419話 聖都セレスティア39
「んじゃ行くぜ。王化、夜王。」
左耳のピアスにはまる王玉から真っ黒な煙を吐き出しその身に纏い、その後煙が体の中に吸い込まれるように消えていくと猫を思わせる真っ黒な兜に、同じく真っ黒な全身鎧を身に着けた夜王の姿となる。
「まずは延影から。」
俺は一声かけると影を最大限まで伸ばす。今の最長距離は5m程だ。影を延長するから延影と名付けた。
「おぉ!クロの影が伸びているぞ!」
「ほんまや!頭の先から伸びとる。4m、いや5mくらいやな?」
「ほんに伸びとるわぁ。そう言えば黒猫はんは影使いやもんなぁ。」
「影使い?なんだそれは?」
翠鷹の言葉に金獅子が引っかかる。
「ほら、黒猫はんは影収納やら影縫いやら影を使いはるやろ。せやから影使い言いましたんよ。」
「なるほどな。影使いか。」
それには紫鬼も感心したように応える。
まだ技の途中なんですけど。なんか影使いって単語で盛り上がっていらっしゃる。
「影を伸ばしたのは下準備でしょ?クロさん。」
「あぁ。影を伸ばすだけで必殺技とは言わないよ。」
「で、ここからどうなるんだぁ?」
茶牛も目を見開いて影を凝視している。
「ほな、続きを見せてぇな。」
朱鮫に言われたので俺は気合を入れる。
「んじゃ見てろよ。俺の必殺技。影針!」
伸ばした影の先端から直径30cm、高さ2mの影の針が出現する。
「「「「「おぉ!」」」」」
皆一様に驚愕してくれた。
5秒ほどで影の針は消えたが、消えた時にも皆驚きの声を上げてくれた。
「「「「「おぉ!消えた」」」」」
「なんか出たぞ!クロ!なんだあれは?!」
一番興奮状態なのは紫鬼だった。
「影で作った針だよ。影針、影の針で影針と名付けた。」
「ヨルさんの必殺技、暗黒針舞に似てますね。」
白狐にはすぐに気付かれた。他のメンツは三ツ目の三井と戦ってた時にも居たがそれぞれが別の戦闘をしていたので見ていなかったのだろう。
「あぁ。ヨルの暗黒針舞を再現しようとしたんだ。まだ自分の影からしか針は出せないけど、ゆくゆくは暗黒針舞を再現してみせるさ。」
「ヨルの技か。なら夜王を継いだクロにも使えて当然だな。」
うんうんと頷く紫鬼。
「影で作った針か。威力はどんなもんなんだ?」
銀狼に聞かれたので答える。
「クリムゾンベアの外皮を超えて肉を削ぐくらいの威力はあるぞ。」
「ほう。この技でクリムゾンベア。仕留めたのか。クリムゾンベアの硬い外皮を突き破って肉も削ぐとなればなかなかの威力だな。」
金獅子が顎髭を撫でながら言う。
「影っちゅうか、どこか金属っぽい見た目だったぞぉ?どうなってるんだぁ?」
「あぁ。黒刃の強度を意識してるからな。無意識に黒刃の光沢が再現されたんだろう。」
「黒刃かぁ。あれは儂が見ても何の鉱石から造られてるのかわからんかったからなぁ。そうかぁ。黒刃かぁ。」
茶牛がしみじみと言う。確かに前に見せた時には黒刃・右月と黒刃・左月は素材が分からないと言っていた。長いこと使っているが刃こぼれ1つしていなかったそうで、アダマンタイトなんかよりも余程硬い未知の鉱石から造られて居るのではないかとの事だった。
「伸ばした影からしか針は出ぇへんの?」
翠鷹に聞かれたので俺は伸ばした影を戻して自分の影から影針を出して見せる。
「影針!」
垂直に影の針が伸びる。
「ほう。中距離から近距離までいけるのか。これは使えそうだな。」
初めて紺馬が感心を見せた。
「うむ。遠距離とまではいかないが離れた敵にも攻撃する術を得たわけだな。」
蒼龍も続けて言う。
「凄いですね!素晴らしいですね!まるでわたしの魔法みたいです!」
藍鷲なんかは感動すら覚えているようだ。
「お見事ですね。ヨル様の術を再現されたとなれば妖術になりますね。」
緑鳥が妖術だと言う。
「ですね。これは立派な妖術です。クロさん気付いてました?貴方、妖気を扱ってたんですよ?」
妖気?そう言えば出会った最初の頃、ヨルが言ってたな。儂が取り憑いてるからお前も妖気を纏っている状態だとかなんとか。
そうか。妖気があるから影収納とか使えてたんだな。全く気にしてなかった。
って事は俺は妖怪の仲間入りしてたのか?!
「俺も妖気を纏ってるって事だよな?」
「えぇ。クロさんからは妖気を感じます。」
白狐が言うなら間違いない。
「なに?クロよ。お前自覚が無かったのか?ヨルが消えてからもお前さんからは妖気を感じとったぞ?」
紫鬼も言う。そう言えばこいつも妖気持ちだったな。鬼人族は妖気を感じ取るのが得意だと言ってたわ。
「俺、王化しないと影針使えないんだけど、俺自身が妖気持ちなら王化しなくてもいけそうだよな?」
「その辺りは夜の王として王化下方が影や暗闇に対する影響力が上がるんじゃないですかね?多分ですけど。でも影収納は王化しなくても使えてるんですし、もしかしたらそのうち王化しなくても使える用になるかもですよ。」
まぢか?!いけんのか?
「それならもっと特訓しなきゃだな。」
「ふふっ。もうコソ練の必要はないですしね。」
「そうだな。今度からは堂々と特訓したらいいさ。」
白狐と銀狼に言われたので言い返す。
「いや、特訓はコッソリやるのがいいんだよ。」
「わっはっは。何の拘りだ、それは?」
金獅子が顎髭を撫でながら笑う。
釣られて俺も笑い出し、そのうち皆で笑い合った。
碧鰐だけ少し笑みが引き攣っていたように見えたのが気にはなったが、やはり大丈夫とは言いつつ体調不良なんだろう。
こうして俺の必殺技お披露目は終わったのだった。




