398話 オークション7
「闇ギルドだと?知らん。わしは何も知らんぞ。」
この場におよんでしらを切ろうとするハチヤスジに朱鮫が問う。
「あんさん、商人になってどんなもんや?」
「む?わしは商人一筋40年だが?」
「ふーん。40年も商人やっとったら闇ギルドの情報くらい仕入れとるやろ。それとも何か?あんさんとこは相手が闇ギルドだろうとなんだろうと構わず、下調べもせんと取引する店なんかいな?」
「あ、いや、それは、その。」
「白状しいや。調べりゃわかる事やで。ここにおるんはララ法国の軍師様や。正直に話とった方が後々有利に事が運ぶで?」
「む、むう。」
禿げ上がった頭をバリバリと掻き始めるハチヤスジ。
「分かった。だが本当に盗品とは知らなかったのだ。『虎竜会』の溜まり場にも案内する。だからわしの事だけは見逃してくれんか?」
「完全に無罪放免って訳にはいかんわなぁ。相手が闇ギルドなら真っ当な品でない事くらい分かっとったやろ?それに知っとったやろ?オークションへの盗品の持ち込みは固く禁じられとる事は。」
翠鷹が詰め寄る。
「まぁその『虎竜会』の溜まり場に案内するっちゅうんやったら超法規的処置で刑も軽くしてやらん事もない。」
「本当か?なら案内する。今すぐにでも案内しよう。」
「そうやね。今日中に片付けたい。今から案内して貰いましょか。」
と言う事で実際にベルベロッド邸に盗みに入ったと目される虎竜会の溜まり場に案内して貰う事になった。
案内された先はララ・ダウトの街でもすたびれた廃墟群がひしめく街外れだった。その廃墟の1つが『虎竜会』の溜まり場らしい。
「案内はした。わしはここまでで良かろう?」
「いや何言うてんねん。あんさんやなしに取引した相手はわからんやろが。すぐ制圧するよって少し待っとき。逃げたらあかんで。」
朱鮫はハチヤスジに念を押すと廃墟へと入っていく。俺達もその後を追う。
「なんだ?てめぇらは?ここが虎竜会のシマだと知ってて来やがったのか?」
如何にもチンピラ風の男が廃墟に入った俺達を出迎えた。
「えぇからかかってこんかい。こっちは腹減っとるんや。」
いつもに増して朱鮫が好戦的だ。
「何だとこのヤロー!ぶちのめしてやる!」
「やっちまえー!」
「生かして帰すな!」
総勢16人の男達が一斉に飛びかかってきた。
「わかっとると思うけど殺したらあかんよ。証人として喋れるようにはしたってな。」
翠鷹が警告する。
「分かってる。」
「おうさ。」
「分かりました。」
俺は腰に付けた鞘から二振りのナイフを取り出し右手は順手、左手は逆手に構える。この程度のやつらなら殺すのは簡単だが殺さずに制圧するとなるとやっぱり足元狙いになるか。
俺は飛びこんできた男が振り下ろすカットラスを左に身を躱して避けると男の右大腿部を狙って左手のナイフを振るう。
「うぎゃ!」
結構深く斬った手応えがした。男は立ち上がれずに床に転がる。はい、次。
「ウィンドボール!」
朱鮫が杖を掲げると風の弾が発生し、男達を吹き飛ばす。
殺傷性の低い風の魔術で敵の意識を刈り取っていく。
「せい!やっ!」
翠鷹も足元を狙って細剣で突きを放つ。うわっ。大腿部貫通してやがる。ありゃ痛ぇぞ。
一方白狐と言えば襲いかかってくる男の振り下ろした長剣を避けつつ刀を一閃。その腕を斬り飛ばす。
「うぎゃー!おれの腕がぁ!」
「うるさいですよ。」
そのまま片足の膝下をも斬り飛ばす
。
「うぎゃー!足が!足がっ!!」
完全に命だけ取らなければ良いと言った感じで次々と襲い来る男達の腕やら足やらを斬り飛ばしていく。
「騒がしいぞ!お前ら!」
廃墟の奥から双剣を持った男が出てきた。
「お、お頭!カチコミでさぁ!かなり手強い奴らです!!」
「騒ぐな。オレが黙らせる。」
双剣をダラリと下げて近付いてくる男。
そこに
「ウィンドショット!」
朱鮫が放った風の魔術がクリーンヒット。
頭目と思しき男は頭に痛打を受けて意識を手放してその場に崩れ落ちた。弱ぇ。
ならず者どもを制圧した俺達は、影収納から出したロープで男達を縛り上げていく。
「腕がぁ。」
「足がぁ。」
まだ呻いている奴もいるが構わず縛り上げる。
縛ったところで頭目らしき男が目を覚ました。
「くっ。なんだこれは。お前ら何モンだ?!」
「あんさんは聞かれた事だけ答えてれば宜しい。ヌイカルド連邦国のベルベロッド男爵の家から『呼鳥のベル』を盗んだのはお前達やな?」
朱鮫が頭目を睨みつけながら問う。
「なんの事だ。そんな物は知らんな。」
するとそこに外で待っていたハチヤスジを伴って翠鷹が戻ってきた。
「あのベルを取引したんはこいつらで間違いないか?」
「えぇ。間違いありません。こいつです。」
ハチヤスジは頭目を指差して言う。
「さて、取引相手はこう言うとるけど、アンタはどこであのベルを入手したん?」
「知らんな。」
頑なに答えようとしない頭目。
そこで白狐が言った。
「皆さんちょっと外に出てて貰えます?私がこの方に詳しくお話を聞いてみますので。」
ニヤリと笑うその姿はまるで死神のようであった。が、特に断る理由もないので俺達はハチヤスジを連れて廃墟の外に出た。
頭目の悲鳴が聞こえたのはその後すぐの事だった。




