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黒猫と12人の王  作者: 病床の翁


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442話 旧王国領ファイブラ5

 ヨルムガルドはその恵まれた体格とウルミと言う独特な武器を操る事で、傭兵登録直後から頭角を現し、20歳でBランク、24歳ですでにAランクへと駆け上がっていった一種の天才であった。

 だが、そんな彼には1つ難点があった。それは善悪の分別がなかった事だ。


 Aランクへと至った彼には様々な指定依頼が舞い込んできた。その中には政敵である貴族の暗殺や、闇ギルドの用心棒、中には田舎の貴族一族の抹殺など、普通の傭兵では決して受けないような依頼もあった。

 だが、彼はどんな依頼も受理し、的確にこなしてきた。だからこそ、そう言った一般社会では悪とされるような依頼も続々と彼のもとへとやって来た。

 そんな訳で26歳になる頃にはその非道な行いが明るみに出て、傭兵ギルドからその資格を剥奪され、闇ギルドへと堕ちていった。


 28歳の頃、所属していた闇ギルドの頭目が気に入らないという理由で殺害、その闇ギルドを乗っ取り『我獨の蛇』を名乗る事となった。

 月日が経ち、36歳になる頃には『我獨の蛇』はファイブラで1、2を争う大組織となり、領主候補の目に留まり、その護衛兼裏方の仕事を任されるまでになった。

 今日はそんな彼が雇い主である現ファイブラ領主の屋敷に現在進行中のプロジェクトの進捗報告を兼ねた食事会へと招かれていた日であった。


 遅くまで酒を呑み、今日は泊まっていけと領主から言われ、1階にある客間に泊まっていた。

 そんな中で警備兵の賊が侵入したとの声を聞くに至る。

 領主邸に侵入するなど、よほど腕に自信がある奴か、よっぽどのバカしか考えられない。だからどんな奴が侵入してのか一目見てやろうと部屋を出た。

 そして階段下まで来た時、襲いかかる複数の警備兵をほぼ一撃で撃ち倒していく小柄な人物に遭遇した。

 外套のフードを目深に被り、その表情は読めない。フードに付いた猫耳から獣人族だと思われた。

 獣人族は小柄でも力自慢が多いことで知られており、その身体能力は嘗めてかかれるものではない。

 たが、ヨルムガルドには自信があった。闇ギルドの頭目にまで登り詰めた自分の剣技に対する自信だ。


 だから強者の余裕を持って話しかける。

「ほぅ。6人の警備兵を軽くあしらうとは中々にやるな。だが運が悪い。おれがここにいるタイミングで盗みに入るとは。その命、貰い受ける。」

 そう言い放つと腰に巻いていたウルミを外し、ダラリと下げた右手に持ち先端を床に付ける。

 ヨルムガルドのウルミは長さにして1.5mほど。腕を垂直に伸ばしても床には届かない長さだ。

「あんたが『我獨の蛇』の首領、ヨルムガルドって奴か?」

 男にしては高めの声で聞いてくる侵入者。

「なんだ。おれの事も知っているのか。それともここにはおれに会いに来たか?」

「あぁ、あんたにも用がある。」

「はンっ!立ち退きの抗議団体にでも雇われたか?それとも他の闇ギルドの差し金か?どっちにしろお前、ツイてないな。おれが相手じゃな!」

 ヨルムガルドは一気に階段を駆け上がると手にしたウルミを振るう。

 それまでなんの構えも見せなかった侵入者が身構える。

 ヨルムガルドの初撃は手にしたナイフに防がれた。が、ここからがウルミの真骨頂だ。

 弾かれた切っ先を手首のスナップだけで引き戻し、追撃を加える。

 これには侵入者は大きく横に跳躍して避ける。

 その間にヨルムガルドも2階に上がっている。

「おれの初撃を避けるとは中々やるな。初見なら今のでバッサリいってたところだぜ?」

「その武器はお前のアジトで散々相手にしたからな。もう慣れた。」

「ほぅ。先にアジトに攻め込んだか。ならサルガマンドルの奴までやられたか。これは警戒レベルを数段引き上げる必要がありそうだ…。」

 ヨルムガルドはブンブンとウルミを回して勢いを付ける。

「な!」

 勢いを付けたウルミの刃の先端が侵入者に迫る。しかし、これも紙一重で避ける侵入者。空かさず距離を詰めてくる。

「させるかよ!」

 ヨルムガルドは手首のスナップを効かせて鞭状の刃を操ると接近しようとして来た侵入者の横っ面を捕らえた。

 ガギンッ

 硬質な音が響く。顔面に迫ったウルミの刃を侵入者がナイフで受け止めたのだ。だがウルミの真骨頂はここからだ。

 ヨルムガルドが一気にウルミを引くと先端が侵入者の後頭部を狙って振られる。

 入った、と思ったヨルムガルドだが、侵入者は体勢を低くしてこれをも避けた。まるで背後に目でも付いているかのような動きだ。

「これも避けるか。」

「言っただろ。もう慣れたと。」

「はははははっ!慣れたか。ならこれでどうだ?二刀流はおれにしか扱えないぞ?」

 腰に巻いてあったウルミをさらに外して左手に持つ。これで左右にウルミを持った状態となる。

 ヨルムガルドはそのまま身体の前でウルミを回し始めた。

「さぁ、ここからが本番だ。変幻自在のおれの華麗な舞いを見せてやろう!」

 右手のウルミを振るう。右に避ける侵入者。しかし、避けた先には左のウルミが迫る。ナイフで弾く侵入者。その時には右のウルミが腹部に迫る。

 それをも弾く侵入者。しかし次の瞬間には左のウルミの刃が迫る。

 絶え間なく続く刃の嵐、侵入者は器用に2本のナイフでこれを捌く。

「はははははっ!まだまだいくぞ!」

 ヨルムガルドの振り回すウルミの速度が上がる。それでも食い下がる侵入者。それどころか刃の嵐の中を前進し、ヨルムガルドに迫る。

 若干の焦りを感じ始めたヨルムガルド。こいつは強い。そうヒシヒシと感じ始めていた。

 それでもウルミを振り回す手は止めない。すでに床も壁も天井もウルミの刃を受けてズタズタである。これは領主に小言を言われるなと思った。その時。一瞬余計なことを考えたその時を狙われた。

 嵐のように、次々と迫る刃を躱し、弾きながら侵入者が肉薄する。

 ポスッ

 そんな軽い音だった。

 気が付けばヨルムガルドの鳩尾にナイフの柄が生えていたのであった。


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