500話 聖都セレスティア53
聖都へと戻ってきた俺達。翠鷹は早速緑鳥の手配で輸血を受ける事になった。
だいたい2時間はかかるらしい。
って事は2時間は自由時間、つまり調理の時間だ。
手伝いはいつも通り白狐、それにどんな心境の変化か紺馬も手伝うと言って調理場へとやって来た。
これはあれか?蒼龍と結婚したから花嫁修業って事か?
それならば料理のイロハを教えてやらねばなるまい。つまり包丁の使い方から食材の切り方、味付けの基本などだ。となれば創る料理は1つしか無い。肉じゃがだ。
なんで料理のイロハが肉じゃがかって?そりゃ俺が初めて作った料理だからだ。
肉じゃがの調理工程は奥深い。まずは鍋で肉を炒める事から始まり、下味を付けて、次に水を入れて野菜を煮込む。煮込みすぎると味が濃くなるから味付けも繊細さが問われる。具材の切り方も様々にする事で味のしみこみ具合が変わって味にバリエーションが出る。
俺が創る肉じゃがは豚こま肉と挽肉を使う。挽肉を作る際に肉を叩き切る事もするので余計包丁の使い方を工夫する必要がある。
包丁の使い方から食材の切り方を学ぶにはもってこいなのだ。
と、その前に米の炊き方から教えなくては。
「いいか?米はただ水に漬ければいいって話じゃないんだ。先に研ぐ必要がある。」
「研ぐ?刃物みたいにか?」
「いや、研ぐと言っても砥石で研ぐ訳じゃない。米同士を擦り合わせて糠やホコリ、ゴミを取るんだ。米の表面を磨くって意味で研ぐって言うらしいぞ。」
「へぇー。クロさん、博識ですね。」
「親父の受け売りだ。紺馬、やってみ。」
俺はザルに米を入れてボウルと一緒に紺馬に渡した。
「や、何からすればいいんだ?米を擦り合わせるって事はかき混ぜればいいのか?」
「だよな。まずは説明されないとわからんよな。まずはボウルに水を溜めて、ザルごと米を水に漬ける。」
「ボウルに水を。ザルごと漬ける。」
俺が言った通りに紺馬がボウルに水を溜め始める。
「まずは水の中で簡単に攪拌して付いた汚れを落とすんだ。で、その後は水から出して水を切ってから米同士をぶつけ合うように捏ねるように研ぐ。」
「攪拌して、水を切ってから米同士をぶつける。こうか?」
ぎこちない手つきで米を混ぜ始める紺馬。そこに白狐が口を出した。
「かき混ぜてるだけじゃダメですよ。貸して下さい。手本を見せます。」
ジャッジャッジャッ
手慣れた手つきで米を研ぎ始めた白狐。
「へぇ。白狐も米研げるんだな。」
「出来ますよぉ。何年生きてると思ってるんですか?」
「夜王は料理を父親から教わったのか?」
「ん?あぁ。俺には親父しかいなかったからな。」
「そうか。ワタシは母様が料理を教えてくれようとしたが父様に狩猟を習ったんだ。」
「なぜ料理を習わなかったんですか?」
「ワタシには向いていないと思った。だが、ワタシも蒼龍の妻となったからには料理が出来るようになりたい。」
「ではまずは実戦ですね。さっきやって見せたように研いで下さい。」
「こ、こうか?」
まだぎこちない手つきながらもかき混ぜるだけでなく米をきちんと研げている。
ジャッジャッジャッ
「そうです。そうです。この音です。この音が米同士がぶつかり合って研がれてる音です。」
「なるほど。この音か。」
「もうそれくらいでいいだろう。あまり研ぎすぎると米の粒が割れてしまうからな。次はボウルに移して流水で洗い流すんだ。」
ザルからボウルに米を移して洗い始める紺馬。うん、順調だな。
「で、ザルで水を切ったら炊飯器に入れる。でここで登場するのが俺が競り落とした魔法の炊飯器だ。」
じゃじゃーんと影収納から炊飯器を取り出す。
「クロさん、料理のイロハを伝えるなら普通の手順の方がいいんじゃないですか?」
「いいや、ここで魔法の炊飯器を使っておくことで、この品がどれだけ素晴らしいものだったかを思い知るのだ。」
「なるほど。自慢したいんですね。」
「まぁな。誰もこいつの素晴らしさに共感してくれなくて若干寂しかったんだ。まぁ、いいだろう。炊飯器に入れるところまでは一緒だ。米とそれに合った水の量を入れる。水の量で米の炊きあがりが変わってくる。水を入れすぎたら柔くなるし、少なければ硬くなる。カレーなんかの日は敢えて硬めに炊くとかもありだな。水物に漬けて食べる分、硬めでもいいんだ。」
「水の量か。」
「まぁ、その辺りはやっていく中でなんとなくわかってくるだろう。今日は炊飯器の釜に引いてある線まで水を入れればいいよ。」
「線?あぁ、これか。」
炊飯器の釜には米の量に合った水の量を教えてくれるガイドの線が引かれている。
「そ、それで炊飯器にセットしてボタンを押すだけで米が炊けるって訳よ。」
「普通は違うのか?」
「普通は米を炊くには水に漬け置きして、火にかけて、水を吸ったら飯盒を裏返して蒸すとかややこい手順が必要になる。それがこいつはボタン1つで炊き上がるんだ。どうだ?凄いだろ?」
「いや、普通の手順がよくわからないからな。ただ手間が掛からないってのはわかったよ。」
うん。まぁ、その程度の感想でも今はいいだろう。次に飯盒で米を炊くときに実感するだろうさ。こいつの素晴らしさをな。
さて、米は仕込んだ。
次はいよいよ肉じゃが作りだな。




