518話 嘆きの迷宮10
河童の河太郎はその後も水球を投げ付けてくる。が、1度金獅子がやられているのを見ていた俺達はなんとかその水球を躱していく。
「躱すなぁ。それならこれだ。水流背負い投げ。」
そう言って虚空を掴み、一本背負いをする河童の河太郎。するとその手元には水の塊が握られており、背負った拍子にこちらに盛大な水流をぶつけてくる。
いきなりの広範囲攻撃に俺達は為す術なく水流に洗われ、壁面の扉近くまで流される。
「おい!白狐!話が違うではないか!あやつは妖術使いか?」
「私も河童と対峙するのは初めてでして。ただ力自慢であると話には聞いていました。でもこれは明らかに妖術の1種ですね。あいつが攻撃してくる度に妖気の流れを感じますし。」
「うむ。それはワシも感じとるわ。力技だけでないとなると中々に手強い相手じゃな。」
紫鬼と白狐が話している間にもさらに水流を背負い投げしてきたり、水球を投げ付けてきたりとやりたい放題の河童の河太郎。
幸いすいは着弾前に斬り捨てれば炸裂しないようで、投げられた水球を白狐が白刃・白百合で斬っていく。
暫く水球を投げ続けていた河太郎だったが、途端に静かになる。
「ほれほれ。防戦一方じゃないか?そちらからもかかってこないと面白くないぞ?」
その挑発とも取れる言葉に白狐が素早く反応。一気に距離を詰めると白刃・白百合を振るう。
しかし、どんな軟体しているのかと思うような動きで白狐の攻撃を避ける河太郎。背中の甲羅は邪魔にならないのか?
白狐が上段から斬り下ろしを行えば半身になって避け、横薙ぎに白刃・白百合を振るえば大きく仰け反って避ける。下から斬り上げると背中の甲羅で受けて弾く。
「オラの甲羅は生半可な攻撃じゃあ傷付かないぞ?水柱!」
そう言って床から大量の水柱を上げると白狐を直撃、その間に距離を取る。
白狐が1人奮闘している間に金獅子も復帰して皆で河太郎に走り寄る。
金獅子が大剣で斬りかかり、同時に銀狼も双剣を振るう。
河太郎は大剣を避けつつ、
「水鏡。」
と唱えると掌に小さな水球を作り、銀狼の双剣による攻撃をその水球を使って受け流す。
暫く水球で大剣と双剣の攻撃を受け流し続けた河太郎はまたしても
床から大量の水柱を上げ、距離を取った。
が、その先にいたのは紫鬼。
大振りの右ストレートを河太郎に叩き込む。
これは受け流せなかったようで壁際の水流のもとへと吹き飛ぶ河太郎。
盛大な水飛沫を上げて幅1mほどの溝に落ちる。
「おーいててて。良いの喰らっちまったな。身体がびしょ濡れだ。」
溝から這い上がってくるなり河太郎が言う。しかし身体の水を払う様子は無い。
「なかなかやるみてぇだな。それに身体も濡れちまったし。ここらで使わせて貰うぞ。水膨張。」
言うなり河太郎の身体に変化が現れた。
身長1m50cmほどだったのがみるみるうちに身長が伸び、細身だった身体にも筋肉の筋が浮かび上がる。
変化は一瞬だった。細身の低身長だった河太郎はオーガにも見劣りしない、むしろオーガを超えるほどの筋骨隆々の3m弱の大男に変貌したのだった。
「これがオラの本気だ。受け止めてみろ。」
言うなり壁際から一気に距離を詰め紫鬼へとタックルをブチかます河太郎。
唐突の反撃にあった紫鬼は吹き飛ばされて床を転がる。
「踏ん張りが足りないな。あの程度のぶちかましで吹き飛ぶとは底が知れるな。」
「おぉ!痛ぇ。スピードと言い力と言い、ワシ以上かもしれんな。」
河太郎に言われながらも起き上がりながら紫鬼が呟く。紫鬼以上の力に速度か。ヤバいな。
「あちらが強化するなら俺様達も王化するぞ!王化!獣王!」
金獅子が声を上げると、右手中指のリングにはまる金色の王玉から金色の煙を吐き出しその身に纏う。
次の瞬間、その煙が吸い込まれるように体の中に消えていき、煙が晴れると獅子を想起させるフルフェイスの兜に金色に輝く王鎧を身に着けた獣王の姿となる。
「王化!牙王!」
続けて銀狼が声を上げると、左手中指のリングにはまる王玉から銀色の煙を吐き出しその身に纏う。
その煙は体に吸い込まれるように消えていき、煙が晴れると狼を象ったフルフェイスの兜に銀色に輝く王鎧を身に着けた牙王の姿となる。
「王化!破王!!」
白狐牙叫ぶと右耳にしたピアスにはまった真っ白い石から、白い煙が立ち上り白狐の姿を覆い隠す。
次の瞬間、煙は白狐の体に吸い込まれるように消えていき、残ったのはどことなく狐を思わせる真っ白いフルフェイスの兜と、同じく真っ白い全身鎧に身を包んだ破王の姿となった。
「王化!龍王!」
蒼龍が言うと胸に下げたネックレスにはまる蒼色の王玉から蒼色の煙が吐き出される。
その煙は体に吸い込まれるように消えていき、残ったのは龍をモチーフにしたような兜に蒼色の全身鎧を纏った龍王の姿となる。
「王化!鬼王!剛鬼!」
紫鬼が王化し、右腕にしたバングルにはまる王玉から赤紫色の煙を吐き出しその身に纏う。
その煙刃体に吸い込まれるように消えていき、煙が晴れると額に2本の角を持つ鬼を象った赤紫色のフルフェイスの兜に赤紫色の王鎧を身に着けた鬼王の姿となった。
「王化!夜王!!」
俺も遅れて叫ぶと左耳のピアスにはまる王玉から真っ黒な煙を吐き出しその身に纏う。
その後煙が体の中に吸い込まれるように消えていくと猫を思わせる真っ黒な兜に、同じく真っ黒な全身鎧を身に着けた夜王の姿となる。
俺は影収納から主力武器である黒刃・右月と黒刃・左月を取り出した。
「お?!お前らも変身か。んじゃオラの本気みせちゃおうかな。」
河太郎が腰を深く下ろす。
俺達はそんな河太郎を囲むように展開する。
本格的な闘いが始まろうとしていた。




