428話 聖都セレスティア45
再生能力を欠いたヒュドラは金獅子と銀狼の敵ではなかった。
最後の首を金獅子の大剣が振り抜かれて刎飛ばされる。
頭部を全て失っても生き続けるのは魔物の生命力の高さを物語っている。が、所詮は首なしの胴体だけである。
踏みつけを行うも銀狼に華麗に避けられ、その心臓部を双剣で突かれ息の根を止めることとなった。
「やっぱり再生能力がないヒュドラは敵じゃなかったな。」
「うむ。お互い怪我もなし。完全勝利だな。」
「これで森も普段通りに戻るだろう。」
「うむ。では戻るとするか。」
金獅子と銀狼はヒュドラの遺体を放置して踵を返す。
黒猫がその場にいたなら皮を剥いで肉の塊を影収納に収めて貰えるが、存念ながら黒猫はいない。
持って帰れるだけの肉を採取することも考えたが金獅子の「面倒だな」、の一言で止める事にしたのだ。
周りにはジャイアントボアやブレードラビットなどが息を殺してヒュドラとの戦いを遠巻きに観戦していたが、流石にヒュドラを倒した人間に襲いかかるようなものはおらず、2人はすんなりとその場を後にするのだった。
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「てぇい!」
白狐が放った抜き身の白刃・白百合による袈裟斬りが身に纏った鎧ごとオークキングを斬り裂いた。
「ブッ、ブヒッ…。」
最後の断末魔を上げてオークキングが崩れ落ちる。
「こちらは終わりましたよ?手伝いましょうか?」
振り返った白狐が大声で紫鬼に問う。
「なぁに、こちらもあと1体じゃ。少し待っとれ。すぐに終わる。」
オークジェネラルが振り下ろした斧を頭上で真剣白刃取りし、押し込もうとするオークジェネラルと力勝負をしていた紫鬼。
その周りには鎧の胸部が大きくひしゃげたオークジェネラルの死骸と、頭部を兜ごと滅多打ちにされ、ボコボコになったオークジェネラルの死骸が転がっている。
「どりゃ!」
オークジェネラルの力が一瞬緩んだ隙に斧を大きく弾き返し、腹部に蹴りを入れる紫鬼。
蹴られたオークジェネラルは数歩後退する。
「とりゃっ!」
そこに跳躍して飛び掛かった紫鬼が顔面に右ストレートをお見舞いする。
蹈鞴を踏むオークジェネラル。だがまだ瞳は闘志に燃えている。
「ブヒーッ!」
大きく横殴りに斧を振るう。がすでにそこに紫鬼の姿は無く、斧は虚しく空を斬る。
「もう1発じゃ!」
そこに再度跳躍して距離を詰めた紫鬼の右ストレートが炸裂。オークジェネラルの兜が大きく凹む。
「とりゃ!」
「てりゃ!」
「せいやっ!」
あとは紫鬼のペースである。顔面に始まり胸部、腹部、顔面に拳が突きささる。
「これでしまいじゃ!」
紫鬼の左アッパーがオークジェネラルの顎を砕く。
大きく吹き飛ばされたオークジェネラルは完全に息の根を止めていた。
「ふぅ。流石に3体は時間がかはかったのぅ。」
「お見事です。」
パチパチパチと白狐が拍手を送る。
「まぁこれで元凶は取り除けたじゃろ。」
「ですね。戻りましょうか。」
「うむ。黒猫達も待っているだろうしな。早く戻るか。」
2人もオーク達の亡骸を放置して踵を返す。
黒猫が入れ刃大量のオーク肉が獲れた喜ぶだろうが、2人にはその肉を搬送する術がない。残念だが諦めるしかなかった。
2人は自分達が来るときに踏みしめた地面を再び足場としながら鬱蒼と茂った下草の中を歩き出した。
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「婚儀と言ったか?つまり結婚?」
目をぱちくりさせて紺馬が問う。
「ふむ。まずかったか?我は戦士だ。いつ何があるがわからん身としては付き合う等と言った時間は省略したい。だから早く婚儀を結び2人の時間を設けようと思ったのだが、嫌だったか?」
「い、いや…じゃない。けっ、結婚、する。」
赤い顔をますます赤らめて紺馬が答える。
「そうか。我と紺馬では歳も相当離れているが問題ないか?」
「歳は問題ない。ワタシは龍王に惚れたのだ。それにワタシも龍王も長命種だ。時間はたっぷりある。むしろ龍王はワタシでいいのか?」
「む?うむ。我の好みのタイプは紺馬のような女性だと言っただろう?」
「う。聞いた。」
「うむ。」
「うむ。じゃわからん!」
「好みの女性など今まで考えた事もなかったが、こうして考えてみると目の前に好みのタイプがいたのだ。否もなしだろう。」
堂々と宣言する蒼龍にたじたの紺馬だ。
「では改めて。我と婚儀を結んでくれるか?」
まっすぐ目を見て蒼龍が言う。
その恥ずかしさのあまり1度は目をそらした紺馬であったが、意を決したように蒼龍の目を見返し言う。
「はい。喜んで。よろしく頼む。」
「うむ。こちらこそよろしく頼むぞ。聖都に戻ったら首飾りを買おう。龍人族は婚儀の際には首飾りを送るのだ。それとも人族のように指輪の方が良いか?」
「いや、首飾りがいい。ワタシは龍人族に嫁ぐのだから龍人族のしきたりに従うさ。」
「そうと決まれば早く街に戻ろうか。」
「うん。」
2人は来た道を折り返す。何処となく2人の距離感が近くなった気もする。
「紺馬のご両親にも挨拶に行かねばならんな。」
「それを言うならワタシも。」
「いや、我の両親はすでに他界しておるでな。特に挨拶はいらんよ。」
「そうか。うちは父様も母様も健在だ。きっと驚くだろうなぁ。」
そんな事を話しながら進む2人の足取りはどこか軽やかなものであった。




