457話 甲蟲人:蠍2
自身が放った魔術が蠅型甲蟲人の翅を焼いた事など気付きもしない朱鮫であったが、手を休めること無く魔術を連発していた。
「ファイアショット!ファイアショット!!ファイアショット!!!」
手にした杖の先から無数の火炎球が飛ぶ。
そんな朱鮫と兵士達の回復に努めていた緑鳥の元に藍鷲も合流した。
「こちらにいらっしゃいましたか。」
「藍鷲様。セカンダルへのゲートは無事に?」
「えぇ。なんとか。以前行った時の事を思い出して南門にゲートを開くことが出来ました。今はセカンダルへ兵士達五千名と傭兵千名が援軍として前線に向かっています。」
「そうですか。お疲れ様でございました。」
「いえ。むしろここからですね。修行で魔力の絶対量も増えた事ですし、わたしも後方支援に参加します。」
魔術を放ちながらも藍鷲の合流に気付いた朱鮫も寄ってきた。
「藍鷲殿。ゲートは無事に開けたようやな。」
「えぇ。なんとか。」
「ほな、一緒に蟻達に魔術ぶっ放そうや。」
「ですね。王化。魔王。」
藍鷲が言うなり左手小指にしたリングにはまった藍色の石から、藍色の煙が立ち上り藍鷲の姿を覆い隠す。
次の瞬間、煙は藍鷲の体に吸い込まれるように消えていき、残ったのはどことなく鷲を思わせる藍色のフルフェイスの兜と、同じく藍色の全身鎧に身を包んだ魔王の姿となる。
「いきます。ファイアとウィンドでファイアストーム。」
戦場に火炎を纏う竜巻が発生する。
「アイスとウィンドでアイスハリケーン。」
戦場に氷塊を巻き込んだ竜巻が発生。
「サンダーとウィンドでサンダーテンペスト。」
戦場に電流を纏う竜巻が発生した。
「ウォーターとウィンドでウォーターブラスト。」
風の力により圧縮された水流を含んだ竜巻が発生する。
「ロックとウィンドでロックハリケーン。」
石塊を巻き込んだ竜巻が戦場に発生する。
「お!全属性を1度にかいな。相当魔力使うんちゃうの?」
「えぇ。もう半分近く魔力を消費しました。でも遅れて来た分、頑張らないと。」
「気合入っとるのぉ。ほなワイも。
王化。法王。」
朱鮫が声を上げると、左手人差しのリングにはまる朱色の王玉から朱色の煙を吐き出しその身に纏う。
その煙は体に吸い込まれるように消えていき、煙が晴れると鮫を想わせる朱色のフルフェイスの兜に、同じく朱色の王鎧を身に着けた法王の姿となる。
「いくで!エクスプロージョン!!」
蟻達の中央付近に積層型魔方陣が浮かび上がると中心地から2kmほどの大爆発を起こす。
「今回は碧鰐殿の障壁が無いからな。ワイらはこのまま後方から爆撃や。」
「ですね。わたしもまだまだいけます!」
戦場にはさらに5本の竜巻と大爆発の嵐が巻き起こるのだった。
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睨み合う俺達と蠍型甲蟲人。
先に動くのはどちらか。探り合いが続いたが、やはり最初に動いたのは白狐だった。
「飛剣!」
4mの距離をものともせず斬撃が蠍型甲蟲人を襲う。
シミターを振り抜きこれを消し去った蠍型甲蟲人に白狐と銀狼が迫る。
白狐の白刃・白百合と銀狼の双剣、計3本の刃に襲われながらもシミターと右腕のハサミ、尻尾の針をもってこれに対処する蠍型甲蟲人。
その背後に茶牛が迫ろうかと言うところで気付かれた。
「後ろからとは卑怯やで!」
蠍型甲蟲人はシミターで白狐を斬り、ハサミで銀狼の刃を跳ね上げて、2人の腹部に前蹴りを当て後退させると、出来たすき間で尻尾の針を茶牛に差し向ける。
「ふんぬっ!」
茶牛はすぐさま尻尾をバトルハンマーでかちあげると蠍型甲蟲人の背中に痛打を与える。
「うぉ?!」
背中への打撃を受けて蹈鞴を踏む蠍型甲蟲人。その隙を逃さず俺はハサミの付いた右手首へ黒刃・右月と黒刃・左月でもって斬撃を入れる。
見事に手首の関節に入った2本のナイフであったが、切断には至らず。
「痛ったいな!」
俺は振り抜かれたシミターを避けるように後方へと跳躍する。
蠍型甲蟲人には白狐がさらに攻め込む。
背後の茶牛には引き続き尻尾の針が迫り、前方の白狐にはシミターで応戦。
「みんなぁ、跳べぇ!アースクェイクぅ!」
茶牛が地面にバトルハンマーを叩き付ける。
一斉に跳び上がる俺と白狐に銀狼の3人。
局所的に起こった地震により、蠍型甲蟲人が足を取られる。
「なんや?!地震か?」
跳び上がった状態から白狐、銀狼に俺と3人から頭上へと攻撃を浮ける事となった蠍型甲蟲人であったが、咄嗟にシミターと右腕のハサミを掲げてこれを防いだ。やるな。
「そりゃ!」
揺れが収まると尻尾を振り回して1回転。
「ぐはっ!」
茶牛は尻尾に当てられ吹き飛ばされる。
その頃には着地していた俺達3人。
再び一斉に斬りかかるもシミターとハサミに攻撃を阻まれる。
「そりゃ!」
そこで再度1回転して尻尾を振り回す蠍型甲蟲人。俺と銀狼は後方に下がってこれを避けたが、白狐だけは正面からこれを受け止めた。
「てりゃ!」
尻尾を跳ね上げる白狐。
そのまま斬りかかる。
しかし、これを読んでいたかのように蠍型甲蟲人はシミターでこれを受け止めたのだった。




