496話 甲蟲人:百足5
まだ完全にはものにしていない仁王形態となった獣王。
「障壁!」
それでも、すぐさま障壁を展開して気絶した翠鷹を覆う。
戦闘の余波からその身を守ったのである。
2m四方の障壁。今の獣王が作れる最大の障壁である。
「王化!武王!」
龍王がそう叫ぶと右手親指にしたリングにはまる紅色の王玉から紅色の煙が立ちのぼり龍王を包み込む。
その煙が右腕に吸い込まれるように消えていくと、右腕に紅色の線が入った王鎧を纏い、その手に燃えるような紅色の槍を持った龍王が立っていた。
「一刻も早く緑鳥のもとへと翠鷹を運ばねば。毒が全身に回る前に。」
「そうさな。出し惜しみしている場合ではないな。雷纏!」
仁王形態でさらに雷纏で雷を身に纏った獣王。
今持てる力全てを注ぎ込んだ形だ。
「離れて!レインショット!」
精霊王が空に向けて数十の矢を射る。するとその矢が一斉に百足型甲蟲人へと降り注いだ。
「ぎゃっ!熱い!」
外骨格に阻まれて致命傷には至らない。だが全身を軽く焼くことには成功した。
僅かながらに百足型甲蟲人の動きが鈍くなる。
体を動かす度に火傷が痛みをもたらすのだ。
精霊王へと足を向ける百足型甲虫人。
「喰らいなさいヨ!」
振り下ろされるナイフ。
その時、百足型甲蟲人の背後から声が響く。
「障壁!」
次の瞬間、精霊王と百足型甲蟲人の間に見えない壁が展開され、百足型甲蟲人の振るったナイフを受け止めた。
「なに?!見えない壁?さっきまでこんなのなかったでしょ?!」
戸惑う百足型甲蟲人。尚も見えない障壁に向けてナイフを振るうもその強度を超える事は出来ない。
そこに追いつく獣王と龍王。
「うぉぉぉぉお!雷撃断頭斬!」
跳躍した獣王が大剣を振り下ろす。雷纏の効果によりその身体能力は底上げされて跳躍力も大剣を振り下ろす膂力も跳ね上がっている。
「はぁぁぁぁあ!双龍覇連突!」
龍王は三叉の槍と燃え盛る紅蓮の槍、2本の槍を交互に突き出し高速で突く。
左腕2本で獣王の大剣を受け止める百足型甲虫蟲人。電撃がナイフを伝って体を焼く。
「あばばばばばっ」
燃え盛る槍の連撃を腹部に受けてよろめく百足型甲蟲人。三叉の槍も躰の節に刺さり緑色の体液を撒き散らす。
「くっ!やったわネ。お返しヨ!」
残った腕でナイフを振るう百足型甲蟲人。それを三叉の槍で受け止めて紅蓮の槍で反撃する龍王。
「龍牙突!」
燃え盛る槍で肩口を貫通させる。
「ぎょわっ!熱い!」
これにはよろめきつつ距離を取る百足型甲蟲人。
その背後に迫る獣王。
「雷鳴剣!」
雷を纏った斬撃を百足型甲蟲人の背中に見舞う。
「ぎゃっ!後ろからとか卑怯じゃないのヨ!」
「はなから多対1でやらせて貰っているからな。今更卑怯もなにもないわ!」
尚も大剣を振り回す獣王。
その斬撃をナイフで受け止める百足型甲蟲人。数本の腕を失って尚もその優位性は変わらないように見える。
打ち出される大剣。火花を散らしながら受け止めるナイフ。
大剣が弾かれた瞬間に百足型甲蟲人が距離を詰める。
「貰ったわヨ!」
振るわれるナイフ。
しかし
「障壁!」
またしても見えない壁が展開、獣王と百足型甲蟲人の間を隔てる。
ガギンッ
見えない障壁に止められた百足型甲蟲人のナイフ。
「なにヨ!またこれ?!」
突破出来ないとわかりつつも障壁を叩く百足型甲蟲人。
その展開された障壁を飛び越えて獣王が仕掛ける。
「雷撃断頭斬!」
咄嗟に腕を掲げナイフでこれを受け止めた百足型甲蟲人。
「あばばばばっ」
雷の衝撃が百足型甲蟲人を襲う。
「双龍旋!」
2本の槍を左右に振り切る龍王。惜しくも斬撃は外骨格に阻まれて百足型甲蟲人の腹部を切り裂くには至らない。
「まだまだ!雷撃断頭斬!」
再び跳躍して大剣を振るう獣王。今度はナイフのガードが間に合わず首を背けてこれを避けた百足型甲蟲人。しかし、大剣は左肩から入り込み、一番上の左腕を刎飛ばす。
「うぎゃっ!やりやがりましてわネ!もう許さないんだからネ!」
残った2本の腕で素早くナイフで斬りつける百足型甲蟲人。しかし、雷纏状態の獣王の速度の方が勝っていた。
ナイフを弾き上げがら空きになった胸部へと大剣を滑り込ませる。
雷纏状態の攻撃にはすべて雷が纏う。
つまり通常攻撃すらも雷鳴剣と同程度の雷撃を含むのである。そんな一撃を胸部に受けた百足型甲蟲人。容赦なしに雷が全身を回る。
「あばばばばばっ」
そこへ2槍を突き出して攻撃を仕掛ける龍王。
「双龍牙突!」
回転を加えた三叉の槍と紅蓮の槍が残った右足の前から2本目、3本目を弾き飛ばす。
そもそもが5本もの足でバランスを取っていた百足型甲蟲人。今は右足1本、左足2本しか残っていない。その為、体勢を保つのにも精一杯で反撃どころではない。
「なにヨ!?さっきまでと動きが違うじゃないのヨ?!」
「真・獣王騎斬!」
そんな百足型甲蟲人の残った2本の左足に対して極限まで低姿勢になって大剣を振るう獣王。膝下から刎飛ばされる足。
「うぎゃっ!」
立っていられず膝をつく百足型甲蟲人。
「なんなの!?なんなのヨ?!こんなはずじゃ、なかったのに!」
獣王達の猛攻は続く。




