512話 嘆きの迷宮4
地下20階層には他にも同様なプールのような部屋があり、いずれも巨大なタコの魔物が出現した。
ただ1度倒している相手の為、それ以降も特に苦戦すること無く撃破できた。
ここにきてようやく金獅子も水中での戦いに慣れてきたようで、タコを相手に水中で電撃を放ち感電させた状態で切り刻むという戦法もとっていた。
だたし、それは味方が水中にいないことが大前提で、1回俺も一緒に水中にいるときに電撃を流されて軽く感電すると言ったことがあった。
「まったく、気を付けてくれよな。」
「すまん。後ろから黒猫が飛び込んだのに気付かなんだ。以後気を付けよう。」
「頼むぜ。」
まぁ王鎧のおかげで全身に電撃が走り、しばらく痺れる程度だったから良かったが、生身だったら危なかったかもしれない。
そんなこんなありながらも地下20階層を進み、下階に降りる階段を見つけた俺達。
時刻は夕方くらいか。まど先に進めるだけの気力も体力も残っていた為、休憩せずに地下21階層へと降りる。
そこは上階のように廊下が伸びたつくりになっており、特に扉で仕切られた部屋があるわけでもなかった。
ただ出てくる魔物はランクがあがり、サハギンソルジャーやサハギンジェネラル、ナイトリザードマンにキングリザードマンなどの上位種が出てきた。
サハギンソルジャー、サハギンジェネラルは相変わらず二叉の槍を持っていたが、身に着けている防具が上物に替わっていた。通常のサハギンは特に防具など身に着けていなかったのだが、ソルジャーは皮鎧、ジェネラルは全身鎧を身に纏っていた。
槍の腕前も上がっており、金獅子の大剣を絡め捕り上方に跳ね上げてから突きを放ってくるなど、力技だけでなく、技術面でもつよくなっていた。
ナイトリザードマンはカットラスに全身鎧、キングリザードマンはバスタードソードに全身鎧と装備こそ立派になっていたがまだまだ技術面はこちらが上だった。
ランクにしてDランクからCランク相当。まだまだ苦戦する相手ではないな。
そんな魔物を相手にしながらも先に進み、地下25階層へと到着した。
ここは通路が全て水に浸かり、深度は不明。何処からか水が流れており川のようになっている。ただ、階段を降りたところに10人は乗れそうな中型の手漕ぎボートがあり、それに乗って進めと言うことらしい。
力仕事は任せておけという紫鬼にオールの操舵を任せて川を降る。
時折急勾配やら岩場やらがあり、適当な操舵をしていたら転覆もありえそうだったが、流石は紫鬼。鬼ヶ島から大陸まで手漕ぎボートでやって来ただけはあり、操舵は完璧だった。
暫く流れに乗って進むと大きめの部屋に入り込んだ。すると中央に大きめの岩場があり、そこから微かに歌声が聞こえる。
聞いていると心が休まるような不思議なメロディであり、紫鬼も無意識のうちにそちらにボードを進めてしまう。
と気付くと歌声も大きくなっており、岩場の上には鳥の翼に鳥の下半身を持つセイレーンの姿があった。どうやら唄っていたのはこいつららしい。
紫鬼に金獅子、蒼龍などは歌声に惹かれて陶酔状態で戦える状況じゃ無かった為、銀狼と紺馬、白狐と俺で数羽のセイレーンと対峙した。
何よりも足場が小舟だったのが、苦戦した原因だな。
セイレーンは翼を広げて猛禽類の如き脚の爪で襲いかかってくる。
普段なら軽く避けられる攻撃だが小舟の上ともなるとそうもいかず、俺はナイフで爪の攻撃を受け流しつつ、反撃を狙う。
しかしセイレーンもすぐさま上空を飛びこちらの攻撃から逃れる。
その間も歌声は響き続け魅了された3人はうっとりと聴き入っている。
白狐と銀狼が1体ずつ撃ち倒して残りは5体。
紺馬が空飛ぶセイレーンを射貫き、墜落させると俺が空かさず首を刎ねる。
残り1体となったところでようやく歌声も止まり、それまでの歌声が嘘みたいにギーギーと金切り声を上げる。
「む?俺様は一体何を?」
「ワシはどうしてたかな?」
「我も正気を失っていたらしいな。」
ここで歌声に魅了されてた3人も正気に戻った。
上空から滑空してくるセイレーンを大剣で迎撃する金獅子。大剣を避ける、その僅かな隙を付いて蒼龍が三叉の槍でセイレーンを突き殺した。
セイレーンを全て倒すと部屋にあった扉が開き、また水が川のように流れていき、小舟もその流れに乗る。
またしても激流や軽い落差などがありつつも下階に降りる階段のある踊り場に停止した小舟から降りて足元を確かめる。
暫く船の上で揺られていたせいか陸酔いしたように足元が覚束ない。
紺馬と緑鳥も同じような状態であった為、今日のところは地下26階層に降りる階段前で休息を取ることにした。
夕食は簡単に素揚げしたタコ足と作り置きの唐揚げ。揚げ物ばかりで胃がもたれても困るのでサッパリとした葉物のお浸しも付け合わせで出す。
思いのほかお浸しがよく出て、作り置きがなくなった為、食後は簡単に調理してほうれん草のお浸しと、根菜の煮物を作った。煮物はおでんに使った煮汁の再活用だ。
この階層では敵が出てくる心配もなさそうなので、見張り番は1人にしてみんなで睡眠を取ることにした。
にしても流れる川に船とはなかなか凝った造りの迷宮だな。
ちなみに乗ってきた船は全員が降りると壁に空いた穴からどこかに流れて行った。またスタート地点にでももどるのだろうか。
帰りは如何するんだろう?と疑問に思いつつもひとまずは寝る事にした。
3日目で4分の1の階層を降りてきた事になる。
帰り道も考えると少しペースアップが必要かもしれない。
そんな事を考えているうちに眠りについたのだった。




