444話 旧王国領ファイブラ7
流石に3件もの屋敷に潜入して戦闘してなんてやってたら夜も明けてきた。
別日にする事も考えたが、一気に攻めないと事が明るみに出て何かしらの対策をされる可能性があったからな。
詰め込みすぎではあったが、連続3件の対処、これが1番良かったのだ。
さて、月夜野商会で手に入れた土地の権利書だが、普通に考えれば地上げの抗議団体にでも持っていけば、しかるべき人の手に渡り一件落着なんだろうが、あの雰囲気からするに月夜野商会の商会長は死んだのだろう。
となると、その月夜野商会が持っていたはずの書類を俺が渡しに行ってハイ、ソーデスカ、アリガトウとはならないだろう。
恐らくだが月夜野商会会長殺人の罪を着せられる。
実際には手を出していないんだし、階段から勝手に落ちて死んだだけだと言い張る事も出来なくはないが、そうなるとやっぱり何故月夜野商会の会長宅にいたのかって話になり、住居侵入、窃盗の罪を着せられる。
そうなっては折角猫耳フードを被って正体がバレないようにしたかわからなくなる。
それだけはいけない。世界の為に戦っているはずの王、神徒が実は盗人の人殺しだ、なんて話になったら大変な騒ぎになること間違いなしである。まぁ、実際に盗人の元人殺しなんだけどな。
って事で夜が明けてしまってから抗議団体に出向くことはやめた。
今日もう1日、ファイブラで過ごして、夜になったらこっそりと抗議団体の代表者の家なり集会場なりに置いてくればいいだろう。
まずはその為にも抗議団体の集会場、そして代表者の家を調べなくては。その辺りの情報収集はおざなりだったので改めて酒場で聞き込みする事にした。
宿に戻り昼過ぎまで爆睡したのち、宿で提供される昼食のファイブラ名物アジフライを堪能。
ファイブラはワンズの西、つまり海よりに存在している為、漁業が行われており、新鮮な魚料理が楽しめるのだ。とは言ってもフォートの様な港町って訳ではなく、海までの道程は、ほぼ断崖絶壁である。
そんな崖に縄ばしごをかけて海まで降りて、停泊している船に乗り込み漁に出る。
釣り上げた魚は先人達の知恵の結晶である滑車台に乗せられて崖の上まで運ばれると言った具合に細々と漁を行っている為、ワンズなどにまで魚が届くことはまずない。
つまり、魚を食べる絶好の機会なのだった。
と言う事でやって来たのは商店街。俺も中々魚に出会う機会が少なかったので、魚料理には手を出して来なかった。
が、ここには魚が売られており、その魚を捌き提供する店もある。
となれば店でかたっぱしから魚料理を食べ、美味しかったものはレシピを提供して貰い、その料理に合った魚を仕入れるべきだろうが!
と意気込んでみたが見通しが甘かった。
俺の胃袋では3件も飲食店を回るのが限界。しかもその3店舗にはレシピの提供はしていないと、はねのけられてしまった。
確かに店にとってはレシピは宝だからな。最近レシピを教えてくれる人達ばかりに会ってきたからその辺りが馬鹿になってたようだ。
だがしかし、しかしだよ。俺は1つのことに気付いた。
ズバリ、魚はフライにすると美味い、だ。
昼に食べたアジフライに始まり、タラのフライも美味かった。シャケにイワシにシシャモ。どれもこれも美味かった。
あ、フライばっかり食べてたから余計腹が膨れたのかもしれないと今更気付いた。でもあじフライが美味かったから他のフライも食べてみたかったんだもーん。ってな訳で、魚屋に突撃。
雑多な色とりどりの魚が並ぶが、この時間帯にしては並べられた魚の数が少ない気もする。
とりあえず手頃なサイズで調理がし易そうなのは、アジとイワシかな。タラとかシャケは大きすぎて捌ける気がしない。幸い俺には仕舞ってしまえば時が止まる影収納なる技がある。つまりここで大量に購入しても腐らせる心配はないのだよ。
と思って大量注文しようとしたら
「すまんね。最近は漁獲量が減っててね。料理屋なんかのお得意さんにはそれなりの数を卸してるが一般のお客さんにはそこまで大量には売ってやれないんだわ。」
とタオルを頭に巻いた日焼けが激しい中年店主に言われてしまった。
「漁獲量が減ってるって何か原因はあるのか?」
世間話のつもりで話を振ってみた。
「実はな、普段は遠洋にしか出ない魔魚が崖下にまで押し寄せてきててな。中々漁に出ることすら出来ない状態だって言うじゃねーか。魔魚ったら傭兵にでも頼んで討伐して貰わねぇと漁師達じゃ手に負えねぇ。だからと言っていつ出るかわからん魔魚の討伐を傭兵に依頼するとなると拘束時間が長くなって高額になっちまうってんで依頼すら出来ねぇ状態でな。あの魔魚さえいなくなりゃ漁も普通に行えて一般客にもそれなりの量を売れるんだがなぁ。魔魚さえいなくなればなぁ。」
とチラチラ俺を見ながら言う店主。これは見た目からして革の鎧に腰には二振りのナイフを携帯した如何にも傭兵らしき奴がちょうど来たから、ついでに依頼料抜きで魔魚の討伐させらんねぇかなって感じか?
「残念だが俺にもそこまで時間があるわけじゃない。」
今日の夜には抗議団体に書類を渡して、ワンズに戻らねばなるまい。甲蟲人の侵攻タイミングも近い。残念だが魚は諦めよう。そう思ったのだが、店主の目がキラキラと輝きを増して俺を見つめてくる。
「魔魚さえいなくなれば魚を売ってやれるんだけどなぁ。」
あー仕方ねぇ。夜まで、今日の夜までの短期集中型のお仕事だ。
「ホントに時間が無いから今日の夜までな!それまでに魔魚とやらが出てこなかったら諦めてくれよ。」
仕方ない。いっちょ崖下まで行って魔魚とやらをブチ殺してこようじゃねぇーか。




