436話 旧王国領サーズダル3
レストランを後にした紺馬が次に向かったのは魔道具店。マジックヘブンとは比べるまでもない程小さな店ではあるが、各地に少なからず魔道具を取り扱う店は存在する。
そんな店舗に足を運んだ紺馬は、すぐさま店員らしき細身のおかっぱ頭をした女性に声をかけた。
「すまん。魔道コンロを探しているのだが取り扱いはあるか?」
「はい。いらっしゃいませ。魔道コンロですね。ありますよ。一口コンロにはなりますが、火力も弱火、中火、強火と3段階調整出来る優れ物ですよ。お値段も大銀貨3枚とお買い得ですし。」
「大銀貨3枚?!そんなにするのか?」
「まぁ身近なものではありますが、言っても魔道具ですからね。それなりにお値段はしてしまいますね。」
「むぅ。」
手元には前回、前々回の支給金も含めれば大銀貨5枚程度はある。ここはお買い得に乗ってみるのもありか?
「買おう。だが少し値引きしては貰えないだろうか?銀貨1枚でもいい。なんなら大銅貨1枚でもいい。少しでも安く買いたいのだが?」
人生初の値引き交渉をする紺馬。どう言ったらいいのかも分からず、直球を投げかける。
「お値引きですか。んー厳しいですね。うちは壊れた際の1年保障も付けてますから。これでもかなりお買い得商品になっておりますよ?」
「むぅ。厳しいか。であれば今回は諦めるか。」
「あ、ちょっとお待ちを。店長に確認してきますので。少々お待ち下さい。」
そういっておかっぱ頭の店員は店の奥へと向かっていった。
5分程度は待たされただろうか。奥からおかっぱ頭の店員が戻ってきた。
「お客様。今回は特別価格です。銀貨2枚お引きして大銀貨2枚と銀貨8枚でお売り致します。」
「本当か?買った!ありがとう。」
思わず握手を求める紺馬。
「いえいえ。とんでもない。こちらこそ、お買い上げありがとうございます。」
紺馬の差し出した手を握り強く振るおかっぱ頭の店員。
「実は今月のノルマが厳しくて。お客様2購入頂けてようやくノルマが達成出来そうです。」
ポロッと本音が飛び出した。
「そうか。ならWIN・WINだな。」
「えぇ。わたくしも助かりました。」
ではこれで会計を頼む。大銀貨2枚と銀貨8枚を店員に手渡す紺馬。
「はい。ちょうどお預かりです。今商品を袋に入れますね。」
そう言って紙袋に魔道コンロを入れてくれた店員に最後に礼を言って魔道具店を離れた。
「次は食材だな。何を作ろうか。まずは簡単に野菜炒めでも作ってみるか。」
野菜炒めとなれば野菜を適当な大きさに切って肉と一緒に炒めるだけである。それなら料理初心者の紺馬でも作れそうである。
そう思った紺馬は精肉店に足を運んだ。
精肉店に到着した紺馬は度肝を抜かれた。
肉と言っても鶏肉、豚肉、牛肉、猪肉に熊肉、山羊肉、羊肉に蛇肉などなど、多種の肉があり、かつカルビだロースだ、バラ肉だと多彩な部位まで存在する。
今までエルフの里にいた時も狩りをしてきたが、兎や猪など、その時獲れた肉は余さず食べた。それこそドコの部位かなど考えた事もなかったのだ。
紺馬は禿げ上がった恰幅の良い店主に声をかける。
「あのー。野菜炒めを作りたいのだが、何肉のドコの部位が適しているだろうか?」
「なに?野菜炒めだ?そんな事を聞いてくるって事は姉ちゃん、料理初心者だな?まぁ野菜炒めなら豚バラ肉が1番じゃねーか?店で出すような野菜炒めも豚バラ肉を使ってるはずだ。」
「そうか。なら豚バラ肉を頼む。」
「はいよ。量は?何gくらい欲しいんだ?」
「何g?そうだな。1人前で頼む。」
「1人前だ?困ったな。うちはg売りだからな。1人前って言われても困っちまう。」
「普通は1人前と言ったらどのくらいだろうか?」
「そうさな。300gもあれば足りるんじゃねーか?」
「なら300g頼む。」
「はいよ。豚バラ肉300gね。100gで250リラだから750リラだよ。312gだがオマケしてやるよ。」
店主が秤に乗せた豚バラ肉は確かに312gとなっている。12g分オマケしてくれると言う事だ。
紺馬は銅貨8枚を支払い、大鉄貨5枚のお釣りを受け取る。
「まいどあり。」
店主の威勢の良い声を後ろに聞きつつ、八百屋に向かった。
野菜炒めと言えばキャベツにニンジン、ピーマンにモヤシだろうか。茸も入れるか。
そんな事を考えながら八百屋に着いた。
「へい!らっしゃい!何をお求めで?」
頭にタオルを舞いた二十歳くらいの青年が声をかけてくる。
「キャベツにニンジン、ピーマンにモヤシ、それとエリンギとシメジをくれ。」
「はいよ。キャベツは一玉でいいかい?」
「一玉は多いな。半分でいい。ニンジンは3本、ピーマンも3つ。エリンギとシメジは一盛りで。」
「はいよ!しめて840リラだよ。」
紺馬は大銅貨で支払いお釣りを受け取る。
魔道コンロに肉、野菜と買い込んだ為、両手いっぱいの荷物を抱えている。それでもあと料理用の油や塩コショウなどの調味料も必要だ。
紺馬はスパイスを売っている店へと向かう。
黒猫がいれば喜んでスパイス類を買い集めそうなだけの様々なスパイスが売っている。
が、紺馬には何が何だかよく分からない。なので、無難にオリーブオイルと塩コショウだけ購入し、借家へと帰っていくのであった。




