464話 ドワーフ王国17
その頃、銀狼の義手と翠鷹の義足のメンテナンスにドワーフ王国へとやって来た茶牛一行は王城の中庭に立てた旗を目指してゲートの魔法を通って王城の中を歩いていた。
そこへちょうど通りかかったのはドワーフの髭面にリボンを巻き
上質なドレスに身を包んだドワーフ王国の姫、ベアトリスであった。
「あら。茶牛様。お戻りですかぁ?それにそちらの方々も初めましてですねぇ。わたくし、ドワーフ王国の王女のベアトリスと申しますぅ。」
一瞬髭面に似合わぬ甲高い声での挨拶にギョッとした銀狼と翠鷹であったが、そもそもドワーフは男女に関係なく髭が生えているものだ。その事を思い出した2人は軽く挨拶を交わす。
「始めまして、姫君。オレは傭兵の銀狼と言います。」
「お初にお目にかかります。ウチは翠鷹言います。」
頭を下げた2人にベアトリスが言う。
「銀狼様に翠鷹様ですねぇ。それでドワーフ王国には何用でぇ?また義肢の作成ですかぁ?」
「そうだぁ。作成ってかメンテナンスだなぁ。戦いで消耗したから2人の義肢をメンテナンスしに戻ってきただよぉ。」
砕けた口調で話す茶牛。何度もゲートでドワーフ王国に戻っているうちに王女相手でも敬語を使わない間柄になっていた。
「そうですかぁ。やはり戦闘は厳しいものになるんですねぇ。ちょくちょく義肢の作成にいらしてますものねぇ。」
「まぁ。義肢も消耗品だからなぁ。戦ってるうちにズレたり破損したりは仕方ねぇだぁよぉ。」
「そうですかぁ。あ、呼び止めてしまってすいませんですぅ。お気を付けて行ってらっしゃいませぇ。」
「おぅ。王女様もまたなぁ。」
「では王女様、失礼します。」
「ほな、失礼します。」
軽く会話をしてから王城を後にした3人。
気になったので翠鷹が茶牛に尋ねる。
「アンタ、王女様相手にあんな喋り方して怒られないのかいな?」
「んあ?いや、あれは王女様から言われたんよぉ。儂も最初は敬語で話してたんだけどなぁ。もっと砕けてお話しましょうってなぁ。」
髭を引っ張りながら話す茶牛。
「そうやったん?知らんかったから横で聞いててドキドキしたわ。」
「確かにな。一国の王女相手にタメ口きけるとはなかなかに偉くなったもんだな?」
「工房で働いてた時には考えらんなかったけどなぁ。まさか自分が王女様やら王様やらの相手をするなんてなぁ。」
そんな会話をしているうちに『鋼の四肢』へとやって来た。
「おぉーいぃ。店長ぅ。いるかぁ?」
茶牛が奥に声をかけると髭面の背の低い男が店先にやってくる。
「おぅ。茶牛じゃねぇのぉ。また義肢の作成かぁ?」
「あぁ。今日はこの2人の義肢のメンテナンスだぁ。工房借りていいかぁ?」
「あぁ。今は誰も使っとらんから大丈夫だぁ。」
「んじゃお邪魔するぞぉ。」
「邪魔する。」
「お世話になりますぅ。」
銀狼と翠鷹の2人も軽く会話を交わす。
「まずは銀狼の義手からいくかぁ。んじゃ詳しく見るから外して見せてみろぉ。」
茶牛に言われて銀狼が右肩から義手を外して茶牛に渡す。
暫く肘関節やら手首の関節やら各種指の動きを見た茶牛が言う。
「こりゃ駄目だなぁ。完全に薬指と小指の回線が切れちまってるわぁ。これじゃメンテナンスと言うか作り直しだなぁ。」
「そうか。盛大に穴を空けられたからな。仕方ない。暫くはその義手付けて新しい義手が出来るのを待つさ。」
髭を引っ張りながら茶牛が言う。
「もっと強度を上げた方が良さそうだなぁ。重くはなるだろうがオリハルコンとアダマンタイトくっ付けたならそこまで重くて動かねぇって事もなかんべぇ。」
「あぁ。強度が増すならそれに越したことはないな。」
「んだべぇ。んじゃ銀狼のは作り直すとして翠鷹の足の方を見るかなぁ。」
翠鷹はゆったりめのズボンの裾をまくり上げて左足を見せる。
「んー。翠鷹の方は付け根がズレてきてるなぁ。こっちはちょっとメンテナンスしたら大丈夫かもなぁ。」
「あのー。接続部の不具合言う事はまたあの魔石の埋め込みとかするん?」
若干顔が引き攣りながら翠鷹が尋ねる。
「んあ?どうだろなぁ。メンテナンスしてみて動きが悪いとかあったら魔石の交換も必要かもしるねぇけどぉ。ひとまずは大丈夫だべぇ。」
その茶牛の言葉を聞いて胸をなで下ろす翠鷹。
「そうかぁ。良かったわぁ。またあの苦痛があると思うたら義足直すんも躊躇うところやったわ。」
それを聞いた茶牛は髭を引っ張りながら答える。
「今のところはだぞぉ?付けてみて感覚がおかしかったらすぐに言えよぉ。」
「わかってますわ。ウチかて痛みに負けて不具合出たままにしておくような事はせんよ。ただあの痛みは出来ればもう味わいたくはない言う話や。」
「ならいいけどなぁ。翠鷹の義足の方は1日もあればメンテナンスできるだろうなぁ。銀狼の義手は作り直しだから3日間くらいは欲しいなぁ。」
「分かった。3日だな。それなら聖都には戻らずドワーフ王国で宿を探そう。」
「ウチは1日やったら車椅子生活でかまへんよ。銀狼はんと一緒に宿屋探してくるわ。」
「んじゃ、そうしてくれぇ。儂は早速義足の方のメンテナンスにはいるでなぁ。」
そう言うと茶牛は工房の奥へと入っていった。
翠鷹の乗る車椅子を押しながら銀狼が言う。
「んじゃ宿屋探しに行くか。」
「せやね。車椅子押して貰ろて悪いなぁ。」
「気にするな。じゃ行こうか。」
こうして2人はドワーフ王国内の宿屋を巡り、数日の滞在費を支払い部屋を確保するのだった。




