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黒猫と12人の王  作者: 病床の翁


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443話 旧王国領ファイブラ6

 ヨルムガルドって奴は中々に強かった。さすが、落ちぶれてもなお、元Aランクの傭兵である。

 振り回す2本の刃の鞭はまるで生き物のようにうねり、俺の前進を遮った。ここがナイフ使いには厳しいところだ。相手に肉迫しないと刃が届かないのだ。

 王化して影針を使うことも一瞬考えたが、この程度の奴に王化を使うのもなんか負けた感がある。こいつには生身で勝つ必要がある。


 10分近くそうしていただろうか。

 ヨルムガルドは目の前で刃付きの鞭をしならせながら振り回す。

 俺はナイフで弾いたり、身体を捻って避けたりと大忙しだ。

 だがヨルムガルドの集中も切れかかっていたらしい。

 一瞬左手に持つ刃付き鞭を引き戻すのが遅れた。これを見逃す俺ではない。

 右の鞭を避けつつ、引き戻される左の鞭と共にヨルムガルドに迫り、その鳩尾に右手に握ったナイフを突き刺した。

 その後すぐに迫ってきた左鞭を避けるため、ナイフからは手を離してしまったが、俺のナイフは深々と鳩尾に突き刺さっていた。

「ぐふっ。やるな。だがまだ負けた訳じゃない!」

 再び身体の前でぶん回される刃付きの鞭。


 ヨルムガルドの肉体は厚みがある為、貫通迄はいって無さそうだが、刃が見えなくなるくらいガッツリ刺さっている。

 ヨルムガルドも今まで負傷した経験もあるのだろう。素人なら突き刺さったナイフを抜こうとするが、奴はそのまま戦闘継続する事を選んだ。

 さすがに警戒したのか、先程よりも鞭の回転速度が増して近付きにくくなっている。


 相手によって戦い方を変えられる奴は強い。下手な奴らは自分の必勝パターンを再現する事に躍起になって状況が見えていない事が多い。そう言う奴は1度崩せば意外と脆いものだ。

 さて、目の前のこいつはどっちだ?

 俺が一歩前に出ようとすると空かさず鞭の先端が飛んでくる。自分が負傷している状態で距離を取られるような戦法を選ぶか。こいつは必勝パターンに拘るタイプかもな。


 ここは鞭を回すのではなく必至に俺に向かって振るってくるべきだろう。なんと言っても手負いなのであるからして、時間がないのは自分の方である。ともなればいかに速く敵を倒すかが重要であり、防御動作に近い鞭を目の前で回す行為にどれだけの価値があるというのか。

 片手で鞭を回しながら片手で俺を打ちに来るが、そもそもが片手では太刀打ち出来ないからと両手に武器を持ったはずである。

 一撃入れられたことで憶病風に吹かれたか?


 そんなヨルムガルドを前にして、俺は後方に大きく下がると壁に向かって駆けだした。壁に右脚をかけて身体を上に、さらに左足で壁を蹴ってもっと上に。立体軌道を意識する。

 円を描くように振り回される刃付きの鞭、その軌道には壁と天井の接地面には刃は届いていない状態だ。そこを潜り込もうとしているわけだ。

 壁を蹴り上がり天井に手が付く、さらに壁を蹴って空白地帯を抜けると、すぐさま着地。俺の動きを目で追っていたヨルムガルドの背後に回ることに成功。

 ヨルムガルドは空かさず左腕を振るい刃付きの鞭を俺へと向ける。だが、ここが直剣と鞭との差だな。鞭はしなりながら俺へと向かってくる為、僅かながらタイムロスがある。

 先端が俺のいた場所を打つ前にすでに俺は動いており、ヨルムガルドの横をすり抜けていた。

 すり抜ける際に左手に握ったナイフで首を一薙ぎしている。

 僅かな時間をおいてヨルムガルドの首から血が噴き出し始めた。


「ぐがっ!まさか。おれが負けるのか?!そんな馬鹿な…。」

 血が噴き出す傷口を押さえながら膝を着くヨルムガルド。

「いやだ!死にたくない!死にたくない。死にたく…な…い。」

 ドサリと倒れ込むヨルムガルド。

 最後まで呻き続けた男は今まで沢山の命を奪ってきただろうに自分の命が奪われる覚悟がなかったんだな。哀れとしか良いようがない。


 さて、闇ギルドの頭目を撃ち倒すと言う目標は達成された。お宝ちゃんも頂いた事だし、ここにはもう用はない。

 だが、戦闘音が鳴り止んだ事で領主が自ら状況を除きに階段を上がってきた。まさか自分が雇った闇ギルドのトップが負けたなどと疑いもしなかったのだろう。

「ヨルムガルド!わしの屋敷でその武器を振り回すなと言っただろう!見ろ!壁も床も、天井さえも傷だらけじゃないか!」

 そこまで言って立っている人物がヨルムガルドではない事に気付いたらしい。

「な!?誰だ貴様!賊か?ヨルムガルドはどうした?」

 俺は視線でヨルムガルドだったモノを指す。

「な?!ヨルムガルドが負けただと?!そんな!」

 ようやく状況が飲み込めたらしい。

 そんな領主に一歩ずつ近付く俺。

「な?!来るな!来るな!あっちに行け!」

 後ずさりする領主。倒れている警備兵に足を取られて尻餅をつく。

 俺は静かに語りかけた。

「あんた、悪徳領主らしいな。闇ギルドを雇って色々やらせてるとか?」

「違う!奴らが悪いんだ!わしは脅されて仕方なく。わしは悪くない!」

 あぁ、こう言うタイプか。全部人のせいにして自分は悪くないと正当性を叫ぶ奴。生かしておいても百害あって一利なしだな。

 俺は倒れたヨルムガルドの鳩尾からナイフを抜くと、そのまま領主に向かって投げた。

 ナイフは狙い違わず領主の眉間に突き刺さる。

 よし、掃除完了。

 あとは地上げの抗議団体に土地の権利書を渡してやれば一段落だな。


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