435話 旧王国領サーズダル2
エルフの里での蒼龍と紺馬の挙式の翌日。藍鷲のゲートの魔法により、みんなはそれぞれの守護エリアへと散っていった。
そしてサーズダルへと向かった紺馬には1つの心変わりがあった。
「蒼龍と結婚もした事だし、ワタシも料理くらいは出来た方がいいだろうか。」
独り言ちる紺馬。
各地に散る時に生活費として黒猫より1人大銀貨3枚、つまり30万リラほどあずかっている。これは当面の衣食住にかかるすべての費用となるわけだが、そもそも住居に関しては1年分の費用をすでに払っている。その為、住に関しては油や蝋燭、薪などの消耗品程度の準備だけあれば良い。
衣に関しては特に別途購入が必要な者も無いため、出費は少ない。つまりそのほとんどが食事に当てられる費用となる。
それも皆、自炊などせずに外食のみに頼る事が想定されるためにそれなりの金額を渡されていた。
「自炊ともなると飯盒に鍋にフライパン、魔道コンロも必要か。買いに行くか。」
紺馬は1人、サーズダルの商店街に向かった。まずは金物屋に向かい、鍋やフライパンなどを購入する予定だ。
「飯盒は1合炊きでいいだろう。だが鍋もフライパンもサイズがまちまちだな。どの程度のサイズがいいのだ?悩むな。」
「いらっしゃい。お客さん。何をお探しで?」
スラリとした長身の店員が声をかけてきた。
「1合炊きの飯盒を頼む。それと1人用の鍋とフライパンを探している。どの程度のサイズがいいのどろうか?」
「そうですね。鍋となると一人分の簡単な料理をする程度であれば18cmくらいの鍋で十分です。ただし、カレーなど煮込み料理を作る頻度が多い場合には、少し大きめの22cmくらいの鍋がおすすめですね。中間の20cmなら、幅広い料理に使いやすく重宝しますし、一人暮らしともなると収納のスペースも限られることが多いので、収納スペースを確認し、使いやすいサイズを選んで頂けたら。」
慣れているのかすらすらと答える店員。
「では20cmの鍋を貰おうか。」
「片手鍋と両手鍋ならどちらが好みですか?」
「片手鍋?仲間はいつも両手鍋を使っていたな。違いはあるのか?」
「片手鍋は持ち手が1つ付いた鍋で、片手で手軽に扱えるのが魅力ですね。コンパクトなものが多く、つゆをどんぶりに移しやすいなど、一人分の麺類の調理などに便利です。汁物、煮物、湯沸かしはもちろん、フライパンと兼用でちょっとした炒め物もできます。1つ持っていると幅広い用途で使えるのでお薦めです。」
「両手鍋は?」
「両側に取っ手が付いた鍋が両手鍋です。片手鍋よりも深く安定感があるため、多めの分量で作るときや、カレーやスープなどの煮込み料理に向いていますね。パスタなどの麺類も、たっぷりのお湯で茹でることができますから麺類をよく作るならこちらがお薦めですね。」
この質問にもすらすらと答える店員。一人暮らしの調理器具を買い求める者がそれなりに多くいると言う事だろう。
「んー。煮込み料理はまだ早いかな。片手鍋で頼む。」
「畏まりました。フライパンはどうされます?」
「フライパンもお薦めのサイズはあるか?」
もうすべて聞くことにした紺馬。
「一人暮らしで使うフライパンで最もおすすめのサイズは直径24cm~26cm程度ですね。チャーハンや野菜炒めなど、割と具材を大きく動かす料理にも対応でき、2人前の分量でも調理することができるサイズのフライパンなので。深さがあるタイプのフライパンを選べば、煮物やパスタを茹でるのにも使うことができるので便利ですよ。」
「フライパンで麺が茹でられるのか?」
「深型ってやつならお湯が張れますからね。」
「そうか。ならその深型を頼む。」
「深型ですとサイズが24cmか26cmですね。」
「大は小を兼ねるというしな。大きい方で頼む。」
「はい。26cmの深型ですね。畏まりました。」
それからピーラーやフライ返しやお玉、へらや菜箸などの小物も購入した。
必要じゃないかと言われた物をどんどん買っていったら銀貨1枚ほどの買い物になってしまった。
「うん。結構重いな。1度家に持って帰るか。」
両手に紙袋を持って借家まで戻る紺馬。荷物を置いたら再び商店街まで歩く。
借家は外郭よりにある為、商店街まで行くのにもそれなりに時間がかかる。
そうこうしているうちに昼飯時となった。
「んー。自炊は夕食からにするか。」
独り言ちて小さなレストランに入る紺馬。
「いらっしゃいませぇー。」
兎耳の獣人がウェートレスをしている。
「こちらメニューになります。ご注文お決まりになりましたらお声がけ下さい。」
「あぁ、わかった。」
1人で自炊するとしても揚げ物はハードルが高いだろう。となると暫くは揚げ物から遠ざかる。となればここは揚げ物を頼むべきだろう。
「注文を頼む。」
「あいあぃ。なんにしましょう?」
兎耳のウェートレスが水の入ったコップと共におしぼりを持って注文を取りに来る。
「このミックスフライ定食を頼む。」
「あいあぃ。ミックスフライ定、入りまーす。」
厨房にオーダーを通し、水とおしぼりをテーブルに置いていく。
暫し待つと兎耳のウェートレスがミックスフライを運んでくる。
エビフライに白身魚のフライ、コロッケにクリームコロッケが乗った贅沢なプレートである。
「ワタシが揚げ物を作れるようになるのはいつになるかな。」
紺馬は独りごちでからミックスフライ定食を口に運ぶのであった。




