418話 聖都セレスティア38
翌朝、目を覚ました俺は食堂に向かった。
「おぅ。黒猫、帰ってきていたのか。」
金獅子が声をかけてくる。どうやら朝食の途中らしい。目の前のテーブルには食べかけのサンドイッチが皿に置かれている。
「ドランがいたからな。ワシは気付いておったぞ。」
その対面に座る紫鬼が続けて言う。
「おぉ。そう言えば中庭にドランらしきのがいたような。あいつは丸まって寝るからな。パッと見じゃわからん。」
鬣のような頭髪に繋がる顎髭を触りながら金獅子が言う。最近気付いたが、金獅子は考え事をする時などはよく顎髭を触っている。
「ただいま。他のメンツは?もう起きてるのか?」
「女性陣はすでに朝食も食べ終えて祈りの間で神器を試すと行ってしまったわ。」
「残念じゃったな。白狐にはまだ会えないな。」
茶化すように紫鬼が言う。
「別に白狐に会いたくて聞いた訳じゃねーよ。」
「それより迷いの森での成果はどうだったのだ?何か良い収穫はあったのか?」
「あぁ。大量に熊肉を手に入れたよ。今晩は熊鍋にでもしようと思う。」
「おぉ!熊肉か!いいな!ワシはあの野性味溢れる味が大好きじゃ。」
そんな話をしているところに銀狼がやってきた。
「熊肉がどうした?おっ。黒猫帰ってきたのか。おかえり。」
「あぁ。ただいま。大量に熊肉を捕ってきたんでな。今晩は熊鍋にしようって今話していたところだ。」
銀狼は手慣れた様子でキッチンから作り置きのサンドイッチの乗った皿を持ってきて席に座る。
「サンドイッチは俺の分もあるかな?」
「ん?いつも多めに作り置きしてくれてるから大丈夫だろ。」
「んじゃ貰ってくるか。」
俺もキッチンに置かれたサンドイッチの皿の中から適当な皿を選んで、ついでにコップも持って席に戻った。
テーブルにはピッチャーに入った牛乳が置かれている。そこからコップに牛乳を注ぐ。
「で、熊鍋だって?ジャイアントベアでも大量に出たのか?」
「いや、レッドベアにクリムゾンベアだ。かなり大きい個体でな。6mくらいのクリムゾンベアだった。」
「ほう。そいつはデカいな。ドランが仕留めたのか?」
金獅子がサンドイッチを食べ終えて話に混ざってくる。
「いや、まぁドランも頑張ったけど、最後は俺の必殺技で止めを刺した。」
「ん?なんじゃその必殺技と言うのは?」
紫鬼もサンドイッチを食べ終えて話に入ってくる。
「俺も紫鬼の『鬼拳』みたいな必殺技を編みだしたのさ。」
「ほぅ!それはどんなやつじゃ?」
「ナイフで繰り出す必殺技か。想像出来んな。」
「クリムゾンベアを倒すくらいなんだから相当な威力なんだろ?どんな技なんだ?」
3人とも興味津々って感じだな。
「折角だから皆の前でお披露目するよ。食べ終わったら俺達も祈りの間に行こう。」
「むぅ。焦らすなぁ。まぁワシらだけ知っておっても仕方ないか。よし、クロ、銀狼、早く食え。」
急かされた俺達は急いでサンドイッチを口に詰め込んだ。
牛乳で流し込むように朝食を終えた俺達は祈りの間に向かうことにした。
祈りの間には白狐、紺馬、翠鷹に蒼龍に茶牛。それと王化の特訓中の朱鮫と藍鷲がいた。
「おぉ。蒼龍に茶牛も来ておったのか。」
金獅子賞が2人に声をかける。
「居ないのは緑鳥と碧鰐だな。緑鳥は執務室だろうけど、碧鰐はまだ部屋か?」
周りを見渡して銀狼が言う。
「どれ。ワシがひとっ走り2人を呼んで来よう。」
そう言うと紫鬼が部屋を出ていった。
「どうしたんです?皆を集めて。何かありました?」
白狐が聞いてくる。
「なに。黒猫が必殺技を編み出したらしくてな。それを皆にお披露目すると言うのだ。」
なぜか自分の事のように胸を張って言う金獅子。
「必殺技ですかぁ?楽しみやねぇ。どんなやろ?」
「黒猫の必殺技とか特に興味ないのだが。」
翠鷹と紺馬が言う。
「まぁまぁ、紺馬殿。必殺技っちゅうんは特訓に特訓を重ねて、それこそ血反吐を吐くぐらいに努力して編み出すもんや。どないなもんか見せて貰いましょや。」
「わたしも気になります!黒猫さんの必殺技!」
朱鮫と藍鷲は乗り気だ。
「ははぁーん。さては1人でドラン達と迷いの森に行ってたのは、その必殺技開発の為だったんですねぇ。」
白狐が生暖かい目で見てくる。
「いや、その前から必殺技開発はしてたんだよ。迷いの森に行ったのはその最終調整と狩りの両方が目的だ。」
「いいんですよ。照れなくっても。1人でコッソリ特訓してたんでしょ?」
「1人でコソ練しとったんかいな。ほな尚更見せて貰わんとな。」
「1人でコソ練かぁ。男の子やねぇ。黒猫はん、見直したわ。」
「コソコソしないで堂々と特訓すればいいだろうに。」
「そりゃ、コソ練して皆を驚かせ他一中黒猫殿の心意気やろ。」
白狐の言葉を皮切りに朱鮫、翠鷹、紺馬が好き勝手に言うのが聞こえる。
なんか急に恥ずかしくなってきたな。
そこで紫鬼が緑鳥と碧鰐を連れてやって来た。なんか碧鰐の顔色が悪い気がする。
「碧鰐、大丈夫か?具合でも悪いのか?」
「んぁ?大丈夫だ。オレっちは問題ない。」
「「「「え?」」」」
その言葉を聞いたメンツが一瞬固まる。
「あん?オラォ大丈夫だよ。問題ない。」
気のせいか。ちょっと違和感があったんだけど。
「大丈夫ならいいんだ。ちょっと顔色が悪く見えたからな。」
「大丈夫だ。問題ない。」
「それで黒猫様が必殺技を編み出されたとお聞きしましたが。どんな技なんです?わたしも楽しみです。」
緑鳥が興味津々と言った様子で聞いてくる。
皆集まったか。
「んじゃ、今から俺の編み出した必殺技を見せるぞ。全員こっち側に来てくれるか?」
俺の立つ側に全員が集まる。
いざ、お披露目の時がやってきた。
緊張の一瞬である。




