479話 旧王国領セブンガ2
サーズダルを出発してから3日後、俺は無事にセブンガに到着した。
ここに来たのは宣言通り魚の仕入れもあるが、本題は仕事の方にあった。以前1人でワンズに居たときにセブンガで有名な悪徳奴隷商人について話を仕入れていたのだ。
奴隷には3種類ある。まずは借金奴隷。これは借金が返せなくなった者がその借金分を奴隷として働くと言うもの。働いて借金分の給金を得れば奴隷から解放されるものの、主人に衣食住の面倒を見て貰う代わりに相当天引きされて借金を返せるだけの働きを出来る者はそえそういない。
次は犯罪奴隷。犯罪者がその罪状により奴隷の身分にまで落とされたものだ。これは1種の社会奉仕に近く、一定の期日奴隷として過ごせば解放される。とは言え奴隷にまでされる犯罪者は相当な事を仕出かしているのでその期間は10年以上になる事が多い。
そして最後は孤児奴隷。これは親に売られた子供や所謂ストリートチルドレンが攫われてなるもので、一生を奴隷として生きることが多い。
今回ターゲットとして選んだ悪徳奴隷商はこの孤児奴隷をやたらに扱っている所で、子供を攫ってきては奴隷として売り出していると噂されている奴隷商だった。
子供を定期的に攫ってきていると言うことは闇ギルドなどとの繋がりも深いだろう。
今回はその奴隷商と闇ギルドを潰すのが目的だ。もちろん潰した上で金を得るのが本来の目的だが。
取り敢えず街に着いた俺は宿屋を探した。情報収集なども考えると数日は滞在する事になるだろう。
なかでも俺は高くもなく安くもない宿屋を見つけた。朝食1食付きで銀貨1枚、1万リラの宿屋だ。
3階建ての3階に部屋を取り、いつでも屋根上に出られるようにした。
仕事の時は人に見られない事が重要だ。だから表通りを歩くことはしない。基本屋根上を移動するので屋上に出られる最上階が狙い目なのだ。
そんな訳で宿屋も確保した俺はいつも通り酒場で情報を仕入れる。
5人目に話を聞いたおやじから有力な情報を得ることが出来た。それは奴隷商には月に一度、とある貴族から大量注文が入って孤児奴隷を沢山売りつけているとのことで、そのタイミングでは奴隷商にかなりの金が入るというものだった。
ドコの世界にも子供相手に性欲を充たそうとする者はいるようで、件の貴族もそのくちらしい。決めた。ついでにその貴族も潰そう。
子供相手になんて考えただけで反吐が出る。生かしておいてもろくなもんじゃないだろう。
ちょうどその月1のタイミングも2日後と言うので奴隷商に押し入るのは2日後の夜と決めた。
あとは奴隷商と付き合いのある闇ギルドについてだが、こちらは情報がなかった。
まぁ決行まであと、2日間ある。2日もあれば何かしら情報も入るだろう。
そんな風に思っていたのだがこの2日間、何の情報も出てこなかった。誰に聞いても奴隷商がどこから子供達を仕入れているのかわからなかったのだ。
もしかしたら子供を攫ってきているのは闇ギルドではなくて強盗団や夜盗の類いかもしれない。
襲った家族の子供だけを生かして奴隷商に売っている可能性が高い。
そうなってくると対象が多岐にわたり見つけるのも潰すのも難しくなる。
だから今回は悪徳奴隷商人とその顧客である貴族だけ狙う事に決めた。
夜になり宿屋の3階から屋根上に昇った俺が最初に目指したのは貴族の方。悪徳奴隷商を先に潰してしまうともしかしたら貴族の耳に入って警備を強化されるかもしれない。だから先に貴族の方に赴く。
「あぁ。やっぱり子供の悲鳴はいいですねぇ。耳に残る。素敵なメロディだ。もっと聴かせて下さいね。」
丸々と肥えた躰を金糸銀糸で設えた立派な服で隠し、その顔には柄も言えぬ沼った笑みを浮かべた貴族が拷問器具を吟味する。
その隣にはベットに括り付けられた子供の姿がある。
ちょうど今、左手の指を全て潰されたところだった。
貴族のブタはペンチからノコギリへと手を伸ばす。
「全て潰れてしまった指はもういらないですよねぇ。切ってしまいましょうかぁ。」
「やだぁー!やめてー!やめてー!!」
子供の泣きじゃくる声が響くが防音になっている地下室からは洩れる事はない。
「貴方たちの番もすぐですからねぇ。待ってて下さいねぇ。」
檻に詰め込まれた孤児奴隷達へと笑みを向ける貴族のブタ。
俺は音も無く地下室に侵入するとブタの背後に回りその首筋にナイフを当てた。
「動くな。動けば殺す。」
「な!?何者ですか?警備の者は?侵入者などあり得ない!」
「警備兵は全員眠ってるよ。糞みたいな貴族に仕えてるだけでも万死に値するが、貴様の趣味を知らない者もいるだろうからな。取り敢えず殺さずにおいておいたよ。」
「ひっ!わ、わたしを殺すのですか?!」
「これまで貴様が子供達にやって来たことだろ。巡ってきたのさ。今度はお前の番だ。」
「ひぃ!殺さないで!お金ならあげます!殺さないで!!」
「金はもう貰ったよ。次は貴様の命だ。」
俺はナイフを一閃させる。
首元から血を吹き出しながら貴族のブタは喚く。
「わ、わたしの血!血が!流れていく!!」
首筋を押さえながら転げ回る。
「血!血ぃ!止まらない!止まらない!!」
やがて貴族のブタは動きを止めて息の根を止めた。
ベットに寝かされ固定された子供を解放してやる。
左手の指は大変なことになっているが、時間があれば治るだろう。
檻に詰め込まれた子供達も解放する。
「さぁ、もう自由だ。好きなように生きろ。」
「じゆう?」
「にげてもいいの?」
「あぁ。逃げろ。こんな場所に長く居るもんじゃない。それとこれを持っていけ。」
俺が声を掛けてやり、子供達へと金貨1枚を渡す。すると子供達は一斉に地上への階段を駆け上がっていく。
これから先あの子供達がどうなるかまでは面倒見切れない。
分かっているがなんとも言えない気持ちになった。願わくばあの子達が幸せに成れるように。
さて、貴族の方は終わった。
次は奴隷商の方に行こう。




