379話 甲蟲人:蟻12
ケイル王国へはまずはララ法国の軍勢と翠鷹を送り出し、残りのメンバーは集まってからゲートで向かった。
紫鬼からの通信通り、ケイル王国の東門付近に甲蟲人:蟻の集団が、数は二万近くいるだろうか。
合流しやすいようにか、紫鬼と翠鷹は門から出て前線に向かった辺りに固まって甲蟲人:蟻と戦っていた。
まだ王化はしていないようだ。
「む?来たか。今回も数が多い。王化は敵将が出てくるまで控えようと翠鷹と話しておったんじゃ。」
「緑鳥はん、前線の後方に負傷者を纏めてあります。回復の聖術をお願いできますか?」
翠鷹が緑鳥に言う。
「はい。お任せ下さい。」
「あ、待て緑鳥。今回は蟻が多いようだから後方で朱鮫達と負傷者の対応を頼む。兵士が敗れて街にまで蟻が押し寄せるのは回避せねばな。」
金獅子の言う通り、今回は前線の後方に緑鳥、朱鮫、藍鷲は待機する事になった。
「では障壁を張ろう。王化。仁王。」
碧鰐が声を上げると、右手人差しのリングにはまる王玉から碧色の煙を吐き出しその身に纏う。
その煙は体に吸い込まれるように消えていき、煙が晴れると鰐を想わせるフルフェイスの兜に碧色の王鎧を身に着けた仁王の姿となる。
そのまま碧鰐は緑鳥達の四方を3枚ずつの障壁で囲む。
「碧鰐が王化したか。なら敵将のもとへは俺様と碧鰐で向かおう。」
「ケイル王国はワシの担当じゃ。もちろんワシも行こう」
金獅子が言うと被せるように紫鬼が言った。
「もう1人くらいいた方が良いだろう。ワタシも向かおう。」
最後に紺馬が名乗り出た。これで敵将に向かう4名が決定した。
「敵後方へは南側から向かってぇなぁ。ワイと藍鷲殿は北側の蟻達に魔術をぶちかますさかいに。」
「分かった。南側だな。」
朱鮫の申し出に紫鬼が答えた。
「では残るメンバーは押され気味の兵士達のフォローに回ると言う事で。王化のタイミングは各々の判断でいきましょう。」
白狐はそう言うと1人颯爽と前線へと駆けて行った。
「ワイらは早速王化して魔術ぶっ放すかいな。王化。法王。」
朱鮫が声を上げると、左手人差しのリングにはまる朱色の王玉から朱色の煙を吐き出しその身に纏う。
その煙は体に吸い込まれるように消えていき、煙が晴れると鮫を想わせる朱色のフルフェイスの兜に、同じく朱色の王鎧を身に着けた法王の姿となる。
「ですね。王化。魔王。」
藍鷲が言うなり左手小指にしたリングにはまった藍色の石から、藍色の煙が立ち上り藍鷲の姿を覆い隠す。
次の瞬間、煙は藍鷲の体に吸い込まれるように消えていき、残ったのはどことなく鷲を思わせる藍色のフルフェイスの兜と、同じく藍色の全身鎧に身を包んだ魔王の姿となる。
「わたしも聖術の精度を上げましょう。王化。聖王!」
緑鳥が王化し、額に輝くサークレットにはまる緑色の王玉から緑色の煙を吐き出しその身に纏う。
その煙は体に吸い込まれるように消えていき、煙が晴れると緑色の鳥をイメージさせるフルフェイスの兜に緑色の王鎧を身に着けた聖王の姿となる。
「んじゃ北側は任せたぞ。王化!獣王!」
金獅子が声を上げると、右手中指のリングにはまる金色の王玉から金色の煙を吐き出しその身に纏う。
次の瞬間、その煙が吸い込まれるように体の中に消えていき、煙が晴れると獅子を想起させるフルフェイスの兜に金色に輝く王鎧を身に着けた獣王の姿となり、碧鰐と共に敵後方に向けて駆け出した。
「ワシも。王化!鬼王!剛鬼!」
紫鬼が王化し、右腕にしたバングルにはまる王玉から赤紫色の煙を吐き出しその身に纏う。
その煙刃体に吸い込まれるように消えていき、煙が晴れると額に2本の角を持つ鬼を象った赤紫色のフルフェイスの兜に赤紫色の王鎧を身に着けた鬼王の姿となり駆け出す。
「王化!精霊王!」
紺馬が王化し、左手薬指のリングにはまる王玉から紺色の煙を吐き出しその身に纏う。
その煙は体に吸い込まれるように消えていき、煙が晴れると馬を象った紺色のフルフェイスの兜に紺色に輝く王鎧を身に着けた精霊王の姿となり紫鬼の後を追った。
残されたのは銀狼、蒼龍、翠鷹、茶牛に俺。それと連れてきたヨルジュニアだ。
「んじゃ俺達も北側は魔術チームに任せて中央と南側の兵士達のフォローに向かおう。」
「オレと蒼龍で中央に向かおう。白狐もそちらに向かったしな。」
俺が言うと銀狼が役割分担を申し出てきた。特に反論はない。
「んじゃそうするか。翠鷹、茶牛、頼むな。」
「ウチはララ法国軍の指揮も任されとりますからあまり奥へは向かえまへんよ。」
「奥を目指さなくてもいいだろぉ。敵将はあの4人に任せて儂らは前線の敵を押さえるのが仕事じゃろうてなぁ。」
「だな。あまり奥まで行かないように気を付けよう。前線を護るのはケイル王国とララ法国の混成軍だ。蟻に抜けられない事だけを考えよう。」
「だなぁ。」
「はいさ。」
銀狼が言って皆が頷く。
そのまま銀狼と蒼龍は前線の中央部に向けて駆けて行った。
さて、敵の数が多いから最初は王化せずに様子見だな。
俺は愛用の二振りのナイフを手に持つ。いつも通り右手は順手、左手は逆手でナイフを握る。
「んじゃ行くか!」
「おぉー!」
「はいさー!」
俺達3人と1匹も南側の蟻たちに向けて駆け出すのだった。




