407話 迷いの森4
王化の限界時間になったと言うことは朝食を食べてから今まで3時間ぶっ通しで特訓していた事になる。
と言うことはもう昼時である。
ドランとヨルジュニアの様子を見ると2匹ともに微睡みの中にいる。魔物が出没する森の中で無防備な事だと思ったが、そう言う俺も影の操作に集中していたので言えた義理じゃないか。
「よし、昼飯にするか?」
「ンギャ?」
「にゃー?」
2匹は俺の声に反応して目を覚ます。俺は早速昼食の準備を始める。
ドランにはオーク肉の塊を、ヨルジュニアにはミンチ肉を、と言うのは朝と変わらないが、さすがに2食連続で塩コショウでの味付けでは飽きてしまうだろう。
って事で照り焼きにする事にした。
材料はショウユ、料理酒、ミリンに砂糖。
フライパンに適量を入れてグツグツ煮込む。沸騰したら時々かき回してトロミが出たら完成だ。
両面しっかり焼いた肉の塊に照り焼きソースをかけてさらに熱する。焦げないように火の調整は注意を払う。
俺の食事もヨルジュニアと一緒のハンバーグもどきだ。こちらもしっかり焼いて照り焼きソースを絡めてさらに加熱する。
30分もしないうちに昼食の準備が出来た。俺は影収納から炊きたてご飯も1膳分取り出して皿盛り付け、その隣にハンバーグもどきを添えた。
「んじゃ頂きますか。」
「にゃー。」
「グキャ。」
俺の一声を待っていたのか2匹共にガツガツと食べ始める。うん。その様子から照り焼きソースは成功だったなと我ながら感心する。
俺もハンバーグもどきを口にする。つなぎを入れていない為に口に入れた途端にホロホロと崩れていくがそれもまた味わいだろう。粗めにミンチにしている為、きっちり肉の食感がある。
照り焼きソースも合っていた。甘めのタレにご飯もすすむ。
あっという間に食べ終えた俺達は食器を片付けてテントの片付けを始める。
そこで思い立って横穴に点在する針岩を1つ持って帰る事にした。これがあると影の針を出すイメージがつけやすい。
最初は掘り起こそうとしてアダマンタイト製のナイフで岩の周りの土を掘っていったのだが、思ったよりも深く埋まっているようで掘れども掘れども底が見えない。だから掘り起こすのは諦めて見えている範囲の岩を切り取る事にした。
岩の強度はそれなりだが、アダマンタイト製のナイフに比べれば柔い。俺はナイフで岩を削りながらなんとか針岩を入手した。
直径30cm、高さ1m強の針岩だ。それを影収納に仕舞いこむ。
その間ドランとヨルジュニアは2匹で戯れていたが、俺が針岩を仕舞いこむと出発が近い事を察してか、戯れるのを止めた。
そんな2匹に俺は言う。
「そろそろ行くか。もうちょっとオーク肉を入手出来るといいな。」
「グキャ!」
「にゃー!」
2匹共にヤル気は十分である。
俺達は横穴を抜け出して森に出る。
森の中は日の光が僅かに差し込む程度で昼間でも結構暗い。それでも自分の影を認識出来る程度には日が差している。
昼過ぎまで経っても戻ってくるオークがいなかった事を考えると、もうこの横穴を巣にしていたオークは狩り尽くしたと見ていいだろう。
次の獲物を求めてさらに奥へと足を進める。
生い茂る木々はどれも背が高く、1番下の枝ですら10m以上高い位置にある。
太さも結構なもので、周囲は1m以上である。となると樹齢100年越えだろうか。親父に気の太さから樹齢を求める方法を教わった事があったが、詳しくは忘れてしまった。
木の種類毎に成長係数が決まっていて直径かける成長係数だかで算出するんじゃなかったっけか。まぁいいか。樹齢を気にするタイミングなんてそうそうないからな。
そんな事を考えつつ森を進むと早速オークに出会った。数は4体。
どれも兜を被り、手には棍棒ではなく手斧を携えている。
オークソルジャーと言われる群れの中の特攻組だ。と鳴るとまた違うオークの群れが近くに居ると言う事だろう。
俺は木陰に隠れながらドランとヨルジュニアを見やり問いかける。
「敵は4体だ。いけるか?」
「グキャ!」
「にゃー!」
横穴で休んだ事ですっかり体力も戻ったのか、2匹は元気2応えてくれた。
「よし、じゃ行くぞ。俺はフォロー2回るから好きにやってやれ。」
「グキャ!」
「にゃー!」
良い返事だ。俺はオークソルジャー達が後ろを向くタイミングを見計らって声をかける。
「よしっ!いけっ!」
「グキャ!」
「にゃー!」
2匹は木陰から飛び出してオークソルジャーに迫る。
「にゃー!」
まずはヨルジュニアの黒炎がオークソルジャーを襲う。突然背後から熱線を感じたオークソルジャー達は一斉に振り返る。だがその頃にはドランも接敵しており、1番手前のオークソルジャーに向けてドラゴンクローを振り抜く。
「ブヒーッ!」
大きく胸を切り裂かれたオークソルジャーがその場に崩れる。
それを見て敵襲を悟った残りのオークソルジャー達が手斧を振り上げる。
そこにヨルジュニアは黒雷を呼び、3体に電撃をお見舞いする。
「ブ、ブヒー!」
「ブヒヒヒヒヒ!」
「ブ、ブ、ブ、ブ、ブヒー」
3体のオークソルジャーは全身から煙を達上させてその場に縛り付けられたように動きが止まる。感電したのだろう。
そんな動きを止めたオークソルジャー達にドランが迫り次々とドラゴンクローで屠って行く。
戦闘時間は5分程度だっただろうか。ジョブ持ちですら相手にならない。2匹の連携は完璧だった。
その後俺達はオークソルジャーの肉を解体作業し、影収納に仕舞ってから新たなオークの巣を求めて再び森の深部へと歩き始めるのだった。




