514話 嘆きの迷宮6
時間にして5分足らずだろうか。
「うむ、お主は強かった。だが槍の扱いは我の方が上手かったな。」
蒼龍のその一言で決着がついた事を知った。息を止めて様子を見ていた緑鳥などはフゥとため息を漏らす。
蒼龍の言葉を聞き終えたかのようにサハギンキングの巨体が前面に倒れ込む。
刎ねられ転がっていた首は、どこか満足そうに見えた。
「ったく正々堂々とってのも時と場合によるぜ?」
銀狼が蒼龍の肩を小突きながら言う。
「すまんな。我の我が儘に付き合わせて。」
「まぁ、無事に勝ったんだからよかったじゃねーの。」
紫鬼が蒼龍の肩を抱く。
「で、あの槍使いは強かったのか?」
金獅子が問うと
「あぁ。並の使い手ならやられていたかもしれんな。相当なやり手であったよ。」
蒼龍はあのサハギンキングの腕前を手放しで褒め称えた。
「じゃあ、あのサハギンキングは運が悪かったな。こちらの使い手は最上級だからな。がっはっはっ。」
盛大に笑い声をあげる金獅子。
蒼龍も悪い気はしないようで終始笑顔である。
「おっ、先の扉が開いたな。先に進めるぞ。」
俺は入口とは反対方向の壁に設えられた扉が開いていくのに気が付いた。
「ここでも宝箱はなしですか。残念。」
白狐がポツリと言いながら扉に向かって歩き出す。
「まぁそのうちポンと出てくるどろうさ。気長にいこうや。」
俺はその背中を叩き気休めの言葉をかける。
扉を抜けた先では地下31階層へと続く階段があった。
まだ休憩の必要は無さそうだと言うことで俺達はそのまま下階へと降りるのだった。
地下31階層はそれまでとは違い、幅約4mの通路の両サイドに溝が掘られ、絶えず水が流れる迷路だった。
また水のトラップがある部屋も出てくるかもしれない。気を引き締めて進もう。
そう思っていたのだが、この31階層、出てくる魔物がスライムだらけである。
通常種だけでなく、毒の霧を吐くポイズンスライムや、酸を吐き出すアシッドスライム、不定形なのに鉄で出来たアイアンスライムに珍しいところでは全身燃え上がらせたファイアスライムや凍りついたアイススライム、砂で身体を構成したサンドスライムに岩で出来たロックスライムなどなど。多種多様なスライムのオンパレードである。
とは言え相手はスライム。苦戦することも無く淡々と討伐しては先へ進んでいく。
にしても出てくるスライムの数が多い。雑魚い敵とは言え、数で来られるとそれなりに討伐に時間がかかる。
辟易しながらもスライムを倒しては進み、進んではスライムに襲われる。
そんな事を繰り返しながらも何とか下階への階段を見つけて35階層に降りてきた。
もう一生分のスライムの相手をしたように思える。
「ちょっと疲れたな。階段そばだから魔物も近寄らないだろう。ここで昼休憩にしよう。」
金獅子が言うので昼食休みにすることにした。
メニューは簡単に食べられるサンドイッチだ。レタスにトマト、ベーコンにチーズを挟んだもので、特製のカラシマヨネーズを塗ってある。
「おぉ!これはピリリと来て美味いな!」
「これはカラシですか?マヨネーズが黄色いですね。」
金獅子がいち早く反応して白狐が答えに行き着いた。
「分かるか?そう特製のカラシマヨネーズだ。サンドイッチに合うだろう?」
「うむ。我もこの味は好きだな。」
「んー。ワタシは普通のマヨネーズの方がいいな。」
蒼龍には好評だったが、紺馬はお気に召さなかったようだ。
「んじゃ、ほれ。普通のマヨネーズの方を食べろよ。」
こんな事もあろうかと普通のマヨネーズでも作っておいた。
「両方あるのか。流石は夜王。抜け目がないな。」
「まぁな。もっと褒めてもいいんだぜ?」
「はいはい。凄いすごい。ん。わっぱりワタシはこっちの方が好みだ。」
適当な返事を返されたがサンドイッチは美味かったようなので良しとしよう。
そんな昼食を終えて先に進んだ俺達の前にまたしても扉が立ち塞がる。
「いいか?開けるぞ?」
銀狼が皆に言うと皆無言で頷く。
そして開かれた扉の先に広がっていたのは先のサハギンキングとの対戦部屋のように広さ50mほどの正方形の部屋。これも同じく壁から1m程は水が流れてはいる。
そんな正方形の部屋の中心に居座るのは全長3mはあろうかという巨大なスライムだった。
ジャイアントスライムでも1m50cm程度なのでかなりの巨体である。
「あれはグランスライムですね。グランは大型の、を意味するグランドだけでなく、格闘家を意味するグラップラーの意味も含まれていたはずです。」
流石は魔物に詳しい白狐、敵の情報を皆に伝える。
それに反応したのは紫鬼。
「なに?格闘家じゃと?それなら同じ格闘技を使う拳闘士のワシが相手をしてやらねばなるまいて。」
そう言って1歩前に出ようとする。
「おい紫鬼!わかってると思うが相手はスライムだぞ?打撃系にはすこぶる強い。ここはオレ達に任せた方が。」
「みなまで言うな。相手はスライム。わかっておる。だが同じ格闘技を愛する者としては戦わずにはいられんのだ。」
銀狼の制止を振り切るとグランスライムの方へと1人歩き出す紫鬼。
こうなったら言い聞かせる事は難しいだろう。
俺達は格闘家対拳闘士の闘いを見守る事にしたのだった。




