462話 聖都セレスティア49
「では行ってくる。」
碧鰐の骨壺を抱えて金獅子がゲートを通っていく。
目的地はモードの村。碧鰐の遺骨を家族に届ける為に向かったのだ。
ひとまずゲートを閉じた藍鷲が王化を解く。また金獅子から通信用水晶で連絡を貰ったらゲートを開く話になっている。
聖都では茶牛による銀狼の義手と翠鷹の義足の診断が行われていた。
先の戦いで銀狼は義手を針で貫通するまで刺されており、翠鷹に関しても戦いの中で左足に不具合が出たらしい。
「駄目だなぁ。銀狼の方は完全に修理が必要だべぇ。これじゃ薬指と小指が動かせないべさぁ。」
「あぁ。戦っている時から薬指と小指が動かん。」
手をわきわきさせながら銀狼が言う。確かに薬指と小指が動いていなかった。
「だべぇ?神経回路がやられ取るからなぁ。修理が必要だぁ。」
「む。そうか。では頼む。」
「ここじゃ無理だべぇ。ドワーフ王国の工房に行かねぇとなぁ。翠鷹の方は関節部が外れかかってるからなぁ。そっちも修理だべぇ。」
「ウチは若干歩きにくいだけやで?」
足を曲げ伸ばして見せる翠鷹。だが茶牛は首を横に振る。
「駄目だぁ。ほっといたら膝関節が外れっちまうからなぁ。修理だべぇ。」
「そうなん?それじゃお任せするわ。」
「んじゃ2人ともドワーフ王国行くべさぁ。藍鷲、ゲートを頼んでいいか?」
急に話を振られた藍鷲であったがすぐさま反応した。
「お任せ下さい。では王化。魔王。」
藍鷲が言うなり左手小指にしたリングにはまった藍色の石から、藍色の煙が立ち上り藍鷲の姿を覆い隠す。
次の瞬間、煙は藍鷲の体に吸い込まれるように消えていき、残ったのはどことなく鷲を思わせる藍色のフルフェイスの兜と、同じく藍色の全身鎧に身を包んだ魔王の姿となる。
「では、ゲート!」
相変わらず悪趣味な扉が出現する。
よく見れば扉の周りには蛇が巻き付いたような装飾が施されており、最上部には人間の髑髏すらくっついている。
凝った作りではあるのだが、初めて見た人からすると魔界にでも繋がっていそうな雰囲気である。
「では行ってくるべぇ。」
「行ってくる。」
「行ってきますわ。」
茶牛、銀狼、翠鷹の3人はゲートを潜ってドワーフ王国へと向かった。
さて、当初の予定では甲蟲人侵攻が終わったら東の嘆きの迷宮に挑む予定だったのだが、碧鰐を失い、金獅子も銀狼も翠鷹も茶牛もいない。朱鉸と藍鷲ももとから不参加予定だった為、これでは向かえる人員が半分になってしまう。
「迷宮探索はまた今度ですかね。金獅子さん達がいない中で突っ込むのは危険ですものね。」
白狐が言うと
「そうじゃな。ワシらだけで向かってもいいが、嘆きの迷宮は迷宮の中でも難易度が高い方なんじゃろ?となればやはり金獅子達もいる時の方が良かろう。」
紫鬼も同意する。
「うむ。我も賛成だ。」
「ワタシもそれでいい。」
蒼龍に紺馬の2人も合意した。
「クロさんもそれでいいです?」
「あぁ。白狐が言わなかったら俺から言っていたところだ。俺も今回は見送った方がいいと思う。」
「では、迷宮探索は次回に持ち越しで。」
そう言う事になった。
そんな会話をしていると各国に今回の甲蟲人侵攻についての報告書を纏めていたはずの緑鳥が戻ってきた。
「もう書状は書き終えたんですか?」
白狐が問うと
「えぇ。今回は狙われた都市と敵の数、それに被害状況の報告だけでしたから。」
「そうですか。いつもすいませんね。任せっきりで。」
「いえいえ。これは聖王としてのわたしの地位が役立つ事ですから。それよりも皆様は邪神教を御存知ですか?」
「邪神教?」
俺は知らない。
「我は聞いたことがないな。」
「ワタシも知らないな。」
蒼龍と紺馬も知らないらしい。
「邪神教。聞いたことがあります。邪神を絶対神として崇め奉る集団だとか。各国に根を張りアンダーグラウンドで活動しているって話ですよね?」
「えぇ。その邪神教です。」
「その邪神教がどうしたんだ?」
俺が緑鳥に尋ねると
「どうやらその邪神教が戦力を集めているとの噂があるようなんです。」
「戦力を?何のために?」
「どうやら邪神の侵攻を邪魔する我々を排除しようと言うのが今回の武装蜂起の理由らしいです。」
「私達を排除ですか。出来ると思っているんですかね。」
白狐が言うと難しそうな顔で緑鳥が続ける。
「それが何かしら邪神から力を授かったと言っているようなんです。帝王の時みたいに王玉を与えている可能性もあり得るのかと思いまして。」
「その邪神教が俺達を狙うならここ聖都に攻め込んでくるって事か?」
「ええ。どうやら邪神教の本拠地はヌイカルド連邦国のヌベラの地らしく、各国から邪神教徒達が集まっているのだとか。ヌイカルド連邦国の首都ヌヌスの神殿からの報告なので確度は高いかと。」
「聖都を戦場にするわけにはいきませんね。」
白狐がなにやら思案顔だ。
「こうしませんか?私とクロさん、紫鬼さんでヌヌスの邪神教本拠地を襲撃。緑鳥さんに蒼龍さん、紺馬さんはもしもの場合の聖都の守護に回る。朱鮫さんと藍鷲さんは予定通り王化限界を伸ばす訓練をする。これでどうにかなりませんかね。」
「俺と白狐に紫鬼で邪神教を潰すって訳か?」
「えぇ。出来ませんかね?」
「いや、所詮烏合の衆だろう。3人いればどうにでもなるだろう。」
俺も答える。
「ならそれでいきましょう。緑鳥さん達もそれでいいです?」
「はい。わたしは構いません。」
「うむ。我も否はない。」
「ワタシもそれで構わないぞ。」
「ワイらは予定通り特訓や。気張ろうや藍鷲殿。」
「ですね。わたしは金獅子さんや茶牛さんからの連絡待ちもありますし。」
「ワシも構わんよ。精々暴れてやるさ。」
と言うことで碧鰐の死を嘆く間もなく俺と白狐、紫鬼がヌヌスからヌベラへと向かうことになった。




