377話 甲蟲人:襲来4
ビオデルテ達が今日もいつもと変わらぬ訓練を開始して午前中が過ぎた頃、辺りを警戒していた兵士の1人が異変に気が付いた。
「街の東の荒野に黒い靄がかかったように見えた。」
最初に異変に気付いた兵士は後からこう言った。
「その靄が晴れたと思ったらいきなり黒い兵士達が荒野一帯に広がっていた。」
邪神はいつでもどこにでも亜空間との門を開けると言っていたが、その門が開くときを目撃したのはこの兵士が初めてだった。
どうやら黒い靄が門のようだ。
その黒い軍勢を見つけた兵士の動きは速かった。
すぐに街の警報ベルを鳴らしに走ったのだ。
この警報ベルは紫鬼の考案である。甲蟲人が現れた際には一刻も早く隣のララ法国から人員を派遣して貰わなくては、とてもではないがケイル王国の兵力だけでは保たない。
その為、紫鬼がどこにいても甲蟲人の接近を感知出来るようにして、速攻で通信用水晶で緑鳥に連絡が取れるようにしたのだ。
その取り決め通りに紫鬼は緑鳥へと連絡し、優先してララ法国の翠鷹へと甲蟲人襲来の連絡が行った。
ララ法国周辺の安全確認が出来次第、ララ法国から兵士が派遣される手筈となった。
しかし、ケイル王国としてはこのまま甲蟲人の進行をララ法国の兵士が到着するまで待つわけにもいかず、先遣隊として自国の兵士達を前線に送り出すことにしたのだ。
もちろん、ビオデルテ達もその先遣隊に含まれており、初めての甲蟲人との戦闘が開始される事となった。
紫鬼との訓練通りに4人一組と鳴った兵士達が街を護るように横一列に整列した。
ビオデルテ達は列の中心からやや南寄りの東門付近への配属となった。
「いよいよだな。マジガラント、盾の準備はいいか?」
「あぁ。バッチリだ。任せとけ。」
ビオデルテの最終確認にマジガラントが答える。
「ここからじゃまだハッキリとは見えないけど、ホントに昆虫が人型になってるようね。」
「あぁ。そうだな。黒光りしてやがる。」
ベールデールの呟きにガルドビジオが反応する。
「来るぞ。僕達も前進しよう。」
「「「おー!」」」
周りに合わせてビオデルテ達も前進を始める。
接敵まであと500m程度の距離になっている。
街までは約3kmほど離れている。
もしも突破されてもすぐには街には到着出来まい。
それより先にララ法国からの援軍が来ることを祈るのみである。
接敵まであと50m、ついに甲蟲人の姿がハッキリと見えてきた。
甲蟲人:蟻の群れは一糸乱れぬ様相で進行を続ける。
まるでこちらの様子など気にする気配もない。
ひたすら前進あるのみ。敵が居れば斬り伏せるのみ。そんな雰囲気がひしひしと伝わる。
甲蟲人:蟻は一様に右手に長剣を持ち、片手は空だ。
胸から生える6本の足、うち2本は脚として進化して2本足での歩行に用いられており、1番頭よりの2本の足は腕に変わり長剣を持つ。
中間に生えた2本の足は何の役目もなく、ただただ奇妙にうねっている。
あの足では武器を持つことは出来ないだろう。1番普通の蟻を思わせる足である。
腹の部分に当たる大きな尻を後ろに備え、その中には毒腺を持つ。
胸と腹の節を狙うには若干腹が後ろにある為、難しい作りになっている。
頭に生えた触覚とひげは忙しなく動き続けている。
口元は蟻そのもので、大顎を開いては閉じ、閉じては開くを繰り返す。
「うぇ。近くで見ると余計にキモいな。」
「あまり顔を注視しない方がいいな。気持ち悪くて吐きそうだ。」
マジガラントの呟きにビオデルテが警告を発する。
接敵まであと10m。突如として甲蟲人:蟻達が走り出す。
「盾を構えろ!決して抜けられるんじゃないぞ!ララ法国からの援軍も来る!それまでは耐えるんだ!!」
将軍の通る声が辺りに響く。
「よし、マジガラント、頼んだぞ!」
「おぅ!任せとけ!」
甲蟲人:蟻がすぐ傍までやって来て長剣を振るう。
マジガラントは大盾を構えてこれを受け止める。
甲蟲人:蟻の顔がアップに迫る。
「うぇ、キモいわ。」
ベールデールはそんな呟きを溢しながらもマジガラントの背後から飛び出て甲蟲人:蟻に対して槍を突き出す。
ガキン!
外骨格に当たった槍は弾かれてしまう。
「なっ!?ここまで硬いの?!」
「そりゃー!」
マジガラントの背後からガルドビジオも飛び出して槍を突く。
空の片手を狙った刺突であったが、その腕に弾かれる。
「硬いな。紫鬼さんの言う通りだ。」
ガルドビジオも呟く。
「ならやっぱり節を狙うしかないな!」
マジガラントの背後からビオデルテも飛び出して甲蟲人:蟻の長剣を持つ腕を狙って剣を振るう。
甲蟲人:蟻の腕は人のそれとは事なり、基節、腿節、脛節、跗節と関節部が1つ多い。
ビオデルテは脛節と跗節の間、人で言う手首辺りを狙って剣を振るう。
ガキン!
しかし外骨格に阻まれて切断には至らない。
そこでマジガラントが盾を構えたまま、空いた右腕でバトルハンマーで斬りつける。
ガキン!
甲蟲人:蟻も空いた片手を掲げてこれを受け止める。
盾を持たない理由が分かった。外骨格が強固な為に盾を必要としないのだ。
その後も甲蟲人:蟻の斬撃をマジガラントが大盾で受け止め、背後からベールデールにガルドビジオ、そしてビオデルテが飛び出して攻撃を加える。
ビオデルテ達にとって長い戦いが始まったのであった。




