434話 エルフの里7
翌日は朝から式の準備が始まった。
式の牧師役は緑鳥が務める事となったようだ。
「わたしも聖女の1人ですからね。誓いの言葉くらいは暗記しております。とは言え実際の結婚式は初めてですからね。失敗しないようにしないと。」
と緑鳥もやる気満々である。
準備と言っても里の広場に人が集まって雛壇として簡易的な台が用意されただけである。
1番準備時間がかかったのは新婦の衣装である。
エルフは親から子へとウェディングドレスを受け継ぐ風習があるらしく、青馬が着ていたドレスを紺馬が着るらしいのだが、なにぶん数百年保管されてた物なので所々痛んでいたようだ。だもんで今は青馬が修復しながら取り敢えず着れる形に仕上げているらしい。
準備を始めて2時間も経過した頃、新婦の準備も整ったらしい。
雛壇に緑鳥と新郎の蒼龍が立ち、新婦である紺馬を迎える。
里の女性達がエルフに伝わる賛美歌を歌い始め、辺りが静まりかえる。
紺馬の実家から出てきた紺馬は純白のドレスを纏い、いつもの強気な顔つきもどこか柔らかく見える。
「まさに馬子にも衣装やな。」
「こら。余計な事いわんと黙っとき。」
朱鮫が小声で言うのを翠鷹が嗜める。
エルフの女性達が道の左右に立ち花びらを撒いている中を長い裾を引きずりながら進んだ純白のドレス姿の紺馬も雛壇に昇った。
「それではこれより新郎、蒼龍と新婦、紺馬の婚約の儀を始めます。」
厳かな声質で緑鳥が式の開始を宣言する。普段なら挙式を始めるとか言うのだろうが、そこは龍人族風にしているようだ。
「新郎、新婦の両名はこれより数多なる神々とここに参列の皆様に婚約の約束をして頂きます。よろしいですか?」
「はい。」
「はい。」
蒼龍と紺馬の2人も若干緊張気味の返事をする。
「新郎、蒼龍。あなたはここにいる紺馬を妻とし、健やかなる時も病める時も、喜びの時も悲しみの時も、
富める時も貧しい時も、これを愛し 敬い慰め合い共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい。誓います。」
蒼龍の宣言に深く頷く緑鳥。
「新婦、紺馬。あなたはここにいる蒼龍を夫とし、健やかなる時も病める時も、喜びの時も悲しみの時も、富める時も貧しい時も、これを愛し 敬い慰め合い共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい。誓います。」
紺馬の宣言にも深く頷く緑鳥。
「それでは誓いのキスを。」
ぎこちない感じだが2人はそっと口づけをした。
「ここに2人の誓いはなされました。参列の皆様もここにいる2人の婚儀を認め、末永く共にあることの証人となります。この2人に神々の祝福があらんことを。2人の結婚を心から祝福します。2人の未来が、愛と喜びと平和に満ちたものとなることを願っています。」
最後まで朗々と話す緑鳥。厳かな雰囲気はいつもとは異なり、聖女としての威厳すら感じる。
その言葉が言い終わるのと同時に各所で拍手が巻き起こる。
「おめでとー!」
「紺馬おめでとう!」
里のエルフ達も声を上げて祝福する。
最後は参列者全員の大きな拍手に囲まれて蒼龍と紺馬の2人が手を取り合って参列者に頭を下げた。
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今は雛壇も片付けられ、皆で立食パーティーのように並べられたエルフ特製の昼食を食べているところだ。
うん、なんて言うか、いい式だったな。皆に祝われる紺馬とその隣に立つ蒼龍。お似合いの2人に見えた。
今は蒼龍と紺馬の2人とも凛々しくも朗らかな表情を浮かべて談笑している。
式を終えて何か心変わりでもあっただろうか。
「即席にしては良い式でしたね。」
隣に来た白狐も同じ感想だったようだ。
「だな。紺馬も時間がかかっただけあってドレス姿も似合っているしな。」
「本来なら新郎もタキシードなり正装するものですけどね。今回は準備してなかったから仕方ないですね。」
確かに蒼龍はいつもの格好だったな。
「まぁ格好なんてどんなでもいいんだろうさ。2人が共に歩むことを皆に約束するってのが趣旨だしな。」
そこまで言うと白狐が上目遣いで俺を見てくる。
「私達の式はどうします?遅くなりましたが今からでも開きますか?」
「え?やっぱりお前もドレスとか着たいのか?」
「いえ。ドレスはどちらでも。ただこんな風に皆に祝って欲しいだけですよ。」
「なら甲蟲人や邪神の件が片付いたら盛大なパーティーでも開くか。俺達の結婚式として。」
その俺の言葉にキョトンとした表情で見つめ返す白狐。
「え?本当ですか?」
本当に意外そうにこちらを見てくる。
「なんだよ。皆に祝って欲しいんだろ?」
「いえ。クロさんはそう言うのは嫌がると思っていたので意外な言葉に驚いてしまいました。」
「まぁ俺も夫として妻に出来るだけの事はしてやりたいからな。」
その俺の言葉にもキョトンとした上で、いきなり破顔する白狐。
「ふふっ。クロさん。全く貴方って人は男前ですね。」
「なんだよ。茶化すなよ。」
「ふふふっ。では全てが片付いたら、ですね。」
「あぁ。約束するよ。」
そんな会話をしていた所に紫鬼がやって来る。
「お前さん達も食べてみろよ。エルフの料理もなかなかいけるぞ。クロなら再現も出来るんじゃないか?」
「美味いのか?どれ、俺も食べようかな。」
「あ、私も食べます。紫鬼さん、どれが1番美味しいですか?」
「あっちのイナゴを甘辛く煮たやつがワシは気に入った。」
と、その後は皆でワイワイと食事をしたのだった。
立食パーティーも終わり、蒼馬と青馬にはもう1泊していけと進められたが、明日からはそれぞれが各地に散る予定である。
その為、これを辞退して聖都へと戻る事にした。
乗ってきた馬達を預かってくれた青年から馬達を受け取り、藍鷲が王化してゲートの魔法を発動させる。
「ほぉー。これで聖都までひとっ飛びですか。」
始めてゲートの魔法を見る村長などは感心している様子だった。
「この魔法があればまたすぐ帰省出来ますわね?」
青馬が紺馬に言う。
「そうだな。藍鷲に頼んでちょくちょく顔を見せに来るよ。」
「うん。その時は蒼龍さんも一緒にね。」
青馬は娘との別れが惜しい様子であるがいつまでもゲートの魔法を行使させ続ける訳にもいかない。
「よし、では戻るとするか。」
金獅子の一言で皆が続々とゲートを潜っていく。
こうして紺馬の里帰り兼婚約の儀は無事に行われたのだった。




