表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒猫と12人の王  作者: 病床の翁


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

486/548

485話 マジックヘブン6

 その頃、マジックヘブンに戻っていた朱鮫はとある難題に挑んでいた。

 というのも今、マジックヘブンの軍部である魔術師連隊コンジュラーレジメントの面々に配っている魔石魔術を刻んだワンドについてはファイアボールやウィンドボールなどの初級魔術が刻まれたものである。

 初級魔術でも詠唱の必要なしに魔術が放てるのは強みではあったが、甲蟲人相手となると威力不足が否めなかった。

 硬い外骨格に身を包んだ甲蟲人相手となるともっと威力の高い、貫通力のあるような魔術を刻んだ魔石が必要になってくるのではなかろうかと考えていたのだ。


 ただし、威力の高い魔術を放つにはそれなりに大きな魔素を集める必要があり、今現在朱鮫が刻んでいる魔素を集める術式ではどあってもボール系の魔術を放つので精一杯なのだった。

 その為、自身の王化継続時間を伸ばす訓練の合間には新しい魔素を集める魔石への術式展開を研究していた。


「やっぱり今の魔術式の強化やのうて、そもそもの造りから見直さなあかんか。」

 独り言ちる朱鮫。

「そうやなぁ。発動できる魔術としてはアロー系がいいやろか?バレット系のが初速は速いから貫通力は上がるか?いや、いっその事最上級のスピア系を放てるようにするべきか…。」

 頭の中で様々な魔術式が浮かんでは消えていく。

「なんにせよ、まずは魔素を集める魔石からやな。今の魔石には周囲の魔素を集める術式を施しとるが、これじゃ足らんのやから、もっと集める範囲を広げる必要があるな。」

 机に向かいブツブツと独り言を繰り返す朱鮫。

「んーそもそも威力の高い魔術を放つ時ってどないしとったかな?」

 最近は魔石魔術しか使ってこなかったので自身で詠唱して魔術を放つ時の事を忘れつつあった。

「こりゃ1回、魔術の見直しから必要やな。」

 そう言うといつも着込んでいる朱色のコートを手に取り、部屋を出た。


 朱鮫の住居はマジックタワーの高層階だ。下に降りるにはエレベーターを待つ必要がある。

 マジックタワーには3基のエレベーターがあるがそのどれもが常に稼働しておりなかなか朱鮫の住居のある高層階に辿りつかない。

「あぁ。これも改良できたらなぁ。もっと速い速度で上下させたらええねん。中の人の負荷がどうとか言う取ったけど、結局これ以上スピード出されへんから言うとるだけやろ。」

 エレベーター待ちでイライラしながら朱鮫が呟く。

 朱鮫は軍部の魔道具作成専門であり、こう言った生活用品や生活雑貨の魔道具作成には精通していない。


 先日のオークションで見つけた温風冷風の切り替わる片手で持てる筒型の送風機の模倣品としてヒートの魔術とアイスの魔術を組み込んでブロウの魔術で風を送るような魔道具造りも試していたりするのだが、こちらはどちらかと言えば趣味に近い。今のところ組み込む魔石が大きすぎて片手で持てるようなサイズ感にはなっていない。まだまだ改良の余地ありであった。


 エレベーターの待ち時間が10分を過ぎた頃。ようやく下階行きのエレベーターが到着した。

 朱鮫の住居は最上階に近い為に中に乗っている人の数は少ない。

 一番奥の壁際に寄りかかる朱鮫。上層階はまだいい。下層階になるにつれて利用者も増えてエレベーターの人数制限である30名ほどが乗り込んでくる。右も左も前面までもギチギチで身動きできないほどである。

 そんな苦痛を味わいたくなくて必然部屋に籠もりがちになる。

 だが今日は仕方ない。まさかタワーの高層階の中で魔術を発動させる訳にも行かないため、近くの平原に向かう予定だ。


 ようやく1階に到着して人混みを逃れる事が出来た。

 するとマジックヘブンの街中に鐘の音が鳴り響く。

「お、ちょうど正午か。そう言や腹も減っとるな。なんか食べてから行くか。」

 どうも1人になると独り言の増えてしまう朱鮫である。

 行きつけのラーメン屋『くらはち』に足を運ぶ朱鮫。ここのラーメンは太めの縮れ麺に濃厚な醤油ベースの汁が絡み、飲めるラーメンとまで称されている。必然店に来る客も多く、昼飯時ともなれば行列が出来る。

 だが今日は思いのほか行列が少ない。ラッキーだと思い10名ほどが並ぶ列に加わる。

 待ち時間にして20分ほどで店内に通された。

「チャーシュー麺、味玉トッピングで1つ頼むわ。」

 いつもの定番メニューを注文する朱鮫であったが、水を置きに来て、そのまま注文を取りに来た、店の切り盛りをしている夫婦の奥さんが言う。

「すんまへん。実は味玉がのうなってしもうてな。トッピング出来へんのよ。」

「そうなん?ほな普通のチャーシュー麺でええわ。」

「ほな、チャーシュー麺やね。ちょいと待っててや。」

 時間にして5分ほどでチャーシュー麺が出てくる。

 湯気が立ち上り醤油の焦げる匂いが鼻に通る。食欲をそそる匂いである。

 割り箸を割って、片手に箸、片手にレンゲを持ってスープから口にする。いつもの味だ。ボトルにでも入れて持ち帰りたいほどに塩味がちょうど良く醤油の匂いが鼻に抜ける。次は麺を啜る。太めの縮れ麺特有の食感がなんとも言えない。朱鮫は細麺よりも太麺の方が好みだ。

 次に口にいれたのはチャーシュー。口にいれた瞬間に肋が溶け出す。幸せな味である。


 一通り食べ終えてスープも飲み干した朱鮫は会計の為、カウンターに向かう。

 店主の奥さんが会計をしてくれる。

「にしてもお昼の時間帯に味玉が無くなるなんてよっぽど今朝は味玉が売れたんやな?」

 何気に聞いた朱鮫だったが、店主の奥さんの顔は暗い。

「どないしたん?」

「いやな。実は味玉は売れきった訳やのうて盗まれたんよ。」

「何やて?味盗まれた??」

「せやねん。ここの所数日に渡って店の金には目もくれずに味玉だけ持ち逃げされたんよ。」

 沸々と湧き上がる怒り。

「ワイの味玉盗んだんは誰や。おばちゃん、任しとき。ワイが絶対に犯人捕まえたるわ!」

 こうして朱鮫の味玉窃盗犯捜しが始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ