413話 迷いの森9
地上にいる俺には手出しできない戦いが上空で行われていく。
高度を上げてワイバーンの目の前で振り返りドラゴンテイルをぶちかますドラン。しかし、ワイバーンはその巨体に似合わぬ機敏さでこれを避ける。
振り向きざまのドランにワイバーンの足の爪が迫る。これを最小の動きで避けたドラン。お返しとばかりにドラゴンクローを振り抜く。
ドランの爪は見事にワイバーンの左翼を切り裂きバランスを崩させる。だがまだ墜落するほどのダメージではない。
バランスを崩した拍子に横向きになったワイバーンは、なんとそのままドランの右腕に噛みついた。これを外そうと藻掻くドランだったが、先程受けた左肩へのダメージがあるのか左腕でのドラゴンクローはワイバーンの顔面を擦るも引き剥がす事が出来ずにいる。
と、ここでドランが大きく口を開き、その口内に火球を発生させる。ドラゴンブレスをぶちかます気だ。
「ゴワッ!」
ドランの口から放たれたドラゴンブレスはワイバーンの片翼に穴を空けると、そのまま地上に降り注ぎ木々を焼く。
片翼に穴が空いたワイバーンはその衝撃に口を開き、ドランの右腕を離すと、片翼を失った事で飛行が困難になり墜落してくる。
「にゃー!」
そこにジッと空を眺めていたヨルジュニアが仕掛けた。
黒雲が集まりワイバーンの頭上に広がると黒雷をワイバーン目掛けて落とす。
バリバリバリバリッ。
ワイバーンの巨体が激しく明滅して煙を上げながら墜落してくる。
それを急降下して追うドラン。地面に激突するワイバーン。その首に向けてドランが渾身のストンピングを行う。急降下のエネルギーをそのまま足に込めたストンピングは見事にワイバーンの首の骨を折った。
「グギャオォォォォオ!」
勝利の雄叫びを上げるドラン。
「にゃおぉぉぉぉお!」
つられてヨルジュニアも長く鳴くとそのまま毛づくろいを始めた。
こうして巨大ワイバーンは2匹の活躍で討伐されたのだった。
俺はドランに近付き傷の様子を伺う。
噛みつかれた右腕は竜鱗が砕けて血がにじんでいる。俺は影収納から薬草と包帯を取り出す。
手頃な石を見つけて薬草をすり潰すと、ドランの傷跡に塗りたくり包帯を巻いていく。
普段は緑鳥の聖術で癒して貰っているがもしもの場合に備えて各種薬草も常備していたのが役に立った。
左肩にも薬草を塗るが、その巨体に合った包帯は流石に手持ちがなく、こちらは包帯を巻けそうにないので、そのまま放置だ。
腹部の傷にもすり潰した薬草を塗ってやる。こちらも包帯は諦めた。
毛づくろいを終えたヨルジュニアがドランに近付くとその足元を舐めた。癒しているつもりなのかもしれない。
「グキャ。」
「にゃー。」
「グギャ!」
「にゃー!」
なにか2匹で喋っているようだ。言葉は通じないだろうが、なにかしら通じるものがあるのかもしれない。
ドランが優しくヨルジュニアの頭を撫でる。
「グギャ。」
「にゃー。」
微笑ましい光景である。
さて、魔物が逃げてきた原因と思われる巨大ワイバーンは討伐したので、じきにここら辺にも魔物が帰ってくるだろうがそれには時間がかかるだろう。
辺りも暗くなり始めたことだし、折角拓けた場所にいるので、今日はここで野営する事にした。
蒼龍が言っていたが、龍の谷ではワイバーンを主食にしていたようだ。どうせなら夕飯も討伐した巨大ワイバーンの肉を使おう。
俺は解体用ナイフを影収納から取り出すと、首を奇妙な方向に曲げた巨大ワイバーンに向かっていく。
まずは翼を切り離す。巨体を浮遊させるほどの浮力を生み出す翼だけあって、その根元は強靱な筋肉に覆われていた。が、先の方は思いのほか肉は薄く、皮膜のようになっていた。食えるのは肩に近い根元の方だけだな。
続いて首を切り落とし、その胸部を開く。鱗に覆われた内部は程良く脂が乗った食べ応えのありそうな肉だった。
そのまま腹部も切り開く。さすがワイバーンだけあって余分な脂肪は付いておらず、筋肉質な肉質である。
俺は臓物を取り除くと、胸部と腹部の肉を食べやすいサイズに切っていく。黒雷で身体の表面は焼けているが内部はまだ生だ。焼いて食った方が良さそうだ。
最後は足元だ。こちらは強靱な爪擊を繰り出していただけあってかなりの筋肉量である。解体用ナイフでは肉を削ぐことが出来ずに腰につけたアダマンタイト製のナイフで鱗を剥いでいった。
見た目は足そのものだが焼いてみよう。
俺は影収納から魔道コンロと2m×1mほどの巨大な鉄板を取り出すと、鉄板を魔道コンロにかけて火をつける。
鉄板が熱されるまで肉に塩コショウを振りかけ、おろしたショウガを擦り込み肉の臭さを取る。
十分に鉄板が熱されたところで油を敷いて肉を広げた。
肉の焼ける良い匂いがしてきた。
ドランとヨルジュニアも鉄板に釘付けである。
ミディアムレアくらいに火が通ったところで、鉄板から下ろして皿に盛り付ける。
ワイバーンの鉄板焼きの完成である。
2匹の目の前に皿を置いてやると、物凄い勢いで食べ始めた。
「美味いか?」
「グギャ!」
「にゃー!」
どうやら気に入ったらしい。俺も自分用の皿を前に手を合わせる。
「いただきます。」
筋肉質な肉は歯応えが半端なくて、それでいて僅かながらの脂身が溶け出す。まさに肉を喰らっていると言った感じだ。
中でも1番美味かったのは足の肉だった。筋繊維に沿って肉が解けていき、脂の甘味も感じる。
ワイバーン肉、悪くないな。
食事を終えた俺達は鉄板やら皿やらを片付けて野営用のテントを張った。
上空を飛ぶワイバーンには影針を試す機会が無かったので、明日は地上を歩く魔物相手に影針の特訓をしよう。
先日と違い木々が倒れた空間では空が大きく見える。今日は満月だ。
ほのかな月明かりを浴びながら眠りにつく俺達であった。




