484話 聖都セレスティア52
「それで今日はどちらへ?」
緑鳥が問い掛ける。
「まずは演劇でも見ませんか?今なら有名な楽団の創世に関する物語が開演されているらしいので。」
「演劇、ですか?」
「はい。演劇はお嫌いですか?」
「いえ。わたしは演劇というものを見た事がなくて。」
「それなら絶好のチャンスじゃないですか。今日はただの町娘なんですから普段出来ない事をしましょう。」
そう言って演劇場へと足を向ける藍鷲。緑鳥はそれについて行く。まだエスコートする事には慣れていない藍鷲であった。
「あ、ちょうど10分後に開演ですって。タイミングが良かったですね。」
「えぇ。ぴったりなタイミングですね。」
実は朝、緑鳥を迎えに行った時からこの開演に合わせて逆算して行動していた藍鷲だったが、緑鳥には気付かれていないようだ。
「あっ、チケットが必要なんですね。僕買ってきます。」
小走りにチケット売り場へと向かう藍鷲。
「演劇が見たかったのでしょうか?1人で見るのが恥ずかしいからわたしを誘ったとか?」
緑鳥の呟きは藍鷲には届かない。
「チケットも買えました。中央前方の良い席だそうです。さぁ、行きましょう。」
藍鷲に連れられて人生初の演劇を鑑賞する緑鳥。
演目は『創世の神々』。主神を始めとする神々の創世からそれにまつわる戦い、そして現在に至るまでの歴史書を元に創られた演目である。
「んー凄い迫力でしたね。」
劇場から出てきた緑鳥はやや興奮していた。
「舞台上に煙が立ち込めたり、火柱が上がったり、演劇がここまで激しいものとは識りませんでした。」
手振り身振りでその時を再現して見せる緑鳥。こう見ると本当にただの若い町娘にしか見えない。
「僕も創世のお話を見聞きするのは初めてでした。かなり昔から神々の中でも争いは起こっていたんですね。」
「えぇ。主神様と暗黒神様の戦いのシーンは見事な演出でしたね。」
「えぇ。舞台上で爆発まで起こすとは思っても見ませんでした。」
「わたしも火事にならないか心配でしたよ。」
「あはは。緑鳥さんも楽しめたようで何よりです。」
「すっごい楽しかったです!」
「それは良かった。そろそろお昼の時間になりますね。何か食べたい物はありますか?」
さりげなく緑鳥に次の予定を尋ねる。
「そうですね。折角ですから普段は行かないような店に入ってみたいですね。」
「それでしたら街の住人だけが足繁く通う定食屋さんがあります。どうです?定食?」
「いいですね。そちらに向かいましょう。」
2人は足取り軽く次の目的地へと向かう。
「あーお腹いっぱいですぅ。ホントに美味しくてびっくりしました。」
お腹をさすりながら店から出る緑鳥。
「気に入って頂けて良かったです。」
「本当に美味しかったですよね。普段黒猫さんの美味しいご飯を戴いてますが、それにも負けず劣らずな美味しさでした。」
「僕も気に入って何度か足を運んでいるお店なんです。」
「まぁ、藍鷲様お一人で?」
驚いたように問い掛ける緑鳥。
「えぇ。街の外に魔法を撃ちに行った時なんかに。流石に魔力の底上げのためとは言え、街中で魔法は放てませんからね。よく街の外に出ているんです。」
「そうだったのですね。わたしったら毎日執務室に籠もりっぱなしでそんな事すら知らずに。お一人で危険はありませんか?」
「えぇ。大丈夫です。こう見えても僕も結構強いですから。」
力こぶを作って見せる藍鷲。
「ふふふ。存じ上げておりますわ。」
そんな話をしながら大通りを歩く2人。
「次はどこに行きましょうか?」
「え?藍鷲様の目的地があるのではなくて?」
「目的地って言うか目的は緑鳥さんを連れ出す事でしたから。緑鳥さんが行きたい店に行きましょう。」
「わたしの行きたいお店ですか?んー。そう言われると悩みますね。」
「じゃあ大通りを歩きながら気になった店に入って行きましょうか。」
「はい。そう致しましょう。」
暫く大通りを歩く2人。
気になる店があれば立ち寄り、気に入ったものがあれば買っていく。そろそろ空が暗くなり始める頃。藍鷲が言い出した。
「最後に僕の行きたい店に連れて行ってもいいですか?」
「行きたいお店ですか?それなら行きましょう。」
緑鳥を伴って藍鷲がやって来たのは婦人服店。
「行きたいお店ってこちらですか?」
「えぇ。ここです。今日は僕が見繕った洋服で外出して貰いましたが、次は緑鳥さんが自分で選ばれた洋服を着てお出掛けしましょう。」
何気に次のデートのお誘いである。
「わたしが選んだお洋服で?」
「えぇ。ご自分で気に入った洋服があれば言って下さい。僕もお小遣い程度にはお金持ちですから。買って差し上げます。」
「そんな、悪いですわ。今日のお洋服も頂いてしまったのに。」
「いいんです。1日お付き合い頂いたお礼ですから。これなんかどうです?」
早速吊られたワンピースを指差す藍鷲。それに釣られたように緑鳥も洋服を見ていく。
緑鳥の気に入った洋服を買い込んで神殿へと帰る帰り道。
「ふふふ。聖王としてではなく町娘として街に出掛けるなんて考えもしませんでした。お出掛けも楽しいものですね。」
緑鳥は終始笑顔だった。
「楽しんで貰えたなら良かったです。毎日執務室に籠もってお仕事されているのでたまには息抜きして貰おうと思ったんです。」
「あら。では今日はわたしの為に?てっきり白狐様には言えない話でもあるのかと。それはありがとうございます。」
「白狐さんに言えない話ですか?特にないですよ?いえ。こちらこそ1日お付き合い頂いてありがとうございます。」
笑い合う2人。
まだ緑鳥に藍鶖からの恋心は届いていない。
頑張れ藍鷲。次のデートの確約も得たようなものだし、君の未来は明るい。
こうして2人の初めてのデートは幕を閉じたのだった。




