475話 邪神教7
見事に邪神教の教祖と側近2名を撃ち倒した俺達。
まさか甲蟲人に化けるとは思っても見なかったが、当初の予定通り邪神教の頭は潰せた訳だ。
さて、俺達がトップ連中と戦っていた間にマリアベイルは白狐に斬られた負傷者の治癒を行いつつ、情報収集してくれていたようだ。
たまたま残っていた邪神教徒の中に財務関連の取り纏めを行っていた男が混ざっていたらしい。
「どうやらここまで多くの人達を集めたのは全て口伝によるものらしいですね。」
「口伝で?これほどの数をですか?」
白狐が口を挟む。
「えぇ。どうやら各街には邪神教徒が集まる店という物があったようです。そこで口伝でここの事が伝えられてこれだけの数が集まったそうです。なんでも2年半前からここの地下工事が行われて拡張を繰り返したそうです。」
「2年半前か。ちょうど邪神が復活した頃か。」
紫鬼が呟く。
「ひとまずは集まって蜂起しようという話だけ聞いていたそうで、今回のようにトップの連中が甲蟲人化するなんて聞いてもいなかったと。」
「なるほど。聖都に攻め込む準備だけされてた感じですか。」
「えぇ。ですが今回トップ連中が甲蟲人化した事で邪神信仰を続けると自分達まで甲蟲人になってしまうと危惧する声が上がっているのだとか。もう邪神教も終わりですね。新たな教祖でも現れない限りは無害だと思っておいて良いでしょう。」
「新たな教祖になり得る奴はいないのか?」
俺も疑問を口にする。
「えぇ。幹部連中はことごとく白狐様に斬られて戦意喪失。逃げ惑った邪神教徒達の中にもそこまでカリスマ性のあるメンバーはいないだろうとの事でした。」
「そうか。んじゃホントに邪神教も終わりだな。ところでここまで地下施設を広げるだけの資金力があったって事は相当貯め込んでるんじゃないのか?」
「それについてはここの増築などにお金をかけすぎてあと一月も信徒達の生活を支える額は残っていなかったのだとか。一応現金の保管場所についてもきいております。あとでご案内致しましょう。」
「あぁ。頼む。これだけやって無給ってのもなんだかな。」
俺は頭の中でそろばんを弾いた。300人の一月の食事代ともなればそこそこな額にはなるだろう。
「それにしても口伝だけで300人も集めたとなると邪神を信仰する人間はもっといるのでしょうね。」
「えぇ。まぁ宗教は自由ですから何の神を崇めようと個人の自由です。自身のおかれた現状に不満がある者ほど破壊衝動にかられるものですからね。邪神が世界を破壊した後に信徒達の地位が上がるとでも思っていたのでしょう。」
「だが自らもバケモノと化するような事態は望んではいなかったと言うわけか。」
腕を組みながら紫鬼が言う。
「えぇ。集まった9割以上が甲蟲人化を見て逃げ出していましたからね。残っていたのは一部の幹部連中と敬虔な邪神教徒だけでした。」
「甲蟲人化を恐れて逃げ出した人達はもう邪神信仰なんて辞めるでしょうしね。」
「えぇ。なんにせよ邪神教はこるで解散でしょうね。」
俺は1人ソワソワしながら言う。
「邪神教が終わりならそれでいいだろう。で、現金の保管場所はどこなんだ?」
「はい。壇上の裏側に控え室のようなものがあり、そこに金庫があるそうです。ですが、金庫の暗証番号は教祖しか知らなかったのだとか。」
「そこは大丈夫だろ。ひとまずその金庫を見てみよう。」
俺達は呆然とする居残った邪神教徒達をおいて壇上の裏側に回った。
そこには3つの部屋があった。
「手前は側近達の部屋で、1番奥が教祖の部屋だったようです。」
マリアベイルに言われて一番奥の部屋を目指す。
部屋には鍵などはかかっておらず、すんなり入ることが出来た。
すると確かに壁際に一際大きな金庫が設えてあった。
「どれどれ。ちょっと見てみますかね。」
俺は金庫に近付きダイヤルを回す。金庫はダイヤル式で他に鍵などは必要ない。そこは一安心だな。ダイヤルプラス鍵となると開けにくさが数段上がるからな。
10分の格闘の末、俺は見事に金庫を開ける事に成功した。
金庫の中には大金貨2枚と金貨6枚、大銀貨11枚に銀貨9枚だった。
大規模な宗教団体と考えたら白金貨あたりがあっても良さそうだが、財務担当の言う通り地下施設の改修に金を掛けすぎたのだろう。まぁ、このくらい残っていれば御の字か。
部屋を出て壇上に戻っても負傷した邪神教徒達は残っていた。もっとも白狐に手足を切断されているので五体満足とは言えないが、マリアベイルによって治療は済んでいる。
今は自分達のおかれた現状に戸惑っているのかもしれないな。なんと言っても心の拠り所だった宗教団体が壊滅したのだ。まぁこれからの事は知らん。好きに生きて貰おう。
俺達は呆然とする邪神教徒達を置いて地上に上がる事にした。
壇上から地上へと上がる階段までも多数の死体に溢れかえっていた。圧死した者、暴走したカクサエンに殺された者、踏み潰された者、様々だが半分以上は地上に逃げ出したようだ。
こんな目に合えばまう邪神を信仰しようとは思うまい。
1度教会に戻ってからヌヌスへと向かうというマリアベイルと別れて俺達は宿屋に戻った。
色々あって疲れたので、1泊してから聖都に戻る予定だ。
俺は朝も早かった為、夕飯を食べてすぐに眠りについたのだった。




