474話 邪神教6
飛蝗型の甲蟲人となった教祖、コーモウンだったが、魔術は健在のようで先程から火球を放ってくる。
「魔素ヨ集マレ、集マレ魔素ヨ。火炎ノ力ヘトソノ姿ヲ変エヨ。魔素ヨ燃エロ、燃エロヨ魔素ヨ。我ガ目前ノ敵ヲ火炎トナリテ打倒シ給エ!ファイアボール!」
メイスの先から直径30cm程の火球が放たれる。
黒刃・右月と黒刃・左月で切って捨ててはいるのだが、一向に魔術を止めようとはしないコーモウン。
そっちが魔術を使うならこっちも魔術で勝負してやろう。
「王化、呪王!」
俺が叫んだ途端に左手小指リングにはまる橙色の王玉から橙色の煙が立ちのぼり俺の体を覆い尽くす。
そしてその煙は体に吸い込まれるように消えていくと、残ったのはいつもの全身黒の鎧ではなく、所々に橙色の線が入った王鎧に身を包んだ俺が立っている。
橙色の線は左手首から腕を巡り胸、腹に走り太股を通って両足首にまで至っている。
これが橙犬が残してくれた魔導神の力を使えるようになる呪王形態である。
「魔素ヨ集マレ、集マレ魔素ヨ。火炎ノ力ヘトソノ姿ヲ変エヨ。魔素ヨ燃エロ、燃エロヨ魔素ヨ。我ガ目前ノ敵ヲ火炎トナリテ打倒シ給エ!ファイアボール!」
飽きもせず火球を放ってくるコーモウン。
それに対して。
「魔素よ集まれ、集まれ魔素よ。水流の力へとその姿を変えよ。魔素よ巡れ、巡れよ魔素よ。我が目前の敵を水流となりて打倒し給え!ウォーターボール!」
俺は水球を放ちそれを相殺させる。
一気に高温と低温がぶつかり合いもうもうと水蒸気を上げる。
「ムム。貴様モ魔術師ダッタノカ。シカシ威力ハ互角。詠唱ノ早イ方ガ勝ツ!」
メイスを掲げて魔術を放ってくるコーモウン。
俺も魔術で対抗する。が、確かに威力は互角。このままだとらちがあかない。
俺は魔術を放ちながらもコーモウンへと近付き黒刃・右月を振るう。
ガキン
やっぱり甲蟲人化した事で外骨格が硬くなってやがる。黒刃・右月の一撃では外骨格を削ることすら出来ない。
するとメイスが振り下ろされる。
俺は黒刃・右月と黒刃・左月を交差させてこれを受け止める。
前蹴りを放ち、コーモウンを後退させる。
「魔素よ集まれ、集まれ魔素よ。氷塊の力へとその姿を変えよ。魔素よ凍れ、凍れよ魔素よ。我が目前の敵を氷塊の矢となりて討ち滅ぼし給え!アイスアロー!」
水球よりも高度な氷の矢を放つ。
さらに。
「魔素よ凍れ、凍れよ魔素よ。氷結の力となり給え。アイス。」
黒刃・右月と黒刃・左月の刃に薄い氷の刃でコーティングする。
「魔素ヨ集マレ、集マレ魔素ヨ。火炎ノ力ヘトソノ姿ヲ変エヨ。魔素ヨ燃エロ、燃エロヨ魔素ヨ。我ガ目前ノ敵ヲ火炎トナリテ打倒シ給エ!ファイアボール!」
懲りもせずに火球で応戦するコーモウン。さてはこいつ火球しか魔術が使えないな。
火球を突き抜ける氷の矢はコーモウンの右肩に当たり瞬間的に凍らせる。
そりゃより高度な魔術の方が競り勝つに決まっている。
俺はアイスアローが当たったのを確認する間もなくコーモウンに肉迫してその両腕を斬りつける。
氷の刃でコーティングされた黒刃・右月と黒刃・左月は斬ったそばからコーモウンの体を氷結させていく。
「グヌヌ。」
コーモウンは飛蝗型特有の動きで大きく跳躍すると距離を取った。
その間に氷結した両腕も解凍される。
斬りつける回数が足りなかったか。もっと斬っておけばガチガチに凍らせられたかもしれないな。
今度は大きく後退させない為にも足元に向かってアイスアローを連続施使用する。
案の定、コーモウンは火球の魔術しか使えないようでどうにか氷の矢を溶かそうとファイアボールを連続使用してくるが、幾重にも重なった火球を突き抜けて氷の矢がコーモウンの足元にヒットする。
大腿部が凍りつき、足首にまで凍りが広がる。
それを確認した俺は再び肉迫して氷のコーティングがされた黒刃・右月と黒刃・左月でコーモウンを滅多斬りにする。
「グオォォォォオ!拙僧ガビンチダト言ウノニ、側近ノ2人ハ何ヲシテイル!スケサルン!カクサエン!」
周りを見渡すコーモウン。釣られて俺も確認するがどうやら白狐と紫鬼がすでに撃ち倒しているようだ。
「頼みの側近は俺の仲間にやられたみたいだな。」
「グヌヌヌ。認メン!認メンゾ!!拙僧は邪神様カラ宝玉ヲ授カッタノダ!ソンナ拙僧ガ負ケルナドト!認メンゾ!、」
「宝玉ってか甲蟲人の卵だろ。あれ。どうせ人間を甲蟲人にする実験の体よく被検体にでもされたんだろうよ。」
「違ウ!ソンナハズハナイ!!」
俺はコーモウンに近付きながら言う。
「どのみち今日で邪神教も終わりだ。アンタは俺が責任持ってあの世に送ってやんよ。」
「グ、ガァァァァア!」
最後の足掻きとばかりにメイスを振り回すコーモウン。俺はそんなメイスの一撃を跳ね上げるとメイスを持つ右肩関節にナイフを刺し入れ切断する。
「グオォォォォオ!?拙僧ノ腕ガァァァァア!」
武器を失い足元も凍ったコーモウンに出来ることはもうないだろう。
「ヒィ!来ルナ!来ルナァァァァア!!」
俺は何度も首筋を狙って黒刃・右月と黒刃・左月を振り抜き、その首を刎ねたのだった。




