ろした大剣を避ける。その脇腹に三叉の槍が突き刺さる。
だが、やはり浅い。
河太郎の回し蹴りが蒼龍と金獅子を吹き飛ばす。
回し蹴りの終わりを狙い銀狼が双剣を振り下ろすも、背中の甲羅に阻まれ、回し蹴りの回転を利用した裏拳が飛んできて銀狼も弾き飛ばされる。
紫鬼がその背後にお返しとばかりにタックルを打ち噛ます。しかし、河太郎は体勢を崩しただけで吹き飛ぶことはなく、紫鬼に反撃の裏蹴りを放つ。
これは腕をクロスさせて受け止めた紫鬼。そこに白狐が斬り込む。
その刀を右腕を掲げて前腕で受け止める河太郎。
その後放たれた左ジャブをバックステップで躱す白狐。
そこに再度金獅子の大剣と銀狼の双剣が迫るがやはり強靱な筋肉に阻まれて攻撃が深く入らない。
全員が一歩下がると河太郎との距離が少し空く。
「こいつ手強いぞ。大剣の刃も通らん。白狐。なにか弱点になるような事を知らんのか?」
金獅子が問うと
「河童は頭の皿が乾くと弱体化するはずです。クロさん、炎の魔術で対抗して下さい。蒼龍さんも武王化を。あの灼熱の槍が有効なはずです。」
白狐が言う。
そう言う事なら
「よし。王化、呪王!」
俺が言った途端に左手小指にはめたリングの橙色の王玉から橙色の煙が立ちのぼり俺の体を覆い尽くす。
そしてその煙は体に吸い込まれるように消えていくと、残ったのはいつもの全身黒の鎧ではなく、所々に橙色の線が入った王鎧に身を包んだ夜王の姿。そのまま俺は詠唱を始める。
「魔素よ燃えろ、燃えろよ魔素よ。我が目前の敵を火炎となりて打倒し給え。ファイアボール。」
俺の左手に30cm程度の火球が発生し、河太郎に向かって飛んでいく。
「王化!武王!」
俺に合わせて蒼龍がそう叫ぶと右手親指にしたリングにはまる紅色の王玉から紅色の煙が立ちのぼり蒼龍を包み込む。
その煙が右腕に吸い込まれるように消えていくと、右腕に紅色の線が入った王鎧を纏い、その手に燃えるような紅色の槍を手にした蒼龍は紅蓮の炎を纏う槍で河太郎へと刺突を放つ。
「うわっ!火だ!」
途端に小さい悲鳴を上げて河太郎がファイアボールを避ける。
が、避けた先には蒼龍の紅色の槍が迫る。
咄嗟に右腕を振り上げて肘で槍を受けた河太郎。だが、槍が刺さった箇所が燃え上がる。
「ひっ!火ぃー!」
バタバタと腕を振り火を消そうとする河太郎。そこへ金獅子が大剣を振り下ろす。
バタバタと腕を振り火を消していた河太郎は、その右腕を掲げて大剣を受けようとするが、そこにはさっきまでの筋骨隆々の腕ではなく細い枯れ木のような腕があるばかり。
金獅子の振り下ろした大剣はその枯れ木のような腕を中程から斬り飛ばす。
「うぎゃっ!」
腕で止められなかった大剣はそのまま河太郎の胸を切り裂く。しかし、筋骨隆々な胸部では、やはり傷は浅い。
「オラの腕がぁ。火を使うとか卑怯だぞ!」
文句を言う河太郎だがこの相撲はなんでもありだと言ったのは河太郎の方である。
気にせずに魔術を発動させる。
「魔素よ集まれ、集まれ魔素よ。火炎の力へとその姿を変えよ。魔素よ燃え盛れ、燃え盛れ魔素よ。我が目前の敵達に数多の火球となりて打倒し給え!ファイアショット!」
今度は避けられないように5cm程度の複数の火球を複数箇所に投げ付ける。
「ひー!火ぃー!」
河太郎は必至に火球を避ける。
しかし、数を増やした小さい火球は次々と河太郎の身体を焼く。
するとどうだろう。火球が着火した河太郎の筋骨隆々だった身体は一気に水分を失ったかのように萎びていく。
そう言えば水膨張とか言ってたな。あの身体は水分で強化されているのか。だから紅蓮の槍を受けた腕が枯れ木のようになっていたのか。
身体のあちこちを萎ませた河太郎が叫ぶ。
「ちくしょー!火を使うとか聞いてないよー!」
そこに斬りかかる白狐と銀狼。
銀狼が放った双剣は筋骨隆々な左腕に受けられてしまったが、白狐の白刃・白百合は萎んだ腹部に直撃。深くその身を切り裂く。
「弱体化した身体には刃が通りますよ!クロさん!もっと炎を!」
それなら
「魔素よ集まれ、集まれ魔素よ。火炎の力へとその姿を変えよ。魔素よ燃え盛れ、燃え盛れ魔素よ。我が眼前に高き壁となり敵の攻撃を防げ!ファイアウォール!」
河太郎の足元から2mほどの火柱が上がる。
「ぎゃー!燃える!オラの身体が燃えちまう!」
火柱はせいぜい10秒ほどしか維持されなかったが、効果は絶大で、あの筋骨隆々だった河太郎の身体は最初の細身の状態に戻っていた。
「ちくしょー!乾いちまった!」
悔しそうに足踏みする河太郎。
その横から紫鬼が鋭い拳を突き出す。
ゴキンッ
乾いた音を立てて河太郎の顔が横倒しになり、首の骨が折れる。
力を失った河太郎の身体はその場に崩れたのだった。




