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黒猫と12人の王  作者: 病床の翁


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505話 旧王国首都ワンズ11

 茶牛と翠鷹がドワーフ王国に旅立った翌日。

 朝食後、俺達迷宮探索チームも藍鷲にワンズまでのゲートを開いて貰い移動を開始した。

 まずは俺のツリーハウスの傍に開いたゲートからワンズの街に入って、改めて『嘆きの迷宮』についての情報を集める事にした。


 傭兵ギルドにもダンジョンシーカー達の姿もちらほら見られる。

 傭兵とダンジョンシーカーの見分け方は荷物の量だな。背負いバックに大量の荷物を入れている奴らはダンジョンシーカーである可能性が高い。

 そんな目星を付けたダンジョンシーカー達に話を聞いていき、『嘆きの迷宮』についての情報を集めた。

 曰く、水が溢れる階層がある。曰く、魚系の魔物が沢山出る。曰く、地形は毎日変動する為地図が意味をなさない。曰く、毎日50組ほどのダンジョンシーカーが潜っている。曰く、毎日何かしらの宝箱が出てくるらしい。曰く、地下100階層まであるらしい。曰く、76階層以階には誰も到達した事が無い。

 と、10組ほどに話を聞いたが具体的なのは水に関係する迷宮だと言うことだ。

 幸いにも王鎧に身を包んでいる間は水中でも息が出来る事が出来る事は判明している。

 その点今回の迷宮探索は問題なさそうだ。


「水が溢れるとか言っておったな。」

 金獅子が不安そうに言う。

「水は大丈夫だそ?前に王化中に海に落ちた時、水中でも呼吸が出来たんだ。息さえ出来れば水中でも問題解決だろ?」

「いや、実は俺様は泳げないのだ。」

「え?金獅子、泳げないのか?」

「うむ。獣王国にはあまり泳げるような河もなくてな。水には数十秒、顔を浸けるだけで精一杯だ。」

 意外な弱点が露わになった。

「それに水中で戦った経験もない。」

「確かにな。俺も水中で戦った時にはなかなか慣れるのには時間がかかったかもな。」

「であろう?泳げん上に水中での戦闘経験もない。不安ばかりが募るな。」

「まぁ息継ぎが必要ないのはかなりのアドバンテージだろ。水中での動き方はその時々で慣れていくしかないさ。」

「うむ。そうだな。諦めるしかないな。」

 若干気落ちしている金獅子を宥めつつ、俺はせっせとおにぎりを結んでいる。迷宮探索となれば悠長に飯を食っている暇もないかもしれない。そんな時に手軽に食事が出来るように作って置いたおにぎりを影収納に仕舞っておくのだ。

 他の面々は迷宮探索の準備として食材やら水やらを買い込みに行った。街の人々にも迷宮について話を聞いてくると言っていたので、少し時間はかかるかもしれない。

 その間に俺はせっせとおにぎりを握るのである。

 金獅子はと言えば地図とにらめっこしている。迷宮の位置を確認しているのだ。

 途中ワイバーンの群れが住む崖もあるようで、そこを迂回するべきか真っ直ぐ進むべきかなど、ルートを確認していた。


 街の人々からの聞き込みもあって、ワンズからの『嘆きの迷宮』までの正確な道筋もわかった。

 どうやらワンズから見て北西に2日も進むと大きな湖があり、その湖に隣接するかたちで迷宮への入口があるらしい。

 途中ワイバーンの住み家やゴブリンなどがよく出るスポットはあるものの、真っ直ぐ進むのが1番早そうだ。

 湖近くだから湖に溜まった水が迷宮に流れ込んでいるのかもしれないな。

 何にせよ、準備は整った。

 さぁ、迷宮探索に出発だ。


 ツリーハウスのある、勝手知ったる北西の森。と思っていたのだが、俺も行ったことの無い北よりの森ではゴブリンが大量に湧いてきて、ホブゴブリンやらオーガや

 らまで集団で襲ってきた。

 俺が知っている北西ではオーガは多くても3体程度、ゴブリンなんてのも数匹纏まってるくらいなもんだったが、ここでは数十単位で襲って来やがる。

 たかがゴブリンとは言え、こうも戦闘が続くと消耗する。

 昼過ぎにWANDSを出て7時間程度。すでに辺りは暗くなっており、野営の準備をする頃合いだ。

 だが、ゴブリン達の襲撃が止まない。

 仕方なく俺達は野営の設営担当とゴブリン討伐担当に別れて準備を進めた。

 野営の準備組は俺に紺馬、紫鬼、緑鳥の4人。ゴブリン討伐組は白狐、金獅子、銀狼、蒼龍だ。

「野営の支度が出来たぞ。休める奴からおにぎり食って休め。討伐組はまだいけるか?」

「まだまだ余力はありますよ。」

「あぁ大丈夫だ。先に休んでくれ。」

 俺が問い掛けると白狐と銀狼が答える。お言葉に甘えて先に休憩させて貰おう。

「2時間経ったら交換するから、それまで頼むぞ。」

「任せて下さい。」

 ゴブリンの首を刎ねながら白狐が答える。


 2時間後、軽い仮眠を取った俺達は討伐組と交換する為に起き出した。俺は影収納から4人分のおにぎりを取り出しておく。

 緑鳥までもゴブリン迎撃に出ようとしているので声をかけた。

「おい。緑鳥も戦うのか?」

「はい!ゴブリン程度ならこれで撃退出来ますし!」

 そう言う緑鳥の手にはあの『愚者の迷宮』で偶然知り合ったケレイブから譲り受けた魔導砲が抱えられていた。足元には大量に集めた石塊も積み上がっている。

「そっか。それがあったな。んじゃ緑鳥、危なくなったら声上げろよ。すぐに向かうから。」

「はい!よろしくお願いいたします!」

「白狐!金獅子!銀狼!蒼龍!交替の時間だ!下がってくれていいぞ。あとは任せろ。」

「うむ。頼んだ。」

「ふぅ、さすがに少し疲れたな。」

「クロさんのおにぎりがありますよー。早く食べましょう。」

「紺馬、気を付けろよ。」

 蒼龍が紺馬に声をかける。

「わかってる。大丈夫だ。」

 矢を番えながら紺馬が答える。


 さて、ゴブリン退治の始まりだ。


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