427話 聖都セレスティア44
六つ首のヒュドラと戦う金獅子と銀狼。
先制攻撃はヒュドラの六つの口から吐き出された毒の息だった。
「いかん。毒だ。絶対に吸い込むなよ。」
「わかってるって。」
辺り一面に広がる毒の息を前にも怯まない2人。
「どっせいっ!」
金獅子が背負っていた大剣を振り抜き盛大に風を起こすと毒の息を振り払う。
「てりゃぁぁぁぁ!」
銀狼も手にした双剣を振り回して自身に襲いかかる毒の息を散らす。
毒の息が晴れた時には無傷な2人がヒュドラへと迫るように駆け出していた。
「とりゃっ!断頭斬!」
ヒュドラの直前で跳躍した金獅子が大剣をヒュドラの1本の首に向けて振り下ろす。
ザシュッ
見事に大剣は1本の首を2つに分ける。
その間に地上を駆ける銀狼もヒュドラに肉迫、双剣を振るい首の1本を叩き斬る。
通常のヒュドラであれば脅威となるのは毒の息とともにその再生能力の高さが上げられる。よって最速で全ての首を切り落とし心臓部にダメージを与える必要があるのだが。
「む?このヒュドラ、再生しないぞ。」
「だな。切り口の肉が盛り上がって傷口を塞ぐだけだな。」
「なるほど。再生能力がない為に六つ首だったわけか。」
「今は四つ首だけどな。これなら討伐も簡単そうだ。」
「うむ。だが毒の息は健在だ。気を抜かずにいくぞ!」
「おうよ!」
そこから金獅子と銀狼の猛攻が始まる。
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オークの軍勢に真っ向から挑んだ白狐と紫鬼の2人。
すでに斬り殺したオークの数は十数体におよび、紫鬼の拳により殴り殺されたオークも多く木々の根元に積み重なっていた。
「数が多いですね。これじゃゴブリンコミュニティも撤退してくるわけですね。」
「そうじゃな。この規模なら確実にキングがおるじゃろて。このまま正面突破でキングの元まで進もうや。」
迫り来るオークを斬り捨てながら白狐が言えばオークを殴り飛ばしながら紫鬼も答える。
そのままさらに十数体のオークを屠りながら先に進むとやはり居た。オークジェネラル3体とオークキングが居る。
オークキングが座っているのはゴブリンの死骸を積み上げた簡易的な椅子だった。
「元凶発見ですね。」
「あぁ。キングは任せた。ワシはジェネラルを貰う。」
「3体いますけど、大丈夫ですか?」
「なに。3体くらいがちょうどよかろう。」
拳を鳴らしながら紫鬼が答える。 「では参りましょうか。」
「うむ。参ろうぞ!」
こちらを敵として認めたのかオークキングも立ちあがり手に巨大な斧を持ち、担ぎ上げると白狐達に向けて足を運ぶ。
それに合わせてオークジェネラル達も後に続く。
こうしてオークキング・オークジェネラル対白狐・紫鬼の戦いが開始された。
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南に向かって歩く蒼龍と紺馬。
2人はまだ紺馬による質問攻めの真っ最中だった。
「強くて長命種の女か。それ以外は?例えば見た目はどうだ?髪の長さは?長い方がいいとか、短い方がいいとか?」
「ふむ。そうだな。長い髪の方が女性らしさを感じるな。そう紺馬のような髪型が1番好みではあるな。」
言われた紺馬は慌てたよう二自分の髪型を直すように頭に手を当てる。
「な、ワタシの髪型が?!むむむっ。他には?他には何かないか?」
「んーむ。そうだな。余り考えた事がなかったからな。」
「顔のタイプは?目は大きい方がいいとか?タレ目がいいとか?」
「そうだな。ぱっちり二重のつり目がいいかな。それこそ紺馬のような目は好きだぞ。」
「ワ、ワタシの目が好き?!そ、そうか。そうなのか。」
言われた紺馬は目をパチパチさせる。確かに少し強さを感じるようなつり目気味の紺馬である。
「ふむ。強く長命種で長髪のつり目の女性、そう考えてみると紺馬のような女性が我のタイプなのかもしれんな。」
「ワ、ワタシがタイプ?!」
もう紺馬の顔は真っ赤である。蒼龍が先行している為に顔を見られる事はないが思わず顔を背ける紺馬である。
そんな話をしているうちに2人は森の最南端に到着した。
「こちらには異変はないようだな。」
「あ、あぁ。そうだな。」
「こちらではないとなると北か西か、まぁいずれにせよ支援に向かうまでもないか。さて、戻るとするか。」
「ちょっと待った!」
「ん?どうした?顔が赤いぞ?熱でも出したか?歩くのがしんどいならおぶっていくぞ?」
心配そうに紺馬の顔を覗き込む蒼龍。さらに紺馬の顔が赤くなる。
「いや、そうじゃない。」
「そうか?ではどうした?なにか見つけたか?」
「いや、そうでもなくて…。」
言い淀む紺馬に優しく声をかける蒼龍。
「どうした?言いたいことがあるなら聞くぞ?」
「あ、あの!その。えっと…。」
モジモジしだした紺馬。それを見て蒼龍が察する。
「もよおしたか!困ったな。街まではまだ距離があるし、森の陰で用を足すしかないか。」
「違う!ワタシはお前の事が好きなのだ!」
一瞬の沈黙が流れる。
「なに?」
「だから!ワタシは龍王の事が好きなのだ。つまり惚れたのだ。」
「紺馬が我を?」
「そうだ。ワタシが龍王を、だ。だから付き合って欲しい。」
「ふむ。だから道すがら好みのタイプなどを聞いてきたのか。納得いった。」
「で?答えはどうなんだ?」
「ふむ。」
「ふむじゃわからないぞ!ちゃんと答えてくれ。」
「よし、なら婚儀を結ぶか。」
「こ、婚儀?!」
2人の周りには小動物すらいない空間が広がっている。
たった2人のプロポーズが今、行われたのだった。




