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黒猫と12人の王  作者: 病床の翁


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396話 オークション5

「なんやこれ!?あの盗まれた言うオークション出品やんけ?」

 娘に手渡そうとしていた朱鮫が手元のベルをまじまじと見る。

「盗人はあんさんなんかい?」

 その言葉を聞いて俺達は娘の四方を囲む。

「違います!盗んだんじゃありません!わたくしは取り返したのです。盗まれた家宝のベルを!!」

「取り返した?」

「ちゅっう事はなにか?このベルは盗品言う事か?」

「なに?オークションへの盗品の持ち込みは重罪やで。」

 俺が問うと朱鮫に翠鷹が続ける。

「皆さん、ここでゆっくり話している暇はなさそうですよ。ひとまず翠鷹さんの屋敷に戻りましょう。そこの娘さんも一緒に。詳しい話を聞かせて頂きましょう。」

 確かに白狐の言うとおり遠くで

「盗人はどこだ?」

「こっちに向かったはずだぞ。」

「相手は1人だ。さっさと見つけ出せ!」

 と声が聞こえる。

 俺達はとにかくその盗人容疑のかけられた娘を伴って翠鷹の屋敷へと向かった。


 翠鷹の屋敷にて。

 出された紅茶を飲み一息ついた娘が話し始める。

「危ないところを助けて頂き、ありがとうございます。わたくしはヌイカルド連邦国のベルベロッド男爵の一人娘、カタリーナ・ベルベロッドと申します。」

 よく見れば髪は縦巻ロール、外套の下の着衣も上等なドレス姿であった。まだ幼さの残る可愛らしい見た目をしている。

「ベルベロッド男爵?!あの没落貴族と言われる?あっ!」

 思わずと言った風に翠鷹が口を押さえる。

「えぇ。世間からは没落貴族などと呼ばれているのは存じております。ですがまだ歴とした貴族でございます。」

「で、なんでそんないいとこのお嬢様がオークション品の盗みなんかを?」

「ですから盗みなんかじゃありません!わたくしは盗まれた家宝を取り返しただけにございます!」

「詳しく聞きまひょか。」

 俺が問うと激しく否定する。ここは朱鮫の言う通り詳しい話を聞こう。


「我が家は確かに没落貴族などと呼ばれてはおりますが、それでも年に1度、我が家の家宝の『呼鳥(こちょう)のベル』にて野鳥を集め、王族の方々を楽しませると言う出し物を開催しております。その野鳥の群れの一糸乱れぬ飛行をお見せして王侯貴族の方々を楽しませていたのです。」

「ふむ。それで?」

「はい。今年もそのイベントの開催を2週間後に控えた先週の事でございます。何者かが屋敷に進入し、『呼鳥のベル』を盗んで行ったのです。」

「ふむふむ。」

「そこでわたくしはここララ法国にて魔道具のオークションが開かれる事を知り、盗まれた呼鳥のベルが出品されないかを見張っていたのでございます。」

「そんな危険な事を男爵のひとりむすが?他の者に頼めば良かったじゃないか?」

 俺が疑問を口にすると

「いえ。我が家は没落貴族と言われる程にお金があまりありません。それにオークションの品を取ってくる等という危険な話を他の者にもするわけにもいかず。わたくし自らが参上したのでございます。」


「なるほどなぁ。話は分かりました。オークションの開催国としてもオークション品に他国の貴族の盗まれた家宝が含まれていたと言うのは見過ごせませんわな。でもそのベルがベルベロッド家の物である証拠は何かありますか?」

「もちろんです。こちらをご覧下さい。」

 そう言ってカタリーナはハンカチを取り出した。

「こちらに刺繍されているのは我が家の紋章になります。そして『呼鳥のベル』の内側にも同じ紋章が焼き印されております。」

 確かにハンカチの角にベルを両手で包み込むような印が刺繍されている。

「どれどれ。内側やな?」

 朱鮫がベルの内側を覗き込む。

「あ!あるわ!この紋章で間違いないわ。ほれ、これ!」

 朱鮫が見せてきたベルの内側には確かに同じ紋章が焼き印されていた。

「ほな間違いないな。盗品っちゅうこっちゃ。こりゃ大変な事ですわ。」

「せやな。盗品が出品されるなんて事が許されて多発でもしたらオークション自体が成り行かなくなるで。」

「じゃあ、どうします?その『呼鳥のベル』を出品した者を捜しますか?」

 翠鷹に朱鮫はカタリーナお嬢さんの話を信じたようだ。俺も異論は無い。白狐も次の行動について皆に問いかける。

「そうだな。オークション会場に行けば出品者はわかるんだろ?」

「そうですなぁ。こう言った盗品の出品などがないように出品者の情報はオークション側がきちんと持っとるはずや。」

「ほな、オークション会場に戻ろか。カタリーナちゃんはここに残っとき。まだ街を探し回っとる奴らがおるやろし。」

「そんな。わたくしも参ります。」

「いや、男爵の家に忍び込むような奴が相手となると武力鎮圧も必要かもしれないからな。お嬢さんはここに残った方がいい。」

「任せて下さい。家宝を盗むような輩は私達が成敗してきますよ。」

 俺と白狐の言葉を受けてカタリーナお嬢さんが断念した。

「わかりました。わたくしはここで皆様のお帰りを待たせて頂きます。」

「そうやな。それがいいわ。」

「ほな、オークション会場に戻りまひょか。」

 朱鮫が率先して動き出す。俺達は朱鮫を先頭にオークション会場に戻って行った。


 オークション会場では今もベルを盗んだ盗人を捜しててんやわんやしていた。

 商品引き渡し口ではベルを落札した者と思われる貴族風な男と、窓口担当者が軽く揉めていた。

「まだ私のベルは見つからんのかね?!」

「申し訳ございません。ただいま誠意捜索中ですので、もう少々お待ち下さい。」

「もう何時間待っていると思っているのだ!」

「申し訳ございません。」

 そこに翠鷹が割り込む。

「お話中すんませんな。ウチは法国軍の軍師やっとる翠鷹と言います。盗まれた品について2、3お聞きしたい事がありましてな。支配人はおる?」

「はい?軍部の方ですか?支配人ならまだ中におります。」

 窓口担当者は奥を見やる。

「それやったら直接尋ねさせて頂きますわ。失礼しますえ。」

「あ、はい。」

 翠鷹を先頭に会場の奥へと足を運ぶ。

 翠鷹の視線の先にはシルクハットを被った恰幅の良い紳士風の男が立っていた。

 あれが支配人で間違いないだろう。俺達は支配人目指して廊下を進む。


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