503話 聖都セレスティア56
全員が食卓につき、食事が始まった。
やはり翠鷹は慣れない左腕での食事に難儀しているようだが、スプーンを用意していたおかげでなんとか食事にはなっているようだ。
そんな中、白狐が蒼龍に問う。
「蒼龍さん、蒼龍さん。今日の食事はいかがです?」
「ん?美味いぞ。いつも通り美味いが?」
「いつも通りですか?なにか違うでしょ?」
「ん?そう言われてみれば若干甘味が少ないか?我好みの味だな。」
それを聞いた白狐は紺馬に言う。
「蒼龍さん好みですって。良かったですね。紺馬さん!」
「ん?なぜそこで紺馬に言う?」
蒼龍が不思議そうに言う。
「ふふふっ。なんと今日の料理は紺馬さんが作ったのです!私もクロさんもお手伝い程度で、具材の仕込みから味付けまで全部紺馬さんがやったんですよ!」
白狐が大々的に宣言する。
それを聞いている紺馬は若干顔が赤らんでいる。
「蒼龍。美味しいか?」
「うむ。紺馬が作ってくれたのか?美味いぞ。黒猫の料理にも引けを取らんぞ。」
そこまで言われると俺も黙っちゃいられない。
「おいおい。俺の料理と遜色ないって?そりゃないぜ。俺なら肉じゃがはもう少し甘く煮込むぜ?」
「うむ。我はあまり甘いのは得意ではないからな。このくらいでちょうど良いのだ。美味いぞ、紺馬。」
何度も味を褒められて顔が真っ赤になっている紺馬。
「そ、そうか。なら良かった。肉じゃがのレシピは覚えたからいつでも作ってやれるぞ。」
「む?そうか。我も肉じゃがは好物だからな。また作って貰おう。」
「う、うん。任せておけ。」
惚気てる2人である。
「うむ。料理の事はそのくらいにして今後の事を話そうか。」
金獅子が言い始めた。
「まずは翠鷹と茶牛はドワーフ王国に。そこで翠鷹の義手を作るって事で良いな?」
それに頷く茶牛と翠鷹。
「あぁ。儂に任せておけぇ。立派な義手作ってやるぞぉ。」
「すんまへんな。頼んますわ。」
「となると、他のメンツはどうする?当初の予定では『嘆きの迷宮』に挑もうという話だったが、翠鷹と茶牛が抜けてしまうのであれば今回は見送るか?」
金獅子が言うと翠鷹が話し始める。
「それについてはウチからええですか?今回実感したんやけど、こっから先誰がいなくなるかわからへん。今回だってたまたまウチは助けて貰ろたけど、死んでてもおかしくなかったはずや。せやからウチと茶牛はんがいなくとも行けるメンバーが多いうちに迷宮には挑んで貰いたいんよ。その後の戦いに有利になる魔道具が手に入るかもしれへんやろ?」
「せやな。迷宮産の魔道具言うたらその辺の魔道具とはくらべものにならんくらい強力な武器になるやろな。」
朱鮫も頷く。
「オレも翠鷹に賛成だ。特にオレも蒼龍も緑鳥も、翠鷹だって義肢に頼っている。この先の戦いで損耗してまと茶牛に直して貰う必要が出てくるかもしれない。そうなった時に今以上に動けるメンバーがいないなんて事にもなりかねないだろ?」
「うむ。ワシもそれでいいぞ。行けるのはワシに銀狼、金獅子に白狐、クロに緑鳥、蒼龍に紺馬の8人じゃろ?そんだけいれば迷宮探索にも問題はあるまいて。」
銀狼の言葉に紫鬼も頷いて続ける。
「もともとワイと藍鷲殿は居残り予定やったしな。迷宮探索の基本は5人パーティーからやし、8人もおったら十分やろ。緑鳥殿も行けるやろしな。」
「えぇ。わたしもまた今回の被害状況を各国に伝える書状さえ送ってしまえば同行可能でございます。」
朱鮫の言葉に緑鳥も同意する。
「なら8人で迷宮探索に行くで決定でいいだろう。緑鳥はどのぐらいで書状ご書き終わる?」
「今日、今晩中には仕上げます。」
俺が聞くと緑鳥が答えてくれる。今晩中って結構な仕事量なんじゃないか?
「大丈夫なのか?」
「えぇ。もうある程度は甲蟲人についての共有も済んでいますし、本当に今回の被災地とその被害状況を伝えるだけですから。」
「そうか。なら明日の朝一で移動するって事でいいか?」
「うむ。『嘆きの迷宮』は確か旧王国領であったな?」
俺の質問に金獅子が質問で返してきた。俺は答えてやる。
「あぁ。ワンズから北西に進んだところにあったはずだ。だから藍鷲、明日朝一でワンズまでのゲートを開いて貰えるか?」
「わかりました。お任せ下さい。」
「儂らは食事を終えたらすぐにドワーフ王国に向かうだぁよぉ。翠鷹も早く義手が出来上がった方がいいだろうしなぁ。」
「すんまへんな。茶牛はん。藍鷲はん、こっちもゲートの魔法お願いしますわ。」
「はい。お任せ下さい。」
茶牛達は明日を待たずに移動すると言う。
「で、朱鮫と藍鷲の王化継続時間は今どの程度なのだ?」
金獅子が問う。
「せやな。次の甲蟲人侵攻までの期間で3時間に到達するかなっちゅうところやわ。今回の別行動が最後と考えて貰ろてええよ。な?藍鷲殿?」
「そうですね。僕も次の修行で3時間に到達出来ると思います。」
「そうか。なら次の迷宮探索には2人も行けるな。」
「せやね。迷宮っちゅう限られた地形でワイらの魔術がどこまで有効かはわからんけどな。」
「ダンジョンシーカーの中にも魔術師を含んでいるパーティーはいくつかあった。大規模爆発呪文は使えんだろうが、普通に魔術を放つ分には問題ない広さもある。」
金獅子と朱鮫が会話している間に全員の食事が終わったので、俺は食器類の片付けに席を立った。白狐に緑鳥も手伝ってくれる。
俺は食器類を軽く水洗いすると影収納に収めていった。
食堂に戻るとすでに茶牛と翠鷹の姿はなかった。
「2人はもう行ったのか?」
「あぁ。さっさと話を切り上げてドワーフ王国に向かったよ。」
銀狼が答えてくれた。
「うむ。俺様達も明日に備えて早く寝るか。緑鳥もほどほどにして休めよ。朝一に間に合わないようなら向かう時間を変えてもいい。」
「はい。お気遣いありがとうございます。」
金獅子が緑鳥に声をかけていた。
さて、今日は疲れた。
さっさと寝て明日からの迷宮探索に備えよう。




