400話 オークション9
ララ・ダウト滞在4日目。オークション最終日だ。
今日は朝食の時間に目が覚めたので皆と一緒に朝食を食べた。
メニューは苺ジャムの塗られた食パンに目玉焼きとソーセージ。それにコンソメスープだった。
普通パンと言えば丸パンか黒パンだから食パンはかなり珍しい高級品である。外はパリッと焼かれているが中はしっとり柔らかい。
「この食パンはもしかして自家製?」
「えぇ。メイド達が作ってくれとります。気に入りました?」
「あぁ。職人じゃなくてもここまで美味い食パンが焼けるんだな。是非レシピを教えて欲しい。」
「ほんなら明日聖都に戻るまでにレシピを纏めさせましょ。」
「あ、なら他にもレシピを聞いておきたいメニューがあったんだ。」
俺は翠鷹の屋敷で出されて作り方が気になっていた料理を次々と上げていく。
「了解ですわ。ほんなら明日纏めてレシピを渡せるように纏めさせますわ。」
そんな会話をしつつ、朝食を食べ終えた。
午前中は朱鮫は王化の特訓だと言って庭で王化して魔術の訓練をしていた。たまには詠唱しないといざって時に噛んだりするからって事で魔石魔術じゃなく詠唱魔術を空に向けて繰り出していた。
白狐と翠鷹は相変わらず戦闘訓練だ。
技巧派の白狐と速度特化の翠鷹はなかなかに接戦を繰り広げていた。
もちろん怪我はしないように2人とも王化して王鎧を纏っている。
だがそれにしてもお互いに致命傷になりかねない際どい攻防を続けており、見ているこっちがヒヤヒヤする。
そう言う俺は1人影を操る特訓をコッソリしている。
1人で王化して座り込んだ俺を見て最初は3人も興味深そうに眺めてきたが、俺が身動き1つしないのでさっさと観察を止めて各々の特訓に入った訳だ。
確かに俺自身は微動だにしていないのだが、俺の影は3m程余計に伸びている。
今は腕や足、頭や胴体を伸ばすのでは無く、新たに腹部から影を飛び出させたり、同時に2箇所伸ばしたりと影をもっと自在に操れるように努力中だ。三次元的な動きをさせる前にもっと自由に影を操る必要があると感じたからだ。
腕や足などすでに胴体からはみ出している部位の影を伸ばすことは出来たが腹から腕をもう1本分生やすような影を伸ばすのはなかなかに難しかった。
朝から王化を続けているが、やっと腹部から10cm程の突起を伸ばすのが精一杯。だが同時に両腕の影を伸ばしたり腕と首を同時に伸ばしたりと複数部位の影を伸ばすことには成功した。
まぁ1歩ずつだな。
今日もメイドさん作の美味い昼飯を食べてからオークション会場に向かった。
パンフレットを見ると気になる品がいくつかある。今日もなにか良い品が競り落とせるといいけどな。
最終日と言うこともあってか観客達もより熱気がある気がする。
オークション参加者達も昨日までよりザワついている。と言うのも最終日には秘匿商品なる事前に知らされていない商品の出品があるのである。パンフレットにも載っておらず出てくるまではどんな品かもわからない。価格の目星も付けられないので秘匿商品狙いの参加者は昨日までの散財を控えていたのではとの話は朱鮫の言である。
さて、何が出てくるのかと思っているうちにオークションは始まったのである。
開始早々から先日入手した力が上がるグローブと同様の品が出品された。進行役の説明によると付ける前と比べると握力に30%増らしい。結構だな。紺馬に渡したグローブはどのくらい握力向上するのか気になってきた。後で測ってみるのもいいかもしれない。
そんな事を考えているうちにグローブは落札された。落札価格は8200万リラ。なかなかの金額である。
その後は素早さの上がる靴やら炎を吹き出すバトルハンマーやら土塊を吐き出す不思議な球体やらと様々な武具が出品され、落札される。
次はいよいよ気になっていた商品が登場だ。
俺が気になっていた商品、それは水と米を入れて60分待つだけで火にかけずとも米が炊ける魔法の炊飯器だった。その最大容量は一升炊きで、最大量でも炊飯時間は60分で済むらしい。
普通に飯盒で米を炊くとしたら30分くらい水に漬けてから30分くらい火にかけ、さらに火から離して飯盒を引っくり返して20分くらい蒸らす時間がかかる。
その手間なく炊飯器に米と水だけ入れれば勝手に60分後には米が炊けると言うのだから優れ物だろう。
スタート価格は1000万リラ。まぁ妥当だな。いよいよ決戦の時がきた。
「1000万!」
「1100万!」
「1200万!」
「1250万!」
とどんどん価格は上がっていき、遂に2000万を超えた。
ここで一気に突き放すぜ!
「3000万!」
俺は大声で金額を言って107番の札を上げた。
一気に1000万位で価格が上がった事に会場からオーっと歓声が上がる。
「はい!107番様が3000万リラの大台だ!さぁ他ないか?」
進行役が声を上げる。
「3010万!」
「はい!102番様が3010万!さぁ他ないか?」
「3100万!」
俺は強気で値段を吊り上げる。
「おぉ!107番様が3100万!さて、他ないか?」
「3150万!」
「はい!89番様が3150万!さぁさぁ他ないか?」
まだ価格は上がりそうだな。暫し静観する。
「3200万!」
「3300万!」
「3350万!」
価格はまだ上がっていく。よし、勝負を決めよう。
「4000万!」
俺は札を上げて叫ぶ。
「おぉーっとここで107番様が4000万!他ないか?」
「4010万!」
「おぉー!89番様が4010万!まだまだ上がるか?さぁ他ないか?」
んー刻んでくるな。
「4100万!」
「はい!107番様が4100万!さぁ他ないか?」
「4110万!」
「はい!89番様が4110万!刻んできました。さて、どうする?他ないか?」
落札目的なのか金額の吊り上げが目的なのかわかんないな。
「4300万!」
札を上げる。
「はーい!ここで107番様が4300万!さぁさぁ他ないか?」
一気に100万以上上げたからな。もう付いてくる奴はいないらしい。
「さぁお時間いっぱい!他ないか?ないですね?では4300万リラで107番様ご落札!」
「よし!落札だ!」
思わずガッツポーズしてしまった。
こうして俺は無事に炊飯器を落札したのであった。




