395話 オークション4
続いて出品されてきたのは鉛玉を射出する短筒だ。
20cmほどの筒に持ち手と引き金が付いており、筒に入れた鈍り玉を高速で射出するらしい。
デモンストレーションとして鉄の鎧に向けて射出された鉛玉は見事に鉄の鎧を貫通した。
筒に入れた物を射出する辺り、緑鳥に渡した魔導砲に似ているが、あちらが風の魔術で中の弾を射出するのに対して、こちらは筒の内部で爆発を起こして弾を射出するらしい。だから弾は石などでは爆発に耐えられず粉微塵になる為に鉛玉が必要になるようだ。
持ち運ぶにはこちらの短筒の方が便利だろうけど、弾が鉛と言う事で特注品になる。今回は30発分の鉛玉も付いてくるようだが、その後は何処かに発注する必要がある。
一長一短って感じだな。
スタート価格は8千万リラ。んー1億リラくらいで落とせるなら考えてもいいけど。
なんて思っているうちに値段はどんどん上がっていき、気が付けば3億を超えていた。んーパスかな。
結局短筒は4億7060万リラで落札されていた。
次の品は片手で持てる程の大きさのベルだ。なんでも鳴らせば野鳥を呼び寄せる事が出来るらしい。
前日には犬を呼ぶ笛なんかもあったから一定数こう言った品が出回っているのだろう。
でも野鳥を呼んでどうするんだろうな?使い道がよく分からない。だが、よく目を凝らせばその作りがかなり繊細で芸術品としてもかなり価値がありそうな事が分かる。
スタート価格は30万リラ。10万リラずつ上がっていき、最終落札価格は湯沸かし器より高い340万リラだった。
「湯沸かし器の方が実用性あるのにな。」
「そりゃあのベルは芸術品としての価値が高かった言う事やろ。湯沸かし器なんて見た目はただの鉄鍋やったしな。」
俺がつぶやくと朱鮫に言われた。
まぁ、確かにあの湯沸かし器には芸術品としての価値はなさそうだったけどさ。
そんなこんなでオークションは進み、20時半頃には2日目の品が全て完売した。
俺達は湯沸かし器を受け取る為に商品引き渡し窓口へと向かった。
暫く並んだ後、俺は金貨3枚を支払い、鉄鍋を受け取った。3リットル入る鉄鍋だけあって大きさも重量もそれなりにある。
すぐさま俺は影収納へと鉄鍋を仕舞いこんだ。
と、ここで何やらオークションの運営側が慌ただしく走り回り大声を上げ始めた。
「何かあったのか?」
思わず窓口の担当者に聞くと
「どうやらオークションの品が盗まれたようです。今日出品されていた野鳥を呼ぶベルのようですね。落札された方もいるのに困ったものです。」
「なぁ、オークションってララ法国の兵士も出張ってるんじゃないのか?そんな中で盗みとかあり得ないだろ。」
「いや、兵士達はオークション参加の人達の誘導やら交通整理、祭り騒ぎでの暴徒鎮圧などが業務で、オークション品の警備はあくまでオークション側の責任なんですわ。」
俺が思い立った事を翠鷹が否定する。
「まぁオークション品の盗難は重罪ですし、すぐに見つかると思いますけどね。さぁ次の方もおりますので。」
窓口担当者に言われて俺達は引き換え窓口を後にした。
「ララ法国でも盗みとかあるんやな。もっと治安が良いイメージしとったわ。」
「まぁ盗人はどこの都市にもいるやろ。兵士達が巡回しとるよってそこまで数はないし、すぐに捕まるけどなぁ。」
朱鮫が言うと翠鷹が答える。それを聞いた白狐がなぜか俺を肘で押してくる。確かにここにも盗賊やってる俺がいるからな。でも俺は悪人からしか盗まない。善なる盗賊だ。と思っている。
まぁ盗まれた方からしたら善とかないか。
夕食は翠鷹がお薦めのハンバーグ屋があると言うのでそこに行ってみる事にした。
メイドさん達には屋敷を出る際に夕飯は外で食べる旨、伝えてあったので、屋敷に戻っても夕食の準備はされていないので問題ない。
店はちょっと入り組んだ所にあるらしく、俺達は路地を進み、裏路地に入り、細い道を抜ける。
「へぇ。こんな細い道にある名店ですか。知る人ぞ知るって感じですね。期待値も上がりますね。」
「そうやな。現地人くらいしかこんな細い道の店には入らへんやろしなぁ。ウチも軍の人間に聞いて行った店なんよ。」
「やっぱりどこにでも食通言うんはいるもんやね。タワーにも1人、街の全部の食事処を回った言うのがいたわ。」
そんな何気ない会話をしながら細い道を進む。
すると、突然前方の曲がり角から外套のフードを目深に被った人が飛び出してきた。
「おっと!」
1番先頭を進む翠鷹は辛うじて避けたが2番目を歩いていた俺はぶつかってしまった。俺もぶつかった来た相手も見事に転んだ。
ぶつかってきた人が手にしていた荷物が朱鮫の足元にまで吹っ飛ぶ。
「すいません。わたくしったら急いでまして。」
「いや、こちらこそぶつかって悪かったな。」
俺は立ち上がり、ぶつかって来た相手に手を差し出す。
外套のフードが外れ如何にもお嬢様と言った雰囲気の縦巻ロールの髪をした娘だった。華奢な手を握り立たせてやるとぶつかって来た娘は荷物を探す。
「荷物が!わたくしの荷物は?」
「荷物ってこれやろ?」
朱鮫が風呂敷に包まれた荷物を拾ってやり、手渡そうとするとハラリと風呂敷が捲れた。
そこにあったのは紛れもなくあのオークションで出品されていた野鳥を呼ぶベルであった。




