382話 甲蟲人:蠅2
ミラが鑑定してくれたように茶牛に渡したバトルハンマーの能力は格別だった。
なんせ指定した範囲内に指定した大きさの地震を意図的に起こせるようで、ケイル王国兵士やララ法国兵士には影響が出ないように前方の敵の足元だけを揺らし、そのバランスを崩してしまう。
最前線にいる俺と翠鷹も範囲内にはいるものの、茶牛が大声で
「アースクエイクぅ!」
と叫ぶのでそれに合わせて跳躍する事で地震の被害からは逃れられている。
着地と同時にバランスを崩した蟻の甲蟲人に斬りかかる。
翠鷹に渡した細剣の方も有用なようで
「スパークショット!」
と突きを放てば前方の敵に電撃が走りその身を痺れさせるようだ。
痺れたところを的確に首の下を狙って首を刎ねていく翠鷹。
あれは電撃耐性でも無い限り防ぎようがない。身内だと耐えられるのは金獅子くらいだろう。アイツは獣神の加護で雷属性を持ってるからな。
そんな頼もしい2人に負けないように俺も両手に持ったナイフをひっきりなしに振るっている。
まずは邪魔な長剣を持つ腕を斬り飛ばし、噛みつきを行おうとする蟻の首元にナイフを走らせる。
やはり節の部分は外骨格と違って刃の入りがいい。
時たま右腕を失ってから空手の左腕を振り下ろしてくる蟻の姿もあるが、危なげなくナイフで受け止めて左腕も付け根から切断してやる。
今俺はアダマンタイト製のナイフを使っているが、1度だけ右手に持ったナイフの刃を噛まれてしまった。
その時はびくともせず、左手のナイフで首を切り落としてからどうにか引き抜いた。
蟻に対しては1番注意すべきは手にした長剣ではなくその強靱な顎であると再認識したよ。
普通の鋼なら折れ曲がっていただろう噛みつきにも耐えるのはさすがアダマンタイト製だけはある。
そんな感じで王化せずとも充分戦えていた。
が、如何せん敵の数が多い。
王化して一気に攻めるべきか悩みどころだ。
ひとまずはまだ王化はしないでおくか。
ヨルジュニアも善戦している。
黒炎を吐いては蟻を丸焼けにし、黒雷を放っては蟻を黒焦げにする。
小さくても充分な戦力である。
連れてきて正解だな。
ケイル王国兵士にララ法国兵士も善戦しているようだし、もう少し数を減らしてから王化する事にしよう。
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旋風矢に変えてからは精霊王の攻撃も面白いように当たった。
速度重視のため、火炎矢のように着弾後燃え上がらせるような副次効果はないものの、着実にダメージは蓄積しているだろう。
「YoYo!思ったより弓矢が厄介。正解が分からねぇぜ。でもすぐさま再開するぜオレっちの攻撃ターン!」
先程から滞空状態からの急降下で獣王、仁王が狙われていた。
鬼王もそれに合わせて蹴りを放つがどうも自分に向かってくるよりも他者を狙われた時の迎撃は難しいらしく、蹴り足は空を切る。
甲蟲人:蠅の攻撃を避けるためにすでに3枚の障壁を展開してしまった仁王。残りは1枚だけ。これは精霊王が狙われた時の為に温存しておきたい。
が、そんな事を考えていた隙を突いて甲蟲人:蠅が仁王に襲いかかる。
ウォーハンマーのピック方向での強烈なスイングを脇腹に受けた仁王は吹き飛ばされてしまう。
しかも攻撃を受けた箇所の王鎧が砕けていた。相当な衝撃出会った事が窺える。
しかし地に降りた甲蟲人:蠅に獣王が跳びかかった。
「断頭斬!」
惜しい。ウォーハンマーで受けられてしまう。しかし獣王の狙いは回避ではなく受け止めさせる事にあった。
「今だ!紫鬼!やれ!」
音も無く甲蟲人:蠅に近寄っていた鬼王が駆ける。
「鬼蹴!」
見事なミドルキックが獣王の攻撃を受けるために両腕を掲げていて、空いていた腹部に突き刺さる。
吹き飛ぶ甲蟲人:蠅。しかし鬼王の攻撃は止まらない。
吹き飛んだ甲蟲人:蠅をダッシュで追うとその頭部を蹴り上げる。
「鬼蹴!」
妖気を乗せた攻撃は深く浸透し、より重篤なダメージを与える。
蹴り上げられた甲蟲人:蠅に向かって精霊王が放った旋風矢が3本立て続けに突き刺さる。
さらに跳躍した獣王が大剣を振り下ろす。
「雷撃断頭斬!」
連撃を受けて撃墜される甲蟲人:蠅。
相当なダメージを受けたはずだがその声音はまだ明るい。
「Yo!Yo!見事な連携。参ったぜ。神経質なオレっちには耐えられん失計。計画の見直しは早計?関係ねぇぜ。休憩はまだ先だ。」
また訳の分からない事を呟くと空中へと飛び立つ。
そこから急降下して精霊王へと迫る。
「旋風矢!」
3本の風の矢で精霊王も迎撃するもその勢いは衰えない。
ウォーハンマーによる打撃が精霊王に迫る中、復帰してきた仁王が叫ぶ。
「障壁!」
ガチンッ!
全体重に降下の力も加わった強力な一撃であったが、見事に仁王の障壁が受け止めていた。
「喰らえ!風刃!」
まだ距離がある中、仁王がバトルアックスを振るうと風の刃が放たれる。
甲蟲人:蠅に当たるも外骨格に当たり霧散する風の刃。
だが意識を仁王に向ける事には成功。
背後から鬼王が素早く迫り回し蹴りを放つ。
「どりゃぁぁぁあ!」
仁王に気を取られていた甲蟲人:蠅は頭部に打撃を受けて再び吹き飛ばされる。
終始押しているように見える4人であるが、まだ甲蟲人:蠅の余裕が消えない。
その事に少し不気味さを感じながらも猛攻を仕掛ける4人であった。




