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黒猫と12人の王  作者: 病床の翁


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472話 邪神教4

 いきなり始まった壇上での闘いの中、急にその姿を異形のモノへと変えた教祖とその側近の姿を見た信徒達はパニック状態となった。

「ば、バケモノだぁー!」

「教祖様がバケモノになっちまっただぁー!」

「逃げろぉー!」

「うわぁぁぁぁあ!」

 我先にと地上へと続く階段に殺到する信徒達。

 ある者は後ろから押されるように押し倒され、倒されてなお後続の信徒に踏みつけられて息を止める。

 ある者は後ろからと前からの圧迫に耐えきれず圧死する。

 ある者は手にした剣を振り回しながら我先にと先を急ぐ者に斬られて倒れていく。

 まさにそこは地獄絵図さながらの光景であった。

 邪神教徒達が望んだ景色がそこには広がっていたのだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 団子虫型の甲蟲人と化したカクサエンと殴り合う鬼王。それまでの体格差などなかったかのように互角に殴り合う。

 カクサエンが右ストレートを放てば鬼王はこれを左腕で受け止め、右フックを放つ。

 右フックを受け止めたカクサエンが膝蹴りを放てば鬼王はこれを戻した右腕で受け止めて左アッパーを放つ。

 上体を反らしてこれを避けたカクサエンはその場で1回転して裏拳を放つ。体を屈めてこれを避けた鬼王は腹部に向けて右ストレートを放つ。


 ボディを強かに打たれたカクサエンは一歩後退すると体を丸めて回転しながら突進してくる。

 突然の突進に反応が遅れた鬼王は激しくぶつかり吹き飛ばされる。

「むぅ。まさか丸まって突進してくるとはな。そう言えば団子虫と言ったか。納得じゃな。」

「ウフフフ。ドウ?アタイノ全身デノアタックヨ。貴方ジャ受ケ止メキレナイミタイネ。」

「言ってくれるな。なら次は受け止めきってみせよう。さぁ来い!」

 両手を広げて待ち受ける鬼王。

「ウフフフ。ドウカシラネ!」

 再び丸まって突進するカクサエン。それを受け止めようと身構えた鬼王でおったが、カクサエンは鬼王が捕まえる前に体を広げて回転した勢いそのままに踵落としを繰り出す。

「がはっ!」

 見事なまでに頭頂部に踵を受けた鬼王はそのまま前倒しに倒れ込む。


「ウフフフ。アハハハハッ!ソンナ宣言通リニ攻撃スル程アタイハ優シクハナイワヨ!」

 倒れ込んだ鬼王の顔面を蹴り上げるカクサエン。転がる鬼王。

 頭を振りながら起ち上がる鬼王が言う。

女子(おなご)は素直が1番じゃぞ。騙し討ちとは酷いもんじゃな。」

「ウフフフ。騙サレル方ガ悪イノヨ。」

「そっちがその気ならこっちも奥の手でも見せるかのぅ。王化!絶鬼!」

 紫鬼がそう言うと右手にしたバングルにはまる赤い王玉から赤紫色の煙が、左足につけたアンクレットにはまる青い王玉からは青紫色の煙が立ちのぼり紫鬼を包み込むと赤紫色と青紫色が混ざり合って紫色の煙となって紫鬼の体に吸い込まれていった。

 煙が晴れた後に残ったのは3本角が特徴的な鬼の意匠が目立つフルフェイスの兜に紫色の全身鎧、王鎧を纏った鬼王の姿となる。


「ナニ?!姿ガ変ワッタ?」

「驚くのはまだ早いんじゃ!鬼火・蕾!」

 5cm程の紫の炎が発生しカクサエンへと放たれる。

「ギャー熱イ!」

 咄嗟の事に大きく後ろに跳び下がり体を丸めるカクサエン。

「次じゃ!鬼火・開花!」

 20cm程度の紫の炎の玉が鬼王の右手の前に生まれ、カクサエンへと向かう。

「ギャー!」

 全身に紫の炎を纏ったカクサエンは転がり火を消そうと藻掻く。しかし、鬼王の生み出した紫の炎はそう易々と消えはしない。

「ギャー!火ガ!火ガ消エナイ!!」

「ワシの炎はそう簡単には消えんぞ。」

 やがて逃げ惑う人々の方にまで転がって行ったカクサエン。

「あ!そっちはいかん!」

 鬼王の制止も間に合わず人々の中に燃え盛る体のまま突っ込んでいくカクサエン。紫の炎は逃げ惑う人々にまで燃え広がる。


「グワー!」

「火ー!火ぃー!」

「火事だぁー!」

「きゃー!」

「誰か消火!」

「逃げろー!」

「早く行けよ!何やってんだよ!」

「ぎゃー!」

 パニック状態だった邪神教徒達はますますパニックに陥った。

 そんな中に人々に火を移して鎮火したカクサエンが起ち上がる。

 肩で息をしてかなり消耗しているのが見て取れる。

「アンタ魔術師ダッタノカ!」

「魔術?違うぞ。これは権能だ。」

「権能?」

「神から授かった力じゃな。」

「アタイダッテ、コノ体ヲ、コノ力ヲ授カッタンダ!」

「お前さんのはなんか違うと思うぞ。何と言うか人を甲蟲人にする実験台にされたんじゃないか?」

「ソンナコトナイ!アタイハ…アタイガ…ア・タ・イ・ハ…ガァァァァア!」

 突如としてカクサエンが喚きだした。まるで理性を失ったのように辺りにいる人々を攻撃し始めたのだ。

「きゃー!」

「うわぁぁぁぁあ!」

「ギャー!」

 カクサエンに殴り蹴られ吹き飛ぶ邪神教徒達。

「こりゃまずいな。理性が飛んだか。まるで狂戦士だな。」

 壇上から降りて暴れまくるカクサエンへと向かう鬼王。

 暴れまくるカクサエンの肩を掴むと壇上の方へと軽くぶん投げる。

 転がるカクサエン。

「ガァァァァア!」

 すぐさま立ちあがり鬼王へと迫るカクサエンだったが。

「これで仕舞いじゃ!鬼火・大輪!」

 すると突き出された鬼王の右手の先に100cm程の紫の大火球が生まれ、カクサエンを飲み込む。

「キャァァァァァア!」

 鬼王の放った業火がカクサエンを炭化するまで焼き尽くす。

 ゴロゴロと転げ回るカクサエンであったが、次第にその動きは怠慢になっていき、やがて完全に動きを止めた。

「ふぅ。思うていたよりも時間がかかったな。」

 完全に動きを止めたカクサエンを見て鬼王は王化を解くのだった。


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