426話 聖都セレスティア43
聖都の西に広がる森は東西南北に約2km強の広さを持つ。
生える木々はマツやスギなどの針葉樹で高く伸びた木々により陽光が遮られ日中でも薄暗い。
生息する魔物はホーンラビットやジャイアントボアを始めとした獣型が多く、時折ゴブリンなどの鬼種も生息しているのが見られるがさほど多くは無く、見られても北西の方角に固まって分布していた。
つまり東の聖都付近にゴブリンが固まって出現したとなれば通常では考えられない事態が発生していると言う事になる。
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北側へと向かった金獅子と銀狼。
森に住まう獣型の魔物は警戒心が強く、そうそう人前に出てくる事はない。大抵が狩りの途中や何かに追われるようにして飛び出してくるのが常だ。
そんな獣型の魔獣に遭遇しつつも、戦闘は避け、先を急ぐ2人。
あの規模のゴブリンコミュニティを追い立てるほどの存在に対して金獅子のヤル気が漲っていた。
「なぁ、銀狼よ。いったい何がこの森にやって来たと思う?」
「さぁ。でもあの数のゴブリンが逃げてきたと考えたら相当強力なやつだろうぜ。」
「だよな。楽しみだな。どんな奴が現れるか。こちらの方面に居てくれればいいのだがな。」
相変わらず顎髭を撫でながら金獅子が言う。
「なんか楽しそうだな?兄貴。」
「うむ。近頃は甲蟲人相手しかしておらんからな。たまには別の魔物を狩りたいではないか。しかも強力な個体ともなれば腕が鳴ると言うものよ。」
「はぁ、バトルジャンキーかよ。」
そんな会話をしつつも森の奥へと進み、進路を北に向ける。
森は獣道しかなく、生い茂った下草に膝下まで隠れるほどである。とても歩きやすいとは言えない。
それでも金獅子はずかずかと進む。銀狼にしてもその程度の草むらには抵抗はなく金獅子の後に続く。
1kmほども進んだだろうか。
木々ご薙ぎ倒され、陽光が降り注ぐ広場に出た。
その陽光は地面に丸まって寝ている4mほどの存在を照らす。
「おい、見ろ。ヒュドラじゃないか?」
「ヒュドラ、だな。こんな所にヒュドラとは珍しいな。水辺にいるのが普通だろ?」
「なんにせよ、こいつが元凶だろうよ。ヒュドラ相手ではゴブリンも逃げ出すわな。」
その存在は6本の首を持つヒュドラだった。通常9つの頭を持つヒュドラに対して3本ほど少ない。奇形ゆえに群れから追い出された個体なのかもしれなかった。
そこで不意にヒュドラが起き上がる。周りを見渡し金獅子達の姿を認めると、立ちあがり臨戦態勢に入る。
「ヒュドラと言えば毒だな。気を付けろよ。」
「あぁ。わかってるよ。」
「では行くぞ!」
「おうよ!」
こうして金獅子と銀狼対ヒュドラの戦いが始まった。
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森の西側に向かう白狐と紫鬼の2人。
「どんな奴が出てきますかね?人型だったらいいなぁ。」
「人型?なんでじゃ?」
「獣型よりも人型の魔物の方が斬った感じするじゃないですか。」
「そうなのか?ワシにはわからんが。」
「紫鬼さんも人型の方が殴りやすいでしょ?」
目の前の敵を殴るように右手を突き出す白狐。
「まぁ、それはそうだな。」
「一緒ですよ。人型の方が斬りやすいんです。」
「そんなもんかのぅ。」
そんな話をしながら先に進む2人。
と目の前の木々の隙間からオークの集団が見え始めた。
「やった。オークですよ。」
「数が多いな。こりゃオークキングもいるのではないか?」
「いるかもですね。まずは正面突破ですね。白刃・白百合も血を欲していますよ。ふふふっ。」
白刃・白百合の鞘を撫でながら言う。
「まるで辻斬りじゃな。まぁそうさな。あの数なら正面から行くか。」
「ではお先に!」
そう言ってオーク達の前に躍り出た白狐。刀の間合いに入ったオークを抜刀術で斬り伏せ、抜き身の刀で続くオークを斬る。
「ワシの分も残しておけよ。」
遅れて飛び出した紫鬼。近場のオークをぶん殴り数mほど吹き飛ばす。
こうしてオークの集団対白狐と紫鬼の戦いが始まった。
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南に向かうのは蒼龍と紺馬。
紺馬は周りからの助言もあり蒼龍を異性として意識し始めていた。
対する蒼龍はそんな事になっているとも知らずに紺馬を帯同の相手に指名した。
「今のところ何もおかしな点はないな。」
「そ、そうだな。何も無いな。」
「もう少し南下してみるか。」
「そうだな。もっと南かもしれないな。」
言いながらもモジモジし始める紺馬。
そして暫く無言が続いた後、思い切ったように口を開く。
「龍王。龍王はどんな女が好きなんだ?」
「ん?好きな女?どうした急に。」
「いいから答えろ。どんな異性が好みだ?」
「好きな異性のタイプか。考えた事もなかったな。」
「折角の機会だ。考えてみてくれ。」
「折角の機会?よくわからんが。まぁそうだな。強さは求めたいな。」
「強さ、か?」
「うむ。龍人族は強さこそを優先する部族だからな。弱々しいよりは強気の方が良いな。実際に戦う力も合った方が良い。」
「強気な方がいいのか。」
「うむ。あとは龍人族同様に長命種が良いな。連れ添う事を考えたらそこは譲れんな。」
「長命種か。」
「うむ。」
こうして蒼龍対紺馬の恋の駆け引きが始まったのだった。




