380話 甲蟲人:蟻13
「親愛なる聖神様、その庇護により目の前の傷つきし者達に癒しの奇跡を起こし給え。エリアヒーリング!」
緑鳥が後方に下がった負傷者達へと回復の聖術をかける。
聖王たる緑鳥が放つエリアヒーリングは1度に一万の兵士を癒すほどの大規模なものである。
回復された兵士達は自分の身に何が起きたのがきちんと把握は出来ていなかった。だが、まだ戦えるようになった。それだけを確認すると街を護るという信念に基づき、再び前線へと走って行く。
代わりに傷ついた兵士達がひっきりなしに後方に下がってくる為、緑鳥も回復の聖術を連発する事となった。
「ワイらは蟻達の足止めやな。足止めっちゅうと氷属性やな。藍鷲殿もいけるか?」
「はい。問題ありません。」
「ほな、いきますか。アイスショット!アイスショット!!アイスショット!!!」
先の戦いにて折られた朱鮫の杖も補修されて元通りである。そんな杖の先端に魔方陣が描かれると数百を超える魔法の氷が甲蟲人:蟻達へと向かう。
もちろん前線での戦闘を行っているケイル王国兵士やララ法国兵士には当たらないように敵後方を狙って放たれている。
「敵を凍らせる。切り裂くのではなく凍らせるイメージで。フロストハリケーン!」
ウィンドカッターとは違い敵を切り裂くのではなく凍らせるイメージで作り上げた魔法である。
竜巻の中は極寒の吹雪が舞い踊る。
そんな竜巻が敵後方にいきなり出現した事で一時的にケイル王国兵士とララ法国兵士に動揺が走る。
敵の新たな攻撃かと勘違いされたのだ。しかし、竜巻はこちらに向かってくるでもなく敵の中を進み、次々と甲蟲人:蟻を凍らせて行くことで神徒による攻撃だと認識され、動揺も収まった。
「まだまだ行くでぇ!アイスショット!アイスショット!!アイスショット!!!」
「はい!フロストハリケーン!」
朱鮫による魔術と藍鷲による魔法が戦場を蹂躙していく。
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戦場に三本目の竜巻が発生した頃になってようやく銀狼と蒼龍が白狐の姿を捕らえた。
「ったく白狐はいつも先走り過ぎなんだよ。」
「であるな。」
銀狼と蒼龍が白狐に対する愚痴を溢す中、白狐も銀狼達を発見した。
「おや?こちらにはお二人ですか?てっきりクロさんが来てくれるかと思ったんですけど。」
「オレ達で悪かったな。で、戦況の方はどうなんだ?」
白狐の言うことなど構わず銀狼が問いかける。
「思ったよりもケイル王国の兵士達が頑張ってくれてますね。紫鬼さんの指導の賜物でしょうかね。」
そんな事を話しつつ、迫り来る甲蟲人:蟻を斬り伏せる白狐。
合流した銀狼と蒼龍も早速戦闘に加わる。
「ララ法国の兵士とは…装備が違うから見た目で分かるな。」
銀狼の言う通りケイル王国の兵士はライトアーマーなどの軽装に対してララ法国の兵士達はフルプレートアマーなどの重装備の為、見た目で判別が出来た。
「うむ。見た所ララ法国の兵士達もそれなりに蟻を撃退出来ているようであるな。」
戦場を見渡した蒼龍も言う。
「えぇ。これなら易々と前線崩壊はしないでしょうね。所々押され気味の場所もあるので手分けしてフォローしていきましょう。」
「オッケー。」
「うむ。承知。」
そこから3人は散開して甲蟲人:蟻と戦うケイル王国兵士とララ法国兵士のフォローに回った。
もう何度となく戦った相手だけに闘い方も洗練されてきた。
まずは武器を持つ右腕を不能にし、噛みつきを行おうとする甲蟲人:蟻の首を次々と刎ねていく。
周りからは
「すげぇ。」
「なんて凄まじい攻防なんだ。」
「何者だ?」
「あれが神徒か?」
などとどよめきが起こる。その度に銀狼などが
「戦いに集中しろ!蟻の数はまだまだ多いぞ!君達の働きで戦況は変わるんだ!頼むぞ!」
などと声を上げる。
「「「「おー!」」」」
その度に怒号が戦場に響くのであった。
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北側に三本目の竜巻が発生した。
あれは藍鷲の魔法だな。あれだけの規模ともなると相当魔力消費も激しいだろう。終戦まで保つのか心配ではあるが朱鮫もいるし大丈夫だと信じよう。
「あちらさんも張り切ってますなぁ。したらウチらもそろそろ気張りましょうか。」
「数が多いからな。王化が保つかが微妙なところだな。まずは王化せずに行こうか。」
翠鷹がヤル気を出す中、俺は2人に言った。
「おぅ。アースクエイクは王化しなくても使えるから問題ないだぁよぉ。」
「アースクエイク?なんだそれ?」
和牛の言葉に引っかかった。
「このバトルハンマーで地震を起こす技に名前を付けただよぉ。」
「あぁ。なるほど。地割れの方は?」
「ん?地割れは危ないからまだ使った事がねぇだぁよぉ。地面が割れたら皆困るべさぁ。」
「そうか。試してないならぶっつけ本番は止めとこう。地震起こす時には言ってくれ。跳んで避けるから。」
「儂がアースクエイクって叫んだら跳んでくれやぁ。」
「分かった。んじゃ行こうか。」
俺達3人も甲蟲人:蟻に向けて駆け出した。
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王化して一気に甲蟲人:蟻を蹴散らしながら後方に向かった獣王達は後方に控える1体の魔将の姿を捕らえた。
巨大なウォーハンマーに腰掛けて戦場を見渡している。
「居たぞ!」
その姿を見つけた鬼王が叫ぶ。
駆け寄る4人に対して、魔将はゆっくりと立ち上がり巨大なウォーハンマーを担いだ。
「Yeah!来たかニンゲンども!」
驚くぐらい明るい声で喋り出した。




