49話 進軍4
また魔族の集落を1つ潰した俺達と帝国軍。
『仕方あるまい。向かってくる敵は倒さねばならん。』
ヨルが言う。
戦闘の後、帝国軍は村の中を捜索し、まだ幼子で先程の戦闘に参加しなかった鬼種を殺して回っている。
「今は戦えない者まで殺す事は無いと思うんだ。」
俺は呟く。
「それも仕方あるまい。鬼種は成長が早い。放っておけば、また人族に害を成すだろうて。」
金獅子が言ってくる。
言っている事は理解は出来る。
俺もゴブリンコミュニティを発見した時には赤子も殺した。
だけどあれは人族領での話で相手は魔物だった。
やはり人語を話すような戦闘能力のない者達まで殺すのはなんか違う。
まるで殺しのターゲット以外の家政婦などを殺して回っている気分だ。
俺は殺し屋時代は出来る限りターゲット以外は殺さなかった。
時にはターゲットの護衛と戦う事はあってもあくまで向かってきたから倒しただけだ。
無為に殺してきた訳じゃない。
「アタイも黒猫の言う事には賛成だね。戦う力もない奴等なら見逃してもいいと思う。人族の脅威になるようならその時に倒せばいい。」
灰虎も言う。
『いずれにせよ、あの帝国軍は止まらんだろうぜ。魔族憎し殺すべし、だからな。』
ヨルが言ってくる。
「うむ。我々だけでは帝国軍は止められんだろうな。」
蒼龍まで言ってくる。
「1度あちらの大将に話してみるよ。」
俺が言うと、
「うむ。やってみたいのなら、やるべきである。」
紅猿が賛成してくれた。
そこで俺は帝国軍将軍と思われる顔中髭で覆われた人物の元へと向かった。
「なぁ。あんたが帝国軍の大将なんだろ?」
俺が訊ねると、
「む?、いかにも。俺は帝国軍の将軍バルバドスだ。な何か様か小僧?貴様らも先程の戦闘には加わっていたな?」
帝国軍将軍が答える。
「なぁ。あんた達は戦えない奴等まで殺して回ってるだろ?あれ、やめないか?」
「何を言う。相手は魔族であるぞ?人族に害を成す者達だ。殺して当然であろう。」
「いや、でもさ。」
「えぇい、うるさい小僧だ。魔族は討つ。これは人族として当然の行いだ。これ以上言うなら貴様も切り伏せるぞ!」
帝国軍将軍は全く聞く耳を持たなかった。
トボトボと皆の元へと戻る。
「その様子じゃ、話にならなかったんだな?」
銀狼に聞かれた。
「あぁ全く聞く耳を持たれなかった。ヨルの言うとおり、魔族憎し殺すべしって感じだった。」
「まぁ気を落とさずに。わたしたちは私達で立ち向かって来る魔族だけを相手にしましょう。」
白狐が言う。
「そうだな。」
俺は渋々納得するのであった。
その後も帝国軍の進軍の後ろからついて行く形で俺達は進む。
やがて鬱蒼とした森の中に入った。
魔獣が沢山でそうな雰囲気だ。
と、思っていたら早速狼型の魔獣が数匹群れとなって襲ってきた。
例の額に第三の目を持つ個体もいる。
俺は緑鳥の守りは銀狼に任せて1匹のワイルドウルフに対峙する。
ワイルドウルフは普通の狼の2倍近い体躯を持ちながら素早い動きで俺達を囲い込む。
「飛剣・鎌鼬!」
白狐が高速で抜刀し、真空刃を群れのボスと思われる見た目に放つ。
こういった魔獣の群れと対峙する際には群れのボスを先に倒せればその後の連携が上手く行かなくなり倒しやすくなる。
しかし群れのボスはひらりと真空刃を躱す。
やはり3つ目があるだけあって距離感などを正確に見定める事が出来るようだ。
俺は目の前のワイルドウルフに両手に持ったナイフで斬りかかる。
左手に握ったナイフを上に跳んで避けるワイルドウルフ。
空中なら避けられまい。
俺は右手に握ったナイフでワイルドウルフの腹部を切り裂く。
内蔵を溢しながらも尚も動こうとするワイルドウルフ。
しかしその動きは明らかに遅くなり、俺が突き出したナイフが眼球に刺さり脳まで達するとようやくその動きを止めた。
皆もそれぞれワイルドウルフを討伐していた。
ボスは白狐が倒したようでその首を刎ねられていた。
『クロよ。お前戦いの中での動きが良くなったな。』
ヨルが言ってくる。
俺も魔物との戦いを繰り返す事で強くなっているようだ。
『オーガ3体にやられていた頃とは段違いだ。動きにキレがある。』
尚もヨルが言ってくる。
「そうか。俺も成長してるって事だな。」
俺は答えた。
その後も多眼種が多く出没した。
主に森に住まう獣だ。
まだ魔人は出てきていない。
しばらく進むとまた集落らしき場所に出た。
敵は多眼種、アラクネと百々目鬼、第三の目を持つ子供のような魔人もいた。
その数およそ100体。
帝国軍兵士と多眼種族の戦いが始まった。
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帝国軍には2人のエースがいた。
1人は額の左から右の頬に抜ける大きな剣創を持つ2mの巨漢、シャラマン。
もう1人はフルフェイスの兜を被った170㎝程の痩せた女兵士、フェリオサ。
シャラマンは片手に大楯を持ち、もう片方には手斧を持っており、フェリオサは細剣を持っている。
他の兵士達とは異なる装備である。
それこそがこの2人が特別な兵士である証拠で、一般兵士と区別する為に特例兵士と呼ばれていた。
将軍バルバドスを帝国軍団の団長とするならばこの2人は副団長にあたる。
その為、通常5人1組での体制を取ってはいるが、この2人だけは特別に2人1組で組んでいる。
シャラマンが重装兵兼歩兵の役割を果たし、フェリオサが槍兵、歩兵の如き役割を演じている。
そんな2人は今、第三の目を持つ少年のような見た目の魔人と対峙している。
少年の動きは素早く、手にしたナイフで斬りかかり、すぐに後退すると言ったヒットアンドウェイ作戦で向かって来ている。
しかしその攻撃はことごとくシャラマンの持つ大楯に阻まれており、2人にはダメージはない。
「ぬはははっ!おれにはそんな攻撃は通じないぞ!」
シャラマンが猛る。
逆に大楯で止めた際には2人のして斬りかかるのだが、その時にはすでに少年は後退しており同じくダメージを与えられていなかった。
「ちっ!素早いですわね。」
フェリオサも攻撃が全く当てられない状況に苛つく。
そんな攻防がひとしきり終わった時、少年が声を上げた。
「ボクノ邪眼ノ威力ヲ見セテヤル!」
どこか調子外れな口調である。
やっと人語を話せる様になった感じだった。
少年はそう言うと腰をかがめて力み始める。
何かあると思った2人はシャラマンの大楯に身を隠す。
「喰ラエ!麻痺ノ邪眼!」
少年はそう叫ぶと第三の目を大きく見開く。
しかし、シャラマンもフェリオサも大楯に身を隠しており、少年の第三の目を見ていない。
この邪眼とは相手の視神経を通じて麻痺などの効果をもたらすものであり、第三の目を見ていないと効果を発揮しないのだ。
「「?」」
何かが来ると思って身構えていたシャラマンとフェリオサは一向に何も起きない事を訝しがっている。
やがて何もないと判断したシャラマンとフェリオサの2人は防御中心の体勢から攻撃中心の体勢へと移行する。
シャラマンが大楯を持ち的へと突っ込みシールドバッシュで体勢を崩すと片手の手斧を振り上げる。
またそのタイミングでシャラマンの後ろから飛び出したフェリオサが細剣を突き出す。
シャラマンの手斧により頭を額まで割られ、フェリオサの細剣に心臓部を貫かれた少年は息絶える。
2人は少年の言葉を思い返しながら言う。
「さっきの邪眼の威力ってのはなんだったんだろな?」
「さあ。ワタシにも分かりませんわ。もしかしたら不発に終わっただけかもしれませんね。」
2人がそんな話をしていると、
「なんだ?!体が動かない!」
「なんで急に眠り始めたんだ?!」
周りの同じく第三の目を持つ少年達と戦っていた兵士達が騒ぎ出す。
「急に眠っただと?」
「あちらは体が動かないとか?」
シャラマンとフェリオサが訝しがる。
「もしかしてさっきの少年も同じ攻撃を仕掛けて来たのかもしれませんわ。」
「じゃあなんでおれ達はなんとも無かったんだ?」
フェリオサの言葉にシャラマンが疑問を投げかける。
「分かりませんわ。ただ彼等のフォローに回らないと!」
「おう!」
2人は言って別の第三の目を持つ少年に駆けだした。
「邪眼ノ力ヲ見セテヤル!睡魔ノ邪眼!」
少年が第三の目を見開く。
シャラマンは大楯に身を隠していたが、周りにいた重装兵がいきなり倒れていびきをかき始めた。
「また眠った?!」
「シャラマン!無事ですか?」
「あぁ。おれはなんともない。」
「もしかして」
フェリオサは何かに気付き声を上げる。
「皆の者!邪眼に見られるな!奴等の視界に入ったら眠らされますわ!」
ちょっと間違えた解釈をしたフェリオサの声に、少年たちに対峙する兵士達は大盾に身を隠すように1列になった。
「これはいつまで見られてはいけないのでしょうか?」
1人の兵士がフェリオサに訊ねる。
「先程は30秒程度身を隠していたら大丈夫でしたわ。もう少し待ちましょう!」
フェリオサに言われ全員大盾に隠れたまま硬直する。
そのタイミングで少年たちは動き出す。
大盾の内側に潜り込み、手にしたナイフで重装兵に斬りつける。
「ぐわー!」
目元を斬られた兵士がもんどり打つ。
「今です!」
フェリオサの声に反応して歩兵、槍兵が飛び出し少年たちに斬りかかる。
一斉に攻撃され逃げ切れなかった少年たちが倒れる。
「敵はもう少しだ!また邪眼が来る前に押し込め!」
シャラマンの声に反応して重装兵、歩兵、槍兵が一気に少年たちに襲いかかる。
最初の方こそ逃げ延びた少年たちだったが、帝国軍兵士達の数に圧倒され、次々と倒れて行く。
こうして帝国軍兵士達は邪眼の攻撃を回避して少年たちを一掃したのだった。
一方、百々目鬼を相手にしていた帝国軍兵士達も百々目鬼ご放つ四方八方への怪光線を前に攻めあぐねていた。
重装兵の大盾に歩兵も槍兵も身を隠すように1列になって百々目鬼ににじり寄る。
「今だ!光線が止まった!」
その言葉を聞いた槍兵達が前に出て槍で突く。しかし百々目鬼も後退しながら怪光線を放っており槍が届かない。
「人間、殺ス。」
百々目鬼は言いながらまた怪光線を放つ。
またしても1列になり怪光線を避ける帝国軍兵士達。
そこで弓兵達が活躍した。
重装兵の後ろに隠れながらも山なりに矢を射て百々目鬼を蜂の巣にする。
矢の雨を受け後退出来なくなったところを槍兵が槍で突き刺す。
百々目鬼は一気に6本の槍に突き刺されその命を散らした。
1番手こずっているのはアラクネを相手にした帝国軍兵士達だった。
矢の攻撃は鎌状になった前脚で叩き落とされ、歩兵の剣も槍兵の槍も鎌状の前脚で弾く。
その上で人型の上半身の口から蜘蛛糸を吐き出し帝国軍兵士達をグルグル巻きにしてしまう。
多くの兵士達が蜘蛛糸に巻かれて倒れ込み体をうねらせる。
幸運なのは帝国軍兵士の数により次々とアラクネに対峙する者が現れ、蜘蛛糸で巻かれた兵士達をアラクネが始末出来ないでいる事だ。
「蜘蛛糸は火に弱いはずだ!弓兵!火矢を射ろ!」
誰かが叫び、弓兵達による火矢での一斉に射撃が始まった。
矢自体は鎌状の前脚に阻まれてダメージを与えられてはいないが一面、火矢が燃える熱で蜘蛛糸で巻かれた兵士達の蜘蛛糸も溶け出す。
「よし!これなら大丈夫だ!」
「蜘蛛糸の心配は無くなった!槍兵一斉に突け!」
その声を聞いてアラクネを取り囲む槍兵達が一斉に槍を突き出す。
硬い外皮に弾かれる者が多数だが中には見事に蜘蛛の下半身にある8個ある目を突き刺す事に成功する者もいた。
蜘蛛の眼球を刺され明らかに動きが悪くなるアラクネ。
その後は歩兵も加わり両脚の鎌を弾きながら蜘蛛の頭を潰しにかかる帝国軍兵士達。
こうしてアラクネ達もその数を減らしていった。
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帝国軍兵士が奮闘している。
そもそもの数が違う。
敵は100体程度に対して帝国軍兵士は10000名程度とその数100倍である。
いくら魔人が強かろうと数の暴威には勝てなかったようだ。
やがて最後のアラクネが槍で突かれて死んだ。
帝国軍兵士達にも死傷者は出ているようだがそこまで大きな被害てまはなさそうだ。
最前線で戦っていた2人組のうち、フルフェイスの兜を被っていた170㎝程の兵士が、その兜を取った。
金髪ロングの髪をなびかせる。
どうやら2人組の片方は珍しい女兵士だったようだ。
その2人組は他の兵士達と装備が異なる事から特別な兵士であることがわかる。
こうして多眼種の集落は俺達の出番なく落とされたのであった。




