417話 聖都セレスティア37
聖都に帰ってきたのはかなり夜も深い時間帯になってしまった。
もうみんな寝ている時間だな。
神殿の中庭に着陸したドランの背から降りてヨルジュニアを地面に降ろす。
「グギャ。」
「よーし、いいこだ。」
俺はドランの頭を撫でてやる。体長ご5mほどもあるので自分から頭を下げて俺にすりよってくるのだ。その様子を見るとまだ子供なんだなと思う。
「腹減っただろ?今熊肉焼いてやるからちょっと待ってな。」
「グギャ!」
俺は影収納から魔道コンロとフライパン、それに今日狩ってきた熊肉を取り出すと、ドランの目の前で焼き始める。
ジュージューと肉を焼く音が響き、何とも言えない匂いが漂う。
味付けは簡単に塩コショウのみ。熊肉の野性味を存分に感じられるよう、レア気味に焼き上げるとドランの前に皿を置いてやる。
「グキャ!」
「食え食え。」
「グギャ!」
ドランは俺の顔を覗き込んでから熊肉を食べ始めた。
俺は俺とヨルジュニアの分の熊肉を焼き始める。ヨルジュニア用にはサイコロステーキ状に肉を切ってから焼く。
こちらも味付けは塩コショウのみ。外側はパリッと中はレアで仕上げる。
「にゃー。」
待ちきれないとヨルジュニアが鳴く。
「もう出来るからちょっと待っとけな。」
俺は焼き上げた熊肉を皿に乗せてヨルジュニアの前に置いてやる。
「にゃー!」
ヨルジュニアもガツガツと食べ始める。俺もいただくとしよう。
切った熊肉は大体300gくらいになるだろうか。一口サイズにナイフで切って口に運ぶ。
肉質は柔らかく歯で噛むだけで筋繊維が解けていく。レア気味に焼いた為、とてもジューシーだ。噛めば噛むほど旨味が溢れてくる。
口に入れた肉がなくなると、すぐに次の肉を口に運びたくなる。
まさに肉を喰らっているといった感じだ。
俺が半分くらい食べ進めると、ドランがまた頭をスリスリしてきた。
「グゥ。」
「なんだ?足りなかったか?おかわりいるか?」
「グギャ!」
って事でまた肉を焼いてやる。500gくらいはあるであろう肉塊だ。さっきのと合わせると1kgほど、まぁドランなら食べきる量だな。
表面に火が通った事を確認すると、ナイフで半分に切る。中は淡い赤色が広がり中心部は真っ赤だ。これくらいがちょうどいい。
また皿に肉を入れてやると夢中で食い始めるドラン。
「にゃー!」
「お?ヨルジュニアもおかわりか?」
「にゃー!」
その後ヨルジュニア用にも追加の肉を焼いてやった。
もちろん俺の肉が冷めないように食いながら焼いた。俺は300gほどで腹いっぱいだ。よく食う2匹である。
食べ終えた俺は調理器具と皿を片付けてドランを中庭に残してヨルジュニアと部屋に戻った。
嫌がるヨルジュニアも一緒にシャワーを浴びて砂埃や泥を洗い流す。
ヨルジュニアは水が苦手なようで、いつもシャワーを嫌がる。だが、泥だらけの身体でその辺を歩き回られては困るので、いつも無理矢理シャワーをかけて石鹸で洗ってやるのだ。
その点、ドランは日中に水浴びして前日の汚れを落としているので、シャワー嫌いって事はないようだ。
ヨルジュニアをタオルで乾かしてから、俺も自身の髪を乾かす。
野営には慣れているがやっぱりベッドで寝れるのは幸せだな。今日も聖女か聖者の誰かがベッドメイキングしてくれたようで、パリッとした布団に包まれる。
皆がそれぞれの守護エリアに散るのはもうちょっと先だ。明日は影針のお披露目だな。
みんなどんな反応するかな。今から楽しみだ。
夕食食べてからあまり時間は経っていないが早く寝ることにする。窓から差し込む月明かりが瞼の裏を照らす。今日はゆっくり寝ることにしよう。
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誰もが寝静まる深夜3時半。
男は頭の中に響く声に起こされる。
ここの所、毎日続く苦行だ。頭が割れるように痛む。そして響く耳障りな声。
「五月蠅い!」
「黙れ!」
「なんなのだお前は?!」
男は喚くが頭の中の声は応えてはくれない。ただただ耳障りな声を響かせる。単純に自分の言いたい事を連呼している。こちらと会話する気はないらしい。
「あー!五月蠅い!」
「出て行け!この身体から出て行け!」
男の顔には脂汗が滲む。
頭が痛い。喉も渇いた。男は1人自室を抜け出してキッチンへと向かう。
頭が割れそうに痛む。頭の中の声は尚も大きく頭蓋の中でこだまする。
キッチンへと辿り着いた男はコップを手に取るのも億劫になり、蛇口から直接水を飲む。
この蛇口も魔道具で、ハンドルを捻れば自動で水が出てくる。村のように井戸から随時水をくまなくては済むのはありがたかった。
頭の中に響く声を避けるように他のことを考える。村にもこの蛇口があればいいな。どこで買えるだろうか。魔術大国マジックヘブンにでも行けば売っているかもしれないな。そこまで高価なものではないと言うし、今度マジックヘブンに連れて行って貰って買ってくるか。
そんな思考の中にも声は響く。
「あぁー五月蠅い!」
皆を起こさないように声のトーンを抑えながらも男は叫ぶ。
もう今夜は寝れそうにない。
最後にもう一度蛇口から水を飲むと男は自室へと戻っていったのだった。




