463話 ヌイカルド連邦国11
俺と白狐、紫鬼が聖都を出発してヌイカルド連邦国首都ヌヌスへと向かい初めて1日目、ヌベラまでの道程は街道を進み6日間ほど。
街道沿いと言う事もあり特に魔物に出会うことも無くスムーズに進む。
「こうして3人で旅をするのは久々じゃな。」
紫鬼が言い出した。
「3人でって言っても前はヨルも一緒だったけどな。」
ちなみに今回はヨルジュニアは聖都で留守番だ。魔物相手ならともかく人が相手となると立ち回り方も変わってくるだろうから今回は置いてきたのだ。
「まぁな。だが、3人は3人じゃ。」
「そうですね。3人と言えば3人ですね。」
白狐も同意する。
「うむ。懐かしいな。もう1年以上前になるのか。」
「ですね。色々ありましたね。」
「とは言え3人です行動してたのはあの船旅くらいなもんだろ。すぐにマジックヘブンで橙犬に出会ったからな。」
「そうじゃな。橙犬か。惜しい人材を亡くした者よな。」
なんかしみじみしてしまった。
暗くなった雰囲気をなんとかしようと白狐が話題を変えた。
「にしてもヌベラに向かうのも久々ですよね。以前は闇ギルドの解体なんかしましたよね。」
「そうだな。そう考えるとヌベラの街はとんでもないな。闇ギルドが台頭してたり邪神教が蔓延っていたり。」
「まぁヌイカルド連邦国自体が余り治安が良くない国ですからね。」
「それにしてもよくヌヌスの神殿はヌベラの動向に気付けたよな。」
「緑鳥さんの考案で邪神教については前から調べていたそうですよ。邪神の復活に伴って何かしら良からぬ事を企むんじゃないかって。」
「それが的中した訳じゃな。」
「ですね。」
そんな話をしながら早馬で街道を進み、暗くなってきたところで野営の支度をする。
ちょうど位置的には北と南に森が広がっており、魔物や魔獣が出てきてもおかしくない場所ではある。が、暗くなってきた為、これ以上進むのは危険と判断してここに野営の支度をした。
今日の夕飯は作り置きのカレーだ。
「やっぱりクロの作るカレーは美味いのぅ。」
「えぇ。世の中のカレーで1番の味ですね。事が落ち着いたらカレー屋さんでも開くのもありかもしれませんよ。」
「俺に飲食店の経営は無理だよ。まず接客が出来ない。」
「確かにな。クロは目つきが悪いからな。」
「うるせぇ。余計な事言ってないでとっとと食え。」
こうして3人で就寝した。もちろん見張り番は立てていた。街道沿いとは言え、魔物や夜盗の類いが出ないとも限らないからな。
夜になり辺りが暗闇に包まれた頃。紫鬼が見張り番をしていた時の事。
「おぃ。クロ、白狐。起きろ。魔獣の軍勢がご到着じゃ。」
半覚醒状態だった俺と白狐もすぐさま反応した。
「どうやらレッドベアが3頭にジャイアントベアが6頭のようじゃ。1人では若干厳しかったのでな。起こしてすまんのぅ。」
頭を搔きながら言う紫鬼。
「いや、数が多ければ起こして貰った方がいいさ。」
「ですね。レッドベア2頭は私が受け持ちましょう。」
「ならワシはレッドベア1頭とジャイアントベア2頭じゃな。」
「となると俺がジャイアントベア4頭な。まぁ妥当な割り振りだな。」
俺達は一気に片を付ける為、野営のテントから飛び出して熊たちのもとへと駆けた。
白狐が白刃・白百合を抜刀術の構えでレッドベアに近付く。一刀目で襲い来る左腕を跳ね飛ばして返す刀で袈裟斬りに、斬られた拍子に頭が下がったところを首を刎ねて倒す。1頭倒すのに僅か三振り。白刃・白百合の切れ味も然る事ながらやはり白狐の剣士としての腕が良いのだろう。
紫鬼も最初はレッドベアを相手にする事にしたようだ。
振り下ろされた右腕の爪擊を左腕で受け止めて鼻っ面に右ストレートをお見舞いする。
魔獣は大抵鼻辺りが弱点である事が多い。これは人間なんかよりも嗅覚が優れており、鼻に走る神経が多いからではないかと言われている。
鼻っ面に打撃を受けたレッドベアが怯んだところで分厚い筋肉に覆われた心臓部に向かって重い打撃を連打。外部からの強い衝撃を受けた心臓がその動きを止めてレッドベアはその場に崩れる。
俺はと言えば迫り来るジャイアントベアの爪擊にナイフを合わせて手首から切断、出来た隙に首筋を薙いで出血しさせる。これを4回繰り返すだけの簡単なお仕事です。
首筋を斬っているのも血抜きの役目もある。これだけ熊が出てくれば明日の夜にでも熊鍋にしようと考えており、新鮮なうちに血抜きして肉の状態を良くしたい。
それこそヨルと出会う前まではジャイアントベア1頭にも苦戦しており、1度に4頭を相手にするなんて考えもしなかっただろうな。
俺も成長しているって事だな。
俺が4頭のジャイアントベアを屠っている間に2人も分担した相手を倒しており、白狐に首を刎ねられたレッドベアは良いとして紫鬼に心臓を止められたレッドベアとジャイアントベアは血抜きが必要だった。
首筋を切り裂いて逆さにして地を抜いていく。
白狐は言うまでも無くレッドベアを細切れにして影収納に仕舞えるようにしてくれた。
こうして大量の熊肉を手に入れた俺達。
まだ日が昇るには速い時間だった為、もう一眠りする事にした。
明日は朝から熊肉のステーキだな。
俺は眠りにつく前にそんな事を考えるのだった。




